13-42
撮影が始まると、まるでタイミングを合わせたかのように、地方車から軽快な音楽が流れ始めた。次のチームが、東側から元気よく踊りながら近づいてきた。
「あっ」
私は思わず声を上げた。踊り子の中に、首からメダルを下げている人が何人もいる。
「メダルを掛けてもらっているわ」
ルークも興味深そうに眺めている。
「あれは何?」
「審査員賞の一つよ」
私は昨日教えてもらったことを思い出しながら説明した。
「演舞中に、特に笑顔や踊りが素晴らしい踊り子を審査員が選ぶの。選ばれた人には、演舞の途中でスタッフが近づいて、その場で首にメダルを掛けるそうよ」
「踊っている途中に?」
ルークは驚いたように目を丸くした。
「ええ。それも、このお祭りならではなの」
「すごいね」
ルークは感心したように頷く。その間も踊り子たちは笑顔を絶やさず、鳴子を鳴らしながら演舞を続けていた。
「わぁ……。あの人もメダルをもらっているわ」
私は自然と演舞へ見入ってしまう。色鮮やかな衣装が夜風に揺れ、踊り子たちの笑顔が照明に照らされて輝いている。軽快な鳴子の音が響き渡り、地方車から流れる音楽と一つになって、追手筋を鮮やかに彩っていた。さっきまで意識していた撮影のことなど、もうすっかり頭から消えていた。私は夢中になって拍手を送り、その隣ではルークも目を輝かせながら演舞を見つめ、楽しそうに笑っていた。
「このチームもすごいね」
「振り付けがきれい」
「衣装も素敵です」
保木君とアレクも自然に会話を交わす。スタッフは、その何気ない様子を静かに撮影していた。演舞が終わると、ディレクターが満足そうに頷く。
「ありがとうございました。とても自然な表情が撮れました」
「お役に立てたなら良かったです」
アレクが答える。
「こちらこそ、ありがとうございます」
ディレクターは続けてアレクへ向き直った。
「この後、地方車を背景に短いコメントだけお願いできますか」
「承知しました」
アレクは落ち着いた笑顔で返事をした。その姿を見ながら、私は改めて思う。昼間のアレクは、誰とでも気さくに話し、よく笑い、場を明るくする人という印象だった。けれど、仕事になると雰囲気が一変する。声の調子も穏やかで、一つひとつの言葉を丁寧に選びながら話している。その落ち着いた姿は、どこかクラウスさんに重なって見えた。
「やっぱり、兄弟なのね」
私が小さく呟くと、ルークが首を傾げた。
「クラウス?」
「ええ。雰囲気がそっくり」
その言葉が聞こえたのだろう。アレクがこちらを振り返り、少し照れくさそうに笑った。
「兄には、昔からよく似ていると言われます」
「ご本人も認めるのね」
「はい」
その穏やかな笑顔に、私も思わず笑みを返した。地方車から響く音楽と、観客席の歓声。祭りの熱気に包まれながら、ベガ中央百貨店のカメラは、楽しそうに笑い合う私たちの姿も一緒に映し続けていた。
演舞が終わると、会場は大きな拍手に包まれた。私もルークも、保木君もアレクも、自然と手を叩いていた。
「すごかったね」
ルークが興奮した様子で笑う。
「みんな最後まで笑顔だった」
「ええ。それに、メダルをもらった踊り子さんたちも、本当に嬉しそうだったわ」
私がそう答えた時だった。
「ただいま」
聞き慣れた声がして、私は振り返った。
「あっ、お兄ちゃん」
兄が袋を抱えて、ユリウスさんと一緒に戻ってきた。二人とも少し汗をかいている。
「お待たせ」
ユリウスさんが穏やかに笑った。
「屋台が思った以上に混んでいてね」
「結構並んだよ」
兄も苦笑しながら席へ戻ってくる。
「やっぱり人気なんだね」
ルークが言うと、兄は大きく頷いた。
「冷たい飲み物を買う人が多かったよ。暑いからね」
そう言って袋を開き、一人ひとりへ飲み物を配っていく。
「はい、紫乙」
「ありがとう」
受け取ったペットボトルは、手が驚くほど冷たかった。私は思わず頬へ当てる。
「気持ちいい……」
火照っていた肌が一気に冷やされ、思わず笑みがこぼれる。
「そうなると思ってね。凍ったものを選んできた」
ラベルを見ると、確かに中にはまだ小さな氷が残っていた。
「嬉しい」
私は今度は首筋へ当てる。冷たさが身体へじんわりと伝わり、さっきまでの暑さが少し和らいだ。
「生き返るわ」
その様子を見て、みんなが笑う。ルークもスポーツドリンクを受け取り、嬉しそうに頬へ当てていた。
「これ、最高だね」
「さっきお前が言っていただろう。凍ったペットボトルを首へ当てている人が羨ましいって」
「お兄ちゃん。聞いていたの?」
「もちろん」
その一言が嬉しくて、私は照れ笑いを浮かべた。
「ありがとう」
保木君も冷たいお茶を受け取る。
「ありがとうございます」
アレクには炭酸水が渡された。
「助かります」
全員の飲み物が行き渡ると、それぞれペットボトルを開ける。キャップを回す音が重なった。私は冷えたお茶をゆっくり口へ含む。
「おいしい……」
さっきまでぬるくなっていたお茶とはまったく違う。冷たさが喉を通り抜け、身体の内側から熱を奪っていくようだった。
「やっぱり冷たい飲み物は違うね」
ルークも満足そうに頷いている。
「うん」
私も笑顔で返事をした。
「これなら、あと一時間半頑張れそう」
「あと一時間じゃなかったですか?」
保木君が時計を見ながら笑う。
「あっ、本当」
私も腕時計を見る。気づけば時刻は20時半を少し過ぎていた。演舞を見ていると、本当に時間が経つのが早い。
「まだまだ楽しめるわね」
「そうだね」
ユリウスさんも穏やかに頷く。
「これから人気チームも続くそうだから」
その言葉に、私たちは再び追手筋へ視線を向けた。目の前では次々に次のチームが流れてきて、観客席にも期待に満ちた空気が広がっていく。私は冷えたペットボトルを両手で包み込みながら、小さく息をついた。昼間の暑さはまだ残っている。それでも、こうして仲間たちと笑い合いながら見る高知の祭りは、不思議なくらい心地よく感じられた。そして、次の地方車から流れ始めた音楽に合わせるように、私たちは再び拍手を送りながら、新たな演舞を迎えた。




