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私はペットボトルのお茶を口へ運ぶ。一口飲んで、小さく笑った。
「あら、お茶までぬるくなっちゃった」
外で過ごしているのだから、それも無理はない。周りを見渡すと、それぞれ暑さ対策を工夫している人が多かった。凍らせたペットボトルのお茶を持ってきている人。まだ中身が凍ったままなので飲めず、その代わり首筋や頬へ当てて身体を冷やしている人もいる。
「いいなぁ……」
私は思わず羨ましそうに呟いた。
「あれ、気持ちよさそう」
ルークも同じ方向を見て笑う。
「僕も次は凍らせた飲み物にしようかな」
「私も欲しくなってきたわ」
私は空になりかけたペットボトルを見つめる。
「ルーク、私、飲み物を買ってくるわ。みんなとここで待っていて」
そう言って立ち上がろうとした、その時だった。
「紫乙さん」
ユリウスさんが私より先に立ち上がる。それと同時に、兄も席を離れた。
「僕たちが行ってくるよ」
「えっ?」
思わず二人を見上げる。
「でも……」
「紫乙さんは腰もあるだろう」
ユリウスさんが優しく笑う。
「今日は座っていて。屋台は結構混んでいるみたいだからね。僕たちで買ってくるよ」
「いいの?」
「もちろん」
兄は笑顔のまま答えた。
「何が飲みたい?」
「冷たいお茶がいいわ」
「分かった」
ユリウスさんも微笑む。
「ルークたちは?」
「僕はスポーツドリンクがいい」
ルークが答えると、保木君とアレクもそれぞれ希望を伝えた。
「じゃあ、行ってくるね」
「すぐ戻る」
二人は軽く手を振ると、人で賑わう屋台の並ぶ方へ歩いていった。その後ろ姿を見送りながら、私は小さく笑う。
「本当に優しいわね」
「うん」
ルークも頷いた。
「みんな、紫乙のことを大事に思ってるんだよ」
その言葉が少し照れくさくて、私は静かに笑いながら、再び追手筋へ目を向けた。ちょうど次のチームの地方車が、夜の街へ力強い音楽を響かせながら近づいてきていた。
「紫乙さん」
隣に座るアレクが、穏やかな声で話しかけてきた。昼間は誰よりも元気で行動的な印象だったのに、今夜は落ち着いた雰囲気をまとっている。本来のアレクは、こういう穏やかで物静かな人なのかもしれない。
「今、ベガ中央百貨店の撮影がこちらを映しています」
「えっ?」
私は思わず空を見上げた。もちろん、地上に撮影スタッフの姿はない。ベガ中央百貨店の撮影は、上空を飛行している宇宙船から行われているのだ。高性能カメラで演舞場全体を撮影しながら、必要に応じてズームで人物を映しているらしい。
「体験プログラムの撮影は昨日で終わりましたが、今日は僕の取材映像を撮っているそうです」
アレクは落ち着いた口調で続けた。
「明日の宣伝映像で使用するため、祭りを楽しんでいる様子も収録しているそうですよ。紫乙さんたちも一緒に映っています」
「私たちも?」
「はい。先ほど連絡が入りました」
私は思わず笑ってしまった。
「全然気づかなかったわ」
「かなり高い位置から撮影していますから」
そう言われて空を見上げても、夜空に溶け込むように飛行している宇宙船の姿は見えない。それでも、今この瞬間も撮影されていると思うと、少しだけ緊張してしまう。
「明日の宣伝に使われるなら、もう少しちゃんとしておけばよかったかしら」
そう言いながら、私は冷却シートで額や首筋の汗をそっと拭いた。そして、Tシャツの襟元を軽く整え、髪も指先で直す。その様子を見たルークが、くすりと笑った。
「紫乙、急に身だしなみを気にし始めたね」
「だって、映るんでしょう?」
「そのままでも十分だと思うけど」
「ありがとう。でも、せっかくなら少しでもきれいに映りたいもの」
私が照れ笑いを浮かべると、保木君も笑顔で頷いた。
「自然な笑顔が一番ですよ」
アレクも穏やかに微笑む。
「皆さん、いつもどおり祭りを楽しんでください。その様子を撮りたいそうです」
私は小さく頷き、再び追手筋へ視線を向けた。夜の演舞は、まだまだ続いている。その様子を見ていた保木君も、穏やかに微笑んだ。
「宣伝映像になりますからね。いい記念にもなりますよ」
「そうね」
私は少し照れ笑いを浮かべた。すると、その時だった。
「失礼いたします」
背後から男性の声が聞こえた。振り返ると、アレクがすぐに立ち上がり、「お疲れさまです」と声を掛けている。その様子から、ベガ中央百貨店の関係者なのだとすぐに分かった。
「ベガ中央百貨店です。本日はご協力いただき、ありがとうございます」
「あ、こんばんは」
私も立ち上がって会釈をする。
「あら、こちらにもいらしていたんですね」
男性は笑顔で頷いた。
「はい。僕は撮影チームのディレクターをしております」
「そうだったんですね」
アレクが補足するように説明してくれた。
「撮影は宇宙船から行っていますが、ディレクターや数名のスタッフは指定席で演舞を見ながら、撮影内容の確認や指示を出しているんです」
「なるほど」
だから、地上にも関係者がいたのか。私は納得して頷いた。ディレクターは丁寧に頭を下げる。
「お願いがあるのですが、皆さんが演舞をご覧になっている様子を、少しだけ撮影させていただいてもよろしいでしょうか」
「もちろんです」
アレクが穏やかに答えた。
「ありがとうございます」
ディレクターは一礼すると、隣にいたカメラ担当の男性へ目配せをした。
「こちらで撮影します」
男性はそう言って、スマートフォンによく似た薄型の撮影機器を構える。見た目はスマートフォンそのものだが、ベガ中央百貨店が使用している高性能の撮影機器なのだろう。ディレクターは私たちへ向き直り、笑顔で説明した。
「皆さんは普段どおり、お祭りを楽しんでいただくだけで結構です。カメラは意識なさらなくて大丈夫ですよ」
「分かりました」
私は少し緊張しながら頷いた。




