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ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


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13-41

 私はペットボトルのお茶を口へ運ぶ。一口飲んで、小さく笑った。


「あら、お茶までぬるくなっちゃった」


 外で過ごしているのだから、それも無理はない。周りを見渡すと、それぞれ暑さ対策を工夫している人が多かった。凍らせたペットボトルのお茶を持ってきている人。まだ中身が凍ったままなので飲めず、その代わり首筋や頬へ当てて身体を冷やしている人もいる。


「いいなぁ……」


 私は思わず羨ましそうに呟いた。


「あれ、気持ちよさそう」


 ルークも同じ方向を見て笑う。


「僕も次は凍らせた飲み物にしようかな」

「私も欲しくなってきたわ」


 私は空になりかけたペットボトルを見つめる。


「ルーク、私、飲み物を買ってくるわ。みんなとここで待っていて」


 そう言って立ち上がろうとした、その時だった。


「紫乙さん」


 ユリウスさんが私より先に立ち上がる。それと同時に、兄も席を離れた。


「僕たちが行ってくるよ」

「えっ?」


 思わず二人を見上げる。


「でも……」

「紫乙さんは腰もあるだろう」


 ユリウスさんが優しく笑う。


「今日は座っていて。屋台は結構混んでいるみたいだからね。僕たちで買ってくるよ」

「いいの?」

「もちろん」


 兄は笑顔のまま答えた。


「何が飲みたい?」

「冷たいお茶がいいわ」

「分かった」


 ユリウスさんも微笑む。


「ルークたちは?」

「僕はスポーツドリンクがいい」


 ルークが答えると、保木君とアレクもそれぞれ希望を伝えた。


「じゃあ、行ってくるね」

「すぐ戻る」


 二人は軽く手を振ると、人で賑わう屋台の並ぶ方へ歩いていった。その後ろ姿を見送りながら、私は小さく笑う。


「本当に優しいわね」

「うん」


 ルークも頷いた。


「みんな、紫乙のことを大事に思ってるんだよ」


 その言葉が少し照れくさくて、私は静かに笑いながら、再び追手筋へ目を向けた。ちょうど次のチームの地方車が、夜の街へ力強い音楽を響かせながら近づいてきていた。


「紫乙さん」


 隣に座るアレクが、穏やかな声で話しかけてきた。昼間は誰よりも元気で行動的な印象だったのに、今夜は落ち着いた雰囲気をまとっている。本来のアレクは、こういう穏やかで物静かな人なのかもしれない。


「今、ベガ中央百貨店の撮影がこちらを映しています」

「えっ?」


 私は思わず空を見上げた。もちろん、地上に撮影スタッフの姿はない。ベガ中央百貨店の撮影は、上空を飛行している宇宙船から行われているのだ。高性能カメラで演舞場全体を撮影しながら、必要に応じてズームで人物を映しているらしい。


「体験プログラムの撮影は昨日で終わりましたが、今日は僕の取材映像を撮っているそうです」


 アレクは落ち着いた口調で続けた。


「明日の宣伝映像で使用するため、祭りを楽しんでいる様子も収録しているそうですよ。紫乙さんたちも一緒に映っています」

「私たちも?」

「はい。先ほど連絡が入りました」


 私は思わず笑ってしまった。


「全然気づかなかったわ」

「かなり高い位置から撮影していますから」


 そう言われて空を見上げても、夜空に溶け込むように飛行している宇宙船の姿は見えない。それでも、今この瞬間も撮影されていると思うと、少しだけ緊張してしまう。


「明日の宣伝に使われるなら、もう少しちゃんとしておけばよかったかしら」


 そう言いながら、私は冷却シートで額や首筋の汗をそっと拭いた。そして、Tシャツの襟元を軽く整え、髪も指先で直す。その様子を見たルークが、くすりと笑った。


「紫乙、急に身だしなみを気にし始めたね」

「だって、映るんでしょう?」

「そのままでも十分だと思うけど」

「ありがとう。でも、せっかくなら少しでもきれいに映りたいもの」


 私が照れ笑いを浮かべると、保木君も笑顔で頷いた。


「自然な笑顔が一番ですよ」


 アレクも穏やかに微笑む。


「皆さん、いつもどおり祭りを楽しんでください。その様子を撮りたいそうです」


 私は小さく頷き、再び追手筋へ視線を向けた。夜の演舞は、まだまだ続いている。その様子を見ていた保木君も、穏やかに微笑んだ。


「宣伝映像になりますからね。いい記念にもなりますよ」

「そうね」


 私は少し照れ笑いを浮かべた。すると、その時だった。


「失礼いたします」


 背後から男性の声が聞こえた。振り返ると、アレクがすぐに立ち上がり、「お疲れさまです」と声を掛けている。その様子から、ベガ中央百貨店の関係者なのだとすぐに分かった。


「ベガ中央百貨店です。本日はご協力いただき、ありがとうございます」

「あ、こんばんは」


 私も立ち上がって会釈をする。


「あら、こちらにもいらしていたんですね」


 男性は笑顔で頷いた。


「はい。僕は撮影チームのディレクターをしております」

「そうだったんですね」


 アレクが補足するように説明してくれた。


「撮影は宇宙船から行っていますが、ディレクターや数名のスタッフは指定席で演舞を見ながら、撮影内容の確認や指示を出しているんです」

「なるほど」


 だから、地上にも関係者がいたのか。私は納得して頷いた。ディレクターは丁寧に頭を下げる。


「お願いがあるのですが、皆さんが演舞をご覧になっている様子を、少しだけ撮影させていただいてもよろしいでしょうか」

「もちろんです」


 アレクが穏やかに答えた。


「ありがとうございます」


 ディレクターは一礼すると、隣にいたカメラ担当の男性へ目配せをした。


「こちらで撮影します」


 男性はそう言って、スマートフォンによく似た薄型の撮影機器を構える。見た目はスマートフォンそのものだが、ベガ中央百貨店が使用している高性能の撮影機器なのだろう。ディレクターは私たちへ向き直り、笑顔で説明した。


「皆さんは普段どおり、お祭りを楽しんでいただくだけで結構です。カメラは意識なさらなくて大丈夫ですよ」

「分かりました」


 私は少し緊張しながら頷いた。

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