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ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


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175/178

13-38

 17時半。


 ホテルを少し早めに出発した私たちは、よさこい祭りの本部演舞場へ到着した。会場周辺は、すでに祭りの熱気に包まれている。出番を待つ踊り子たちは色鮮やかな衣装に身を包み、最後の確認をしながら笑顔で声を掛け合っていた。その周りでは、大勢の観客やスタッフが行き交い、どこを見ても活気にあふれている。


 演舞が行われる追手筋は車両通行止めとなり、歩道には長く続く観覧席が整然と設置されていた。その光景は圧巻だった。指定席は追手筋の入口から終点近くまで途切れることなく並び、その先には緑豊かな高知城が姿を見せている。周辺には博物館や文学館、天文館もあり、展示を見終えた人たちが次々と会場へ足を運んでくる。街全体が、祭りを中心に一つになっているようだった。


「すごい人ね」


 私は思わず周囲を見回した。


「昨日のコンサートも人が多かったけど、今日は街全体がお祭りって感じだわ」

「本当にそうだね」


 ルークも目を輝かせながら頷く。


「どこを見ても楽しそうな人ばかりだ」


 兄も笑顔で辺りを見渡した。


「これが高知の夏だよ」


 会場へ向かう途中、私たちは屋台へ立ち寄った。冷たい飲み物を買い、それぞれ手に持つ。歩き続けて少し汗ばんでいた身体に、冷えたお茶が心地よかった。


「これで準備万端ね」


 私が笑うと、ルークも飲み物を軽く掲げた。


「今日は最後まで楽しもう」


 その後、入口でチケットを確認してもらい、警備員の案内に従って指定席へ向かう。


「こちらになります」


 丁寧な誘導を受けながら通路を進むと、目の前には踊り子たちが演舞する広い舞台がまっすぐ伸びていた。鳴子の音が遠くから聞こえ始める。まもなく、この場所で高知の夏を象徴する熱い演舞が始まろうとしていた。


 目の前に広がる追手筋が、この演舞場の舞台になる。出場チームは自分たちの演舞時間が近づくと、追手筋の東側に集合し、順番を待つのだという。そして、演舞が始まると、東側から西側の高知城方面へ向かって踊り進んでいく。踊り子たちは鳴子を鳴らし、隊列を保ちながら、通り全体を使って華やかな演舞を披露する。


 観覧席はその演舞ルートに沿って設けられているため、観客は席に座ったまま、目の前を流れるように進んでいく踊りを間近で楽しむことができる。チームごとに衣装や楽曲、振り付けが異なり、まるで一つひとつの物語が目の前を通り過ぎていくような臨場感がある。それが、本部演舞場ならではの大きな魅力なのだと教えてもらった。


 さらに警備員の案内に従って通路を進み、私たちは指定された観覧席へたどり着いた。


「こちらのお席になります」


 礼を言って席へ腰を下ろす。指定席は追手筋を正面から見渡せる絶好の場所だった。踊り子たちとの距離も近く、演舞が始まれば、その迫力を間近で感じられそうだ。


「すごい……」


 思わず声が漏れる。


「本当に目の前ね」


 ルークも身を乗り出すようにして通りを見つめていた。


「これなら踊り子の表情まで見えそうだ」

「そうだね」


 兄も頷く。


「本部演舞場は特別だからね。ここで踊ることを目標にしているチームも多いんだ」


 私は東側へ視線を向けた。そこには、これから出番を迎える踊り子たちが整列し始めている。色鮮やかな衣装が夕日に照らされ、赤や青、金色の布がきらきらと輝いていた。


「衣装だけでも見応えがあるわ」


 すると、ルークは感心したように言う。


「宇宙でも祭りはあるけど、ここまで衣装に個性があるものは少ないよ」

「アルタイルのお祭りって、どんな感じなの?」


 私が尋ねると、ルークは少し考えてから笑った。


「もっと神事に近いかな。音楽はあるけど、踊るというより祈りを捧げる儀式なんだ」

「へえ……」


 兄も興味深そうに耳を傾ける。


「地球の祭りとは随分違うんだな」

「うん。でも、みんなで同じ時間を楽しむという意味では似ているよ」


 ルークの言葉に、私は頷いた。どこの星でも、人が笑い合い、同じ時間を共有することは変わらないのかもしれない。すると、その時、保木君が追加の飲み物を手に戻ってきた。


「自動販売機、結構並んでました」

「お疲れさま」


 アレクも後ろから歩いてくる。


「まだ少し時間がありますね」


 腕時計を見ると、17時40分。開演まで20分ほどだった。観客席は、すでに8割以上が埋まっている。家族連れ、友人同士、県外から来たと思われる観光客。皆が期待に満ちた表情で演舞場を眺めていた。


「昨日のコンサートとは、また違う空気ね」


 私が言うと、兄が笑う。


「そうだな。昨日は会場の中だけが熱かった。でも、今日は街全体がお祭りだ」

「本当にそう」


 遠くから祭囃子が聞こえてくる。屋台からは焼きそばや焼き鳥の香ばしい匂いが風に乗って漂い、子どもたちの笑い声もあちこちから聞こえてきた。高知の夏、そのものだった。


「紫乙、腰は大丈夫?」


 ルークが小声で尋ねる。


「ええ。湿布が効いているみたい」

「痛くなったらすぐ言ってね」

「ありがとう」


 私は微笑んだ。今日は兄たちもルークも、何度も体調を気遣ってくれている。心臓の雑音のこともある。無理をしないようにしようと、自分でも改めて思っていた。

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