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すると、コメント欄が一気に騒がしくなる。
『ルークさんだ』
『声が聞こえた』
『少しじゃないって言われてる』
『監視役がいるなら安心』
私は肩越しにベッドを振り返った。
「ルーク。聞いていたの?」
「聞こえるからね」
ルークはベッドに仰向けになり、片腕を枕代わりに頭の下へ入れていた。もう片方の手にはスマートフォンを持っている。どうやら自分でも私の配信を見ているらしい。
「同じ部屋にいるのに、配信を見る必要はないでしょう」
「コメントが見たいんだよ」
「あなたもコメントを書くつもり?」
「もう書いた」
「何て?」
「紫乙は今日は大人しくしています、って」
画面を見ると、本当にルークのアカウントからコメントが送られていた。
『今日は僕が見張っています』
それを見た視聴者たちが、一斉に笑い始める。
『見張られてる』
『ルークさん頑張って』
『紫乙さんは目を離すと無茶するから』
『保護者みたい』
「誰が保護者よ」
私が不満そうに言うと、ルークがベッドの上で笑った。ずっと心配そうな表情をしていたから、笑ってくれたことに私は少し安心した。配信では、今日の昼食の話をすることにした。
「さっき、明神亭というお店でかつおのたたきを食べてきたの。ひろめ市場で食べて、とても美味しかったから、本店にも行ってみたのよ」
『いいなあ』
『塩たたき?』
『藁焼き体験した?』
「そう。藁焼き体験もしたわ」
私は炎の熱さや、藁が燃える香り、焼き上がったかつおの美味しさを話した。ルークも隣で体験していたことを伝えると、視聴者から感想を求めるコメントが流れた。
「ルーク。皆さんが感想を聞きたいそうよ」
「美味しかったよ」
「それだけ?」
「紫乙が焼いたものだから、もっと美味しかった」
「それは関係ないでしょう」
「あるよ」
本人は真面目に答えている。コメント欄には、仲がいい、可愛い、相変わらずだという言葉が並んだ。私は恥ずかしくなり、話題を変えることにした。
「今日は兄たちも、それぞれ出かけています。兄とユリウスさんは演舞場や博物館を回っていて、保木君とアレクは天文館へ行ったわ」
『紫乙さんは行かないの?』
「本当は行きたかったけれど、今日は身体を休めることにしたの。夜の部を楽しみたいから、そのために温存しているのよ」
そう話すと、視聴者から安心したというコメントが寄せられた。昨日の配信を見ていた人からは、コンサートの控室で配信したことについても質問が来た。
「そうなの。昨日はディスレクトサイドゼロの皆さんの控室から、少しだけ配信させてもらったわ。夏樹君たちは、ステージを終えたばかりなのに元気だったわね」
特にルークが、配信中にスタイリッシュねえさんの番組へコメントを送った話をすると、視聴者が盛り上がった。
『ねえさん、喜んでた』
『昨日見たよ』
『ルークさんのコメントで笑ってたね』
「私は、あの時はもう眠くて見ていなかったのよ。ルークが勝手に私の名前を出していたの」
「勝手じゃないよ。紫乙も見ているって書いただけだよ」
「私は横から少し見ただけでしょう」
「それでも一緒に見ていた」
ルークはベッドに寝転んだまま反論した。配信を始めた時よりも、さらにくつろいでいる。靴下まで脱ぎ、毛布を腰までかけていた。
「ルーク。あなた、寝るつもりでしょう」
「寝ないよ」
「目を閉じているじゃない」
「休ませているだけ」
その言葉に、またコメント欄が笑いで埋まった。
『絶対寝る』
『5分後には寝てそう』
『ルークさん、自由だな』
『ホテル満喫してる』
ルークはコメントを見たらしく、スマートフォンを持ったまま顔をしかめた。
「寝ないからね」
「分かったわ。そういうことにしておきましょう」
それから私は、高知へ来て感じたことや、街中から聞こえてくる鳴子の音、踊り子たちの衣装について話した。窓を閉めていても、外からは遠くに祭り囃子が聞こえてくる。街全体が祭りの舞台になっているようだった。
「夜の部は、本部演舞場の指定席から見るの。午前中の配信でも言ったけれど、きっと迫力があるでしょうね」
『写真楽しみ』
『配信もする?』
「会場では配信できるか分からないわ。周りの方も映ってしまうから、写真や短い動画を撮れそうなら撮っておくわね」
時計を見ると、配信を始めてから40分ほどが過ぎていた。1時間の予定だったけれど、腰のことを考えると、この辺りで終わらせた方がいいかもしれない。そう思った時、ベッドの方から規則正しい寝息が聞こえた。振り返ると、ルークはスマートフォンを胸の上へ置いたまま、目を閉じていた。完全に眠っている。私は声を抑えて笑った。
「皆さん。ルークは寝ないと言っていましたけれど、寝てしまったわ」
『やっぱり』
『予想通り』
『起こさないであげて』
『寝顔見たい』
「寝顔は見せないわよ。本人の許可がないもの」
私はカメラへ向き直った。ルークがこうして安心して眠っているのを見ると、私も少し気持ちが落ち着く。昨日から私の身体を心配して、きっと自分も疲れていたのだろう。
「今日はこの辺りで終わろうかしら。私ももう少し休むことにします。夜は無理をせず、よさこいを楽しんでくるわね」
『ゆっくり休んで』
『また報告待ってます』
『ルークさんにもよろしく』
「ええ。皆さんも暑さには気をつけて。見に来てくださって、ありがとうございました」
私は笑顔で手を振り、配信を終了した。急に部屋の中が静かになる。私は椅子からゆっくり立ち上がり、腰へ手を当てながらベッドへ向かった。ルークの手から落ちそうになっていたスマートフォンをそっと取り上げ、サイドテーブルへ置く。
「寝ないって言ったのに」
小さくつぶやいても、ルークは起きなかった。私は毛布を肩までかけてやった。夜には、また大勢の人の熱気と音に包まれる。だから今は、この静かな時間を大切にしよう。窓の外から聞こえる鳴子の音を遠くに感じながら、私は隣のベッドに横になった。




