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ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


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13-36

 翌日。8月11日、火曜日。13時。


 翌日を迎えた。ホテルの朝食会場でゆっくり朝食を済ませた私たちは、夕方までは自由行動にしようということになり、それぞれ思い思いの場所へ出かけていった。兄とユリウスさんは、市内の演舞場を巡る予定だ。本部演舞場の近くでは博物館や文学館で特別展示も開催されているらしく、そちらにも立ち寄ると言っていた。保木君とアレクは天文館へ向かった。二人らしい行き先だと、私は思わず笑ってしまう。


 そして、私とルークはというと、昼食だけ外へ食べに出て、あとはホテルの部屋でゆっくり過ごすことにした。つい先ほどまで、ひろめ市場で食べてすっかり気に入った『明神亭』の本店へ行っていた。ホテルからタクシーで三分ほどの場所にあり、移動も負担にならない。まだ腰の痛みが残っている私は、できるだけ歩くのを避けていた。でも、夕方までゆっくり休めば、きっと良くなるはずだ。18時からは、よさこい祭りの夜の部が始まる。それまでたっぷり時間がある。無理をせず身体を休めておけば、夜は思い切り楽しめるだろう。


「ルーク。あなたもどこか出かけてきていいのよ」


 私がそう声をかけると、ルークは首を横に振った。


「君のそばにいないといけない。昨日は心臓が痛くなったんだろう。東京に帰ったら、循環器内科で診てもらおうね」

「ええ、そうするわ。でも、あれからは何ともないのよ」

「だから安心とは言えない。急に症状が出ることだってある」

「今までは、そんなことなかったのよ」

「君の場合は、症状がかなり進んでから病気が見つかることが多い。だから油断はできないんだ」


 ルークは穏やかな口調だったが、その瞳には心配の色が浮かんでいた。昨日、聖河さんから心雑音を指摘されたことが、ずっと頭から離れないのだろう。 私は苦笑しながら肩をすくめた。


「まあ、そうなのかもしれないわね。でも、それは東京へ帰ってから考えましょう。それよりも、明神亭のかつおのたたき、本当に美味しかったわ」

「うん。本場はやっぱり違うね」


 ルークの表情が少しだけ柔らかくなる。明神亭では、店先で豪快な藁焼きの実演が行われていた。勢いよく立ち上る炎に包まれたかつおは、あっという間に香ばしい焼き色をまとっていく。見ているだけでも迫力があり、思わず歓声を上げてしまった。しかも、今日は、私たちも藁焼き体験に参加させてもらえた。長い棒でかつおを持ち、炎との距離を教えてもらいながら表面を焼いていく。顔に熱気が伝わり、藁の香ばしい香りがふわりと漂ってきた。


「思ったより難しいわね」

「でも、上手だったよ」


 ルークが笑って褒めてくれる。焼き上がったかつおは、その場で職人さんが手際よく切り分けてくれた。一口食べると、外側は香ばしく、中は驚くほどしっとりとしている。藁の香りと、かつお本来の旨味が口いっぱいに広がり、思わず頬が緩んだ。


「高知まで来てよかったって思える味だったわ」

「夜もまた美味しいものを食べよう」

「そうね。でも、その前によさこいを見なくちゃ」


 私は窓の外へ目を向けた。真夏の高知は、眩しいほどの青空が広がっている。よさこい祭りの昼の部が始まり、この街は鳴子の音と音楽、そして踊り子たちの熱気に包まれている。私はベッドへ腰を下ろし、深く息をついた。


 しばらくベッドの上で身体を休めていた私は、枕元に置いていたスマートフォンへ手を伸ばした。時刻は13時半を少し過ぎたところだった。夕方まで、まだ時間がある。このまま眠ってしまうのも悪くはないけれど、朝食後に30分だけつけた配信では、ほとんど雑談ができなかった。午前中の配信は、昨夜のコンサートの感想と、腰を痛めてしまったことを簡単に報告しただけだ。それでも多くの人が見に来てくれて、コメント欄には体調を心配する言葉が並んでいた。だから、もう一度だけ配信をつけることにした。


「ルーク。私、少し配信するわね」

「うん。いいよ」


 ルークはそう答えると、ベッドの中央へ身体を移動させた。私が配信で使う椅子は、窓の近くに置いてある。背景にはホテルの白い壁と、小さなテーブルが映るだけだ。部屋の様子が分かりすぎないよう、カメラの角度は午前中に調整しておいた。


 私はテーブルの上へスマートフォンを固定し、鏡を見ながら髪を軽く整えた。


 外へ昼食を食べに出ただけなので、化粧は薄いままだ。それでも、カメラに映るには十分だろう。


「一時間だけにするわ」


「腰が痛くなったら、すぐにやめるんだよ」


「分かっているわよ」


 ルークは心配そうに言ったものの、すでにベッドへ横になり、枕を抱えるようにしてくつろいでいた。


 普段は私のそばで姿勢よく座っていることが多いのに、今日は随分と気が抜けている。ホテルのベッドが気に入ったらしい。私は椅子へ腰を下ろした。まだ腰には鈍い痛みが残っている。無理に背筋を伸ばすとつらいため、背もたれに身体を預け、楽な姿勢を取った。それから配信画面を開き、開始ボタンを押した。


「こんにちは。オツです」


 配信が始まると、すぐに視聴者の数が増えていった。


『こんにちは』

『また来た』

『午前中も見たよ』

『腰、大丈夫?』

『ルークさんもいる?』


 画面いっぱいにコメントが流れていく。


「皆さん、こんにちは。午前中は短い配信だったのに、見に来てくださってありがとうございました。今度は一時間くらい、ゆっくり雑談をしようと思います」


 私がそう話すと、また体調を心配するコメントが増えた。


「腰はまだ少し痛いけれど、大丈夫よ。夕方まではホテルで休んでいます。十八時から、よさこい祭りの夜の部を見に行く予定なの」


『踊らないでね』

『ヘドバン禁止』

『絶対に無理しないで』

「分かっているわよ。昨日はコンサートが楽しくて、少しはしゃぎすぎただけなの」


 私が笑うと、ベッドの方から小さく声が聞こえた。


「少しじゃないよ」


 カメラには映っていないけれど、ルークがしっかり話を聞いていたらしい。

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