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ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


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13-35

 23時。


 コンサートを終えた私たちは、会場からタクシーでホテルへ戻ってきた。ライブの途中で腰を痛めたこともあり、みんなが気を遣って、ホテルまで一緒に帰ろうと言ってくれたのだ。ホテルへ着くと、誰もがお腹を空かせていた。


「この時間じゃ開いてる店も少ないし、ルームサービスにしよう」


 兄の一言で全員が賛成し、それぞれ好きなものを注文してから、自分たちの部屋へ戻ることになった。部屋の中には、私とルークだけ。私はシャワーを浴びて腰へ湿布を貼ると、椅子へゆっくり腰を下ろした。やはりライブの途中で無理をしたのがいけなかったらしい。鈍い痛みは残っているものの、湿布を貼ると少し楽になった。


 しばらくしてルームサービスが届く。私が注文したのは、梅茶漬け。ライブで熱くなった身体には、あっさりしたものがちょうどよかった。一方、ルークの前には湯気の立つ天ぷらうどんが置かれている。海老天と野菜天が乗った、見るからに美味しそうな一杯だった。


「いただきます」


 二人で手を合わせる。湯気の立つ梅茶漬けを見つめながら、私はふと思った。


「また、お兄ちゃんにごちそうになっちゃったわ」


 今回の高知旅行では、食事代のほとんどを兄が出してくれている。ひろめ市場でもそうだったし、こうして夜食まで払ってもらうことになってしまった。なんだか申し訳ない気持ちになる。すると、ルークが笑いながら箸を持った。


「紫乙。お兄ちゃんは、それが嬉しいんだよ」

「そうかしら」

「もちろん」


 ルークは迷いなく頷いた。


「だから、これからも何でも買ってもらえばいい」


 私は思わず吹き出した。


「それは、あなたの希望でしょう?」

「少しはあるかな」


 ルークも笑う。


「でも、本当にそう思っているよ。家族に何かしてあげられるのは嬉しいことなんだ」

「そうかもしれないけど……」


 私は首を横に振った。


「もう、いつまでも甘えてばかりはいられないわ」


 そう言いながら、お茶漬けを一口食べる。梅の酸味が口いっぱいに広がり、思わずほっと息をついた。


「あなたも、もうすぐプラセルでデザイナーとして働き始めるでしょう?」

「うん」

「お給料をもらえるようになるんだから、これからは自分たちで払っていかないと」


 その言葉に、ルークは穏やかに微笑んだ。


「確かに、それもそうだね」


 夕方、一貴さんから連絡が入った。ルークのプラセルでの勤務が正式に決まったという知らせだった。デザイナーとして働くことになり、勤務形態はほとんどが在宅勤務だ。宇宙船と地球を行き来するルークにとって、一番負担の少ない働き方を考えてくれた結果なのだという。


 さらに、一貴さんはアルタイル軍にも話を通してくれていた。ルークが地球で仕事をし、地球の通貨で給与を受け取ることについて正式な申請を行い、その許可も今日中に下りたそうだ。すべて、一貴さんが動いてくれたおかげだった。


「一貴さんには、本当にお世話になってばかりね」


 私が呟くと、ルークは静かに頷いた。


「僕も感謝してる」


 そう言って、天ぷらうどんを一口すすった。


「だからこそ、一日でも早く仕事を覚えたい」


 その表情は真剣だった。


「デザイナーとして認めてもらえるように頑張るよ」


 その決意を聞きながら、私は自然と笑みを浮かべた。新しい仕事。新しい生活。今日という一日は、ライブの思い出だけではなく、ルークにとっても新しい一歩が始まる記念の日になったのだった。


 夜食を食べ終えると、私は大きく息をついた。


「ごちそうさま」


 梅茶漬けのおかげで身体も少し温まり、空腹も満たされた。ルークも天ぷらうどんを食べ終え、食器をテーブルの端へ寄せる。


「美味しかった」

「そうね」


 部屋には静かな時間が流れていた。ライブの興奮がようやく落ち着き始め、身体の疲れが少しずつ表に出てくる。私は腰へ手を当てながらソファーへもたれかかった。今日はもう無理をしない方がいいだろう。すると、ルークがスマートフォンを取り出した。


「そうだ」

「どうしたの?」

「ろろっちを見てみよう」


 画面を開くと、ライブ配信がずらりと並ぶ。その中から、ルークは見慣れたアイコンを選んだ。


「あっ、スタイリッシュねえさんだ」


 私も思わず笑う。ちょうど今、配信をしているところだった。


『こんばんはー!今日はね、高知がすごかったのよ!』


 いつもの元気な声が部屋に響く。画面の向こうのねえさんは、いつも以上に興奮した様子だった。


『さっき紫乙ちゃんの配信を見た人、いるー?』


 コメント欄が一気に流れる。


『見ました!』

『びっくりしました!』

『神配信でした!』

『ディスレクトサイドゼロが映ってました!』

『久弥さんまでいて驚きました!』


 ねえさんは大きく頷く。


『そうなのよ!控室から配信なんて、なかなか見られないでしょう?夏樹君たちもみんな笑顔だったし、ライブ直後の空気まで伝わってきたわ』


 私は少し照れくさくなった。


「そんなに話題になっていたのね」

「みたいだね」


 ルークは笑いながらコメント欄を開く。そして、短く文字を打ち込んだ。


『皆さん元気でした』


 送信して数秒後。ねえさんの目がコメント欄で止まる。


『あっ!』


 画面越しにこちらを指差した。


『ルーク君じゃないの!』


 その一言でコメント欄が一気に盛り上がる。ねえさんは声を立てて笑った。ルークも画面を見ながら笑っている。


「気づいてくれた」

「すぐだったわね」


『紫乙ちゃん、今日はゆっくり休んでね!腰、大事にしてね!』


 その言葉に、私は思わず微笑んだ。


「ありがとう」


 もちろん声は届かない。それでも、画面へ向かって小さく手を振った。配信を見終えると、私はスマートフォンを手に取る。


「私も今夜、配信しようと思っていたんだけど……」


 少し考えてから首を横に振った。


「やめておこうかな」

「その方がいいよ」


 ルークもすぐに賛成した。


「今夜は寝ておくといい。座っていると腰が痛いだろう」

「そうねそ。明日のお昼に配信することにするわ」

「うん。その方がみんなも安心する」


 私は頷いた。明日の夕方まではホテルでゆっくり休む。祭りを見に行くまで腰の様子を見ながら過ごして、配信で今日のライブや控室での出来事を、ゆっくり視聴者のみんなへ話そう。そう決めると、不思議と気持ちも軽くなった。


 私はカーテンを少し開ける。窓の外には、高知の夜景が静かに広がっていた。ライブの熱気がまだ胸に残る夜。けれど、明日は、少しだけ立ち止まり、自分の身体を労わる一日にしようと、私は静かに心へ決めた。

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