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すると、ルークがそっと私の背中へ手を添えた。
「行こう」
優しく背中を押されるように促され、私は久弥さんの方へ歩き出した。その様子を見た久弥さんは、いつものように笑顔を浮かべながらも、すぐに私の異変に気づいたようだった。
「あれ、紫乙さん。どうした?」
そう言って私の前まで歩み寄ると、自然に手を差し伸べてくれた。私は思わず苦笑した。
「ちょっと腰が……」
ライブの途中で無理をしてしまったせいか、歩き始めると鈍い痛みが戻ってきていた。無意識のうちに腰へ手を添えながら歩いていたのを、久弥さんは見逃さなかったのだ。
「大丈夫?無理しちゃだめだよ」
「ありがとうございます。でも、少し休めば大丈夫です」
そう答えると、久弥さんは安心したように微笑んだ。
「それならよかった。でも、聖河さんにも診てもらったって聞いたし、本当に無理だけはしないでね」
「はい」
その優しい言葉に、胸が温かくなる。すると、そのやり取りに気づいたのだろう。控室の扉が開き、夏樹君が真っ先に顔を出した。
「あっ、紫乙さん!」
続いて悠人君、大和君、琉芯君、聡太郎君も次々と集まってくる。
「ライブ、どうだった?」
「楽しんでもらえた?」
次々に声を掛けられ、私は思わず笑顔になった。
「もちろんよ。最高だったわ」
「本当?」
夏樹君が嬉しそうに笑う。
「ヘドバンまで挑戦しようとしてたんだよ」
ルークが横からぽつりと言った。一瞬、静まり返る。そして次の瞬間――。
「えぇ!?」
5人の声がきれいに重なった。
「紫乙さん、それは無茶だよ!」
「腰、大丈夫なの?」
「だから痛そうに歩いてたのか」
口々に心配され、私は思わず肩をすくめた。
「ちょっとだけやってみたかったの。でも、一回で諦めたわ」
「それで正解です」
悠人君が苦笑しながら言うと、みんなも大きく頷く。その様子がおかしくて、私も思わず吹き出してしまった。久弥さんも声を立てて笑っている。
「紫乙さんらしいね」
「もう、笑わないでください」
「ごめん、ごめん。でも、ちゃんと自分の身体は大事にしないと」
「はい」
笑い声が控室の前に広がっていく。さっきまでステージで何千人もの観客を熱狂させていた5人が、今は気の置けない仲間として笑っている。その輪の中に私たちも自然と溶け込み、一緒になって笑い合っていた。腰の痛みはまだ少し残っていた。それでも、その痛みを忘れてしまうほど、みんなの笑顔は温かかった。
私たちは久弥さんに案内され、再び控室へ入った。さっきまでライブへ向かう緊張感に包まれていた部屋は、今では大きな達成感と安堵に満ちている。
「お疲れさま!」
「今日も最高だった!」
スタッフが飲み物を配り、メンバーも笑顔で受け取っていた。夏樹君はペットボトルの水を一口飲み、「生き返る」と言って笑う。悠人君も汗を拭きながら椅子へ腰を下ろした。
「高知、熱かったなあ」
「お客さんも最初から最後まで全力だったね」
大和君がそう言うと、琉芯君も大きく頷く。
「ドラムの後ろから見ても分かったよ。みんなずっと盛り上がってた」
「ヘドバン率、高かったね」
聡太郎君が笑うと、控室に笑い声が広がった。すると、その時、長谷部さんがカメラを持って近づいてきた。
「皆さん、もう一枚記念写真を撮りましょう」
「いいね!」
夏樹君がすぐに立ち上がる。
「今度は久弥も一緒だね」
「俺もか?」
久弥さんは少し照れたように笑った。
「今日は主役は君たちだろう」
「何を言っているんだよーー」
悠人君が笑う。
「そうですよ」
大和君も続ける。
「今日は絶対に入ってください」
そこまで言われると、久弥さんも苦笑しながら頷いた。
「分かった、分かった」
私たちは自然と並び直した。中央には夏樹君と悠人君。その周りを大和君、琉芯君、聡太郎君、久弥さんが囲み、私たちもその隣へ入る。
「いきますよー!」
長谷部さんが声を掛ける。
「はい、チーズ!」
カシャッ。
ライブを終えたばかりの、晴れやかな笑顔だった。
「いい写真です」
長谷部さんが画面を見せると、全員が満足そうに頷く。
「記念になりますね」
私が言うと、久弥さんがこちらを見て笑った。
「そうだ、紫乙さん」
「はい?」
「いつも配信しているるだろう?」
「ええ」
「もしよかったら、少しだけ配信してもいいよ」
「えっ?」
私は思わず目を丸くした。
「本当にいいんですか?」
「もちろん。ただし、映したくない資料とか機材は避けてね」
「ありがとうございます!」
私は嬉しくなり、すぐにスマートフォンを取り出した。
「それじゃあ、少しだけ」
配信アプリを立ち上げ、ライブ配信を開始する。
「皆さん、こんばんは。オツです」
開始した瞬間、コメント欄が勢いよく流れ始めた。
『こんばんは!』
『高知ライブお疲れさまです!』
『今、見始めました!』
いつもの視聴者が次々に挨拶を送ってくれる。私はスマートフォンを少し横へ向けた。
「今日は特別に許可をいただいたので、少しだけご紹介します」
画面へ夏樹君たちが映り込む。その瞬間だった。
『えぇぇぇぇ!?』
『本物!?』
『ちょっと待って、ディスレクトサイドゼロ!?』
『夏樹君いる!!』
『悠人君まで!?』
『配信バグじゃないよね!?』
コメント欄が一気に高速で流れ始める。画面が追いつかないほどだった。
「こんばんは!」
夏樹君が画面へ向かって笑顔で手を振る。
「今日はありがとうございました!」
すると、さらにコメントが爆発した。
『手を振ってくれたーーー!』
『やばい!』
『神回確定!』
『高知公演の帰りです!』
『まだ興奮してます!』
悠人君も画面へ近づき、小さく会釈する。
「皆さん、ライブを観に来てくださってありがとうございました」
『悠人君ーーー!』
『かっこいい!』
『最高でした!』
その後ろでは久弥さんが苦笑しながら手を振る。
「映っちゃったな」
その一言に、コメント欄はさらに大騒ぎになった。
『久弥さんまで!?』
『プロデューサー!』
『今日は豪華すぎる!』
『紫乙さん、ありがとう!』
控室には笑い声が響き、画面の向こうでも歓声があふれていた。コンサートは終わった。それでも、ディスレクトサイドゼロの特別な夜は、まだ少しだけ続いていた。




