表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
167/180

13-30

 歓声が少しずつ静まり、会場が期待に包まれる。ステージの照明がゆっくりと青く染まり始めた。悠人君が静かにギターを構え、夏樹君がマイクスタンドの前へ立つ。その姿を見た瞬間、私は次の曲が何なのか分かった。


「……『EDEN』ね」


 隣でルークが微笑む。


「僕も好きな曲だ」

「ええ」


 私は頷いた。


「この曲を生で聴けるのを楽しみにしていたの」


 低く唸るようなギターのイントロが流れ始める。その瞬間、会場中から大きな歓声が湧き上がった。


「EDENだーー!」

「待ってました!」

「きゃあーーーっ!」


 観客も、この曲を待っていたのだ。ステージの上では悠人君と聡太郎君が向かい合い、重厚なギターリフを重ねていく。大和君のベースが腹の底まで響き、琉芯君のドラムが力強くリズムを刻む。そして、夏樹君が静かに歌い始めた。伸びやかな歌声が会場いっぱいへ広がっていく。私は胸の前で手を組みながら、その歌声へ耳を傾けた。


 この曲には、特別な歴史がある。夏樹君と悠人君は、ディスレクトサイドゼロを結成する前、『To Dear Drops』というバンドで活動していた。そのバンドのデビュー曲だった。『親愛なる雫たちへ』という意味を持つ、そのバンド名。その由来は、久弥さんが昔に組んでいたバンドだった。当時のメンバーの一人、静久(しずく)さんが亡くなり、その名前を忘れないようにと、『雫』という言葉を受け継いだのだという。亡くなった仲間への想い。音楽を未来へつないでいくという願い。そのすべてが、『To Dear Drops』という名前には込められていた。


 そして、久弥さんが現役ギタリストを引退することを決めた時、バンドは静かに活動を終えた。その後、新たな仲間として大和君と聡太郎君と琉芯君が加わり、ディスレクトサイドゼロが誕生した。久弥さんは今もプロデューサーとして彼らを支え続けている。今回の全国ツアーにも同行していると聞いていた。ライブが終われば、久弥さんにも会える。そう思うと、自然と胸が弾む。


「久弥さんも、この曲を聴いているのね」


 私が小さく呟くと、ルークも静かに頷いた。


「きっと、いろいろな思いで聴いているんだろうね」

「そうでしょうね」


 ステージへ視線を戻す。サビへ入った瞬間、会場中の歓声がさらに大きくなった。夏樹君と悠人君のツインボーカルが重なり、重厚なサウンドが一気に押し寄せる。思わず鳥肌が立った。


「やっぱり、この曲はすごいね」


 ルークが感嘆したように言う。


「動画でも何度も聴いたけど、生演奏は迫力が全然違う」

「ええ」


 私は微笑んだ。


「私もそう思うわ」


 以前の『To Dear Drops』で演奏されていた頃よりも、さらに厚みを増したアレンジになっている。聡太郎君のツインギターが加わり、琉芯君の力強いドラムが楽曲を支え、大和君のベースが重厚な土台を作り上げている。そして、その中心には夏樹君と悠人君の歌声がある。二人の声が重なるたび、この曲が歩んできた時間までもが響いてくるようだった。


 ステージの端では、悠人君が夏樹君と目を合わせ、小さく頷く。夏樹君も笑顔で頷き返した。その何気ない仕草だけで、二人が長い時間を共に音楽と歩んできたことが伝わってくる。『To Dear Drops』からディスレクトサイドゼロへ。名前は変わっても、受け継がれてきた想いは変わらない。その想いを乗せた『EDEN』は、重厚なサウンドとともに、会場中の観客の心を力強く震わせていた。


「夏樹ー!」

「悠人ー!」

「最高ー!」


 あちこちから名前を呼ぶ声が飛び交う。私も自然と拍手を続けていた。手のひらが少し熱くなるほど叩いていることに気づき、それだけ夢中になっていたのだと実感する。


「本当にすごい曲ね」


 私が呟くと、ルークも大きく頷いた。


「何度聴いても圧倒される」

「ええ。この曲は特別だから」


 ディスレクトサイドゼロの楽曲には、不思議な魅力がある。激しいロックサウンドの中にも、どこか希望がある。恋愛を描いた歌も少なくない。誰かを愛する喜びや切なさ、届かない想い、失ってしまった悲しみ。そうした感情を歌いながらも、最後には必ず未来へ目を向けている。

 

 それはバンド名にも表れていた。ディスレクトサイドゼロ。『ゼロ地区』。居場所のない人たちが集まり、その想いが一つの地区となり、やがて居場所になる。そんな願いを込めて付けられた名前だと聞いている。そして、その由来の一つには、大和君が以前組んでいた『ゼロスペース』というバンドの存在もあるという。『ゼロ』という言葉を受け継ぎ、新しい意味を与えた。誰にも居場所がないのではなく、ここへ来れば居場所になる。だからこそ、彼らのライブには幅広い世代の人が集まるのだろう。


 その時、ステージでは夏樹君が再びマイクを握り直した。照明がゆっくりと赤く染まり、悠人君と聡太郎君が同時にギターを構える。大和君のベースが低く唸る。琉芯君のスティックが高く掲げられた。そして。


 ドンッ――。


 重低音が会場を揺らした。夏樹君が身体を少し前へ倒し、力強く歌声をあげた。


「――とめどない魂を、破壊しないで」


 その一節だけで、会場の空気が変わる。胸の奥へまっすぐ飛び込んでくる歌声。


「迷子になった 貴方の心――」


 伸びやかな高音が会場いっぱいへ響き渡る。その瞬間、客席から大きな歓声が上がった。激しく、それでいてどこか切ない。救いを求めるような歌詞を、夏樹君は真っすぐ前だけを見つめながら歌っている。悠人君もマイクへ近づき、二人の歌声が重なった。厚みを増したハーモニーが、観客一人ひとりを包み込む。周囲を見ると、目を閉じて聴ている人もいる。拳を振り上げている人。静かにリズムを取る人。同じ曲を聴いていても、それぞれ違う想いを重ねているのだろう。


 やがて曲はクライマックスを迎え、5人の音が一つになった。最後のコードが鳴り終わると、客席から割れんばかりの拍手が湧き起こった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ