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こういうことは、照れがあるとかっこ悪いと思うから、私は思い切りよく、恥ずかしさなんて忘れて首を振ることにした。
「よし」
音楽に合わせ、小さく頭を前へ倒す。そして、もう一度。少しだけ大きく。さらにもう一度。リズムに合わせて身体を動かしてみる。
「こんな感じ――」
その瞬間だった。
「いたっ……」
腰に、ピリッとした痛みが走った。思わず動きが止まる。
「紫乙」
ルークがすぐに支えてくれた。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫……」
私は苦笑いを浮かべる。
「腰が少し……」
「やっぱり」
兄が呆れたように笑った。
「だから言っただろう」
「うぅ……」
言い返せない。私はそっと席へ腰を下ろした。幸い、鋭い痛みではない。椅子へ座ると少しずつ落ち着いてきた。ルークが心配そうに顔を覗き込む。
「無理はしないで」
「ええ」
「椎間板ヘルニアがあるんだから、急に激しく動いたら負担が掛かる」
「分かってるんだけど……」
「楽しそうだったから?」
私は照れ笑いを浮かべた。
「そうなの」
「気持ちは分かるけどね」
兄も優しく笑った。
「でも、自分に合った楽しみ方でいいじゃないか」
「そうよね」
そこで、保木君も頷く。
「ライブは楽しむことが一番ですから。ヘドバンができるかどうかは関係ありません」
「そうですよ」
アレクも笑う。
「僕なんか、見てるだけで十分楽しいですよ。ユリウスさんも頷いていますよ」
その言葉に、私も思わず笑ってしまった。
「そうね。ちょっと欲張りすぎたわ」
「そのくらいがいい」
ルークは安心したように微笑む。
「座ったままでも十分楽しめるよ」
「ありがとう」
私は深く腰掛け直し、もう一度ステージへ目を向けた。ちょうど悠人君のギターソロが始まるところだった。鋭く伸びる高音が会場を切り裂き、観客席から大きな歓声が上がる。
「悠人ー!」
「最高ー!」
歓声に応えるように、悠人君がギターを高く掲げた。その横では、夏樹君が笑顔でリズムを刻みながら客席を煽っている。
「もっといけるか、高知!」
「おおおーっ!」
会場が一体になる。私は自然と手拍子を始めた。激しく身体を動かさなくてもいい。リズムに合わせて手を打ち、身体を少し揺らすだけでも、音楽の楽しさは十分伝わってくる。
「このくらいが私にはちょうどいいみたい」
私が笑うと、ルークも微笑み返した。
「うん。その笑顔の方が安心する」
兄も満足そうに頷く。
「最後まで元気に楽しむことが一番だ」
「そうね」
私はもう一度ステージを見つめた。照明を浴びながら歌う夏樹君たちは、控室で笑っていた時とはまるで別人だった。その姿に見入っているうちに、腰の痛みも少しずつ忘れ、私は再び音楽の世界へ引き込まれていった。
激しい演奏が終わると、琉芯君のドラムが静かにリズムを刻み始めた。それに合わせて悠人君と聡太郎君のギターが優しい音色を奏で、大和君のベースがゆったりと楽曲を支える。会場の空気が一変した。さっきまで拳を突き上げ、ヘドバンをしていた観客たちも自然と身体の力を抜き、ステージへ視線を向けた。夏樹君はマイクを両手で持ち、客席をゆっくり見渡した。
「高知のみんな、今日は来てくれてありがとう!」
大きな拍手が起こる。
「ありがとうございます!」
「最高ー!」
客席のあちこちから声が返ってきた。夏樹君は嬉しそうに笑った。
「今日は、よさこい祭りですごく盛り上がってるね」
その一言で、会場からさらに歓声が上がる。
「高知、最高ー!」
「ありがとう!」
客席の反応に、夏樹君も思わず笑みをこぼした。
「実はさ、俺たちも昼間にちょっとだけ街へ出たんだ」
その瞬間だった。
「えぇーーーっ!」
客席から驚きの声が上がる。
「行ったのー!?」
「見つからなかったー!」
「どこにいたー!」
あちこちから次々と声が飛ぶ。夏樹君は照れくさそうに頭をかいた。
「こっそりね」
その言葉に場内は大爆笑だった。
「こっそりって無理やろー!」
「夏樹ー、目立つやん!」
「バレるやろー!」
高知らしい気さくな声が飛び交う。夏樹君は肩をすくめながら笑った。
「だから変装もしてたんだけどね」
「見たかったー!」
「ずるーい!」
「今日は仕事だったから、そんなに長くはいられなかったんだ。でも、すごく楽しかった」
そう言うと、客席から温かい拍手が起こる。
「ありがとう!」
夏樹君も笑顔で手を振った。
「明日も時間があれば、また見に行こうと思ってる」
「おぉーーー!」
その一言に、会場の熱気が一気に高まる。
「明日も来てー!」
「待っちゅうきー!」
「楽しんでいってー!」
高知弁混じりの声援が飛び交い、夏樹君は何度も頷いた。
「もちろん。高知に来たからには、お祭りも楽しみたいから」
客席から大きな拍手が沸き起こる。その様子を見ながら、私は自然と笑顔になっていた。
「本当にみんなに愛されているのね」
兄も頷く。
「こういう距離の近さは地方公演ならではだな」
ルークも興味深そうにステージを見つめていた。
「観客との会話を楽しんでいる」
「ええ」
私は小さく頷く。
「夏樹君は、こういう時間をとても大切にする人なの」
ステージでは夏樹君がもう一度客席を見渡した。
「それとね」
少し照れたように笑う。
「今日、高知を旅行をしている友達が会いに来てくれて、いろんな話を聞かせてもらったんだ」
私たちは思わず顔を見合わせる。どうやら私たちのことを話してくれているらしい。
「高知って、本当にあったかい街だねって」
その言葉に、会場中からひときわ大きな拍手と歓声が湧き上がった。次の曲が始まる前から、客席とステージは一つになっていた。




