13-25
これからこの部屋で撮影するという。私たちは場所を移動して、その様子を見つめた。カメラマンが大きな一眼レフを抱えて楽屋へ入ってきた。
「失礼します。5分ほどお時間いただきます」
慣れた様子で照明の位置を確認すると、楽屋の一角へ五人を並ばせる。
「夏樹さん、真ん中でお願いします」
「はい」
「悠人さん、もう少し左へ」
「こんな感じですか?」
「ありがとうございます。そのままで」
メンバーは息ぴったりだった。誰かが細かく指示を出さなくても自然と立ち位置が決まり、それぞれが一番映える角度を理解している。
「じゃあ、一枚目いきます」
カシャッ。
シャッター音が響く。
「次は少し笑顔をお願いします」
夏樹君が柔らかく笑う。すると、それにつられるように悠人君も口元を緩め、大和君は腕を組んだまま少しだけ笑みを浮かべた。琉芯君は親指を立て、聡太郎君はギターを抱えるようなポーズを取る。
「いいですね」
カシャッ。
カシャッ。
シャッターが何度も切られていく。
「最後に、ライブ前らしく少し格好よくお願いします」
「格好よく?」
夏樹君が笑うと、悠人君が肩をすくめた。
「夏樹、それ笑ったら格好よくならないだろ」
「ごめんなさい」
控室に笑いが広がる。
「その自然な感じで大丈夫です!」
カメラマンも笑いながら撮影を続けた。そして、数分経った。
「ありがとうございました。以上です」
カメラマンは撮影した画像を簡単に確認し、満足そうに頷く。
「今日のライブ前に公式SNSへ投稿します」
「お願いします」
悠人君が礼を言う。カメラマンは機材を持ち、次の仕事へ向かうため控室を後にした。飯野さんと長谷部さんも出て行き、部屋の中が急に静かになる。
「ふぅ」
夏樹君が肩の力を抜いた。
「毎回撮ってるのに、写真って少し緊張するなあ」
「分かる」
悠人君も笑う。
「ライブは平気だけど、写真だけは慣れない」
「リーダーでもそうなの?」
私が尋ねると、悠人君は照れくさそうに頷いた。
「動いている方が楽なんです。止まって笑ってくださいって言われる方が難しくて」
「それ、意外だわ」
「よく言われます」
大和君が苦笑した。
「この人、本番では全然緊張しないんですよ」
「そうそう」
琉芯君も続ける。
「開演5分前まで普通にコーヒー飲んでますから」
「えっ、本当に?」
私が驚くと、聡太郎君が笑顔で頷いた。
「本当です。俺なんて、毎回緊張してるのに」
「真面目だからなーーー」
悠人君が優しく言う。
「でも、その緊張感があるから丁寧な演奏になるんだ」
「ありがとう」
聡太郎君は少し照れたように笑った。そのやり取りを見ていると、この5人の関係がよく伝わってくる。
誰かが偉そうにすることもなく、互いを自然に認め合い、支え合っている。だからこそ、ステージでも息の合った演奏ができるのだろう。兄も感心したように頷いた。
「本当に仲がいいんだな」
「うん」
夏樹君は迷いなく答えた。
「一緒に過ごす時間が長いから。家族みたいなものだよ」
「家族か」
悠人君が穏やかに笑う。
「そう言われると照れるけど、その表現が一番しっくりくるかもしれないね」
部屋の空気は、開演前とは思えないほど和やかだった。それでも、このあとステージへ上がれば、彼らは何千人もの観客を魅了するプロのアーティストへと姿を変える。その切り替えを間近で見られることに、私は胸の高鳴りを抑えきれなかった。
和やかな空気が流れる中、不意に悠人君が私の方を見た。
「そうだ、紫乙さん」
「はい?」
「せっかくだから、一緒に写真を撮りませんか?」
思いがけない誘いに、私は目を丸くした。
「私も?」
「もちろんです。前に配信でご一緒しましたし、今日は記念ですから」
そうだった。悠人君は以前、私の配信へゲストとして出演してくれたことがある。その時は音楽のことだけではなく、音楽の話や日常のことまで気さくに話してくれて、視聴者にも好評だった。
「嬉しいわ。ぜひお願いするわね」
「ありがとうございます」
悠人君が笑うと、夏樹君も嬉しそうに頷いた。
「じゃあ、みんなで撮りましょうよ」
「賛成!」
琉芯君が真っ先に手を挙げる。
「こういう写真、あとで見返すと楽しいんですよ」
大和君も微笑んだ。
「今日はせっかくですしね」
「俺も入りたいです」
聡太郎君も笑顔で加わる。すると、兄が少し遠慮がちに口を開いた。
「僕たちも入っていいのか?」
「もちろんですよ」
悠人君は即答した。
「今日は皆さんに来ていただいた記念でもありますから」
「ありがとうございます」
保木君も嬉しそうに言った。ちょうどその時、長谷部さんが控室へ戻ってきた。
「あら、どうしたの??」
「長谷部さん、お願いがあるんだ」
夏樹君が笑顔で言う。
「みんなで記念写真を撮りたいから、シャッターを押してもらえるかな?」
「もちろんよ」
長谷部さんは快く引き受けてくれた。悠人君がスマートフォンを手渡す。
「これでお願いします」
「はい。それでは並んでください」
私たちは鏡の前へ移動し、自然と横一列に並んだ。中央には夏樹君と悠人君。その両隣に大和君、琉芯君、聡太郎君が立つ。私は夏樹君の隣へ入り、ルークは私の横へ。兄とユリウスさんが並び、保木君も反対側へアレクと並び、全員がきれいに収まった。
「皆さん、いきますよ」
長谷部さんがスマートフォンを構える。
「3、2、1――」
カシャッ。
一枚目が撮影された。
「もう一枚いきます。今度はもう少し笑顔でお願いします」
「十分笑ってると思うけどなあ」
夏樹君がそう言うと、控室が笑いに包まれる。
「そのまま、そのまま!」
長谷部さんも笑いながらシャッターを切った。
カシャッ。
画面に映し出された写真には、これからステージへ向かうアーティストたちと、それを応援する私たち全員の自然な笑顔が収められていた。ライブが始まる前の、ほんのひととき。この一枚は、きっと忘れられない思い出になるだろう。




