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ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


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13-24

 長谷部さんの案内で、私たちは関係者専用の通路へ入った。正面ロビーの華やかな雰囲気とは打って変わり、こちらには開演前ならではの緊張感が漂っている。静かなわけではない。むしろ、スタッフたちが忙しく行き交い、あちこちから指示を出す声が聞こえてきた。


「照明、最終チェックお願いします!」

「映像チーム、5分後にリハーサル映像を流します!」

「音響、スタンバイお願いします!」


 インカムを着けたスタッフが小走りで通り過ぎ、大きな機材ケースを押す人や書類を抱えた人が次々と目の前を横切っていく。


「すごいわ……」


 思わず声が漏れた。


「舞台裏って、こんなに忙しいのね」


 兄も周囲を見回しながら頷く。


「一つのコンサートを開くのに、これだけ大勢の人が動いているんだな」

「会社の大型イベントみたいですね」


 保木君も感心したように言う。ルークも興味深そうに辺りを見渡していた。


「こういう舞台裏を見るのは初めて?」


 私が尋ねると、ルークは頷いた。


「ああ。思っていた以上に人が多いね」

「そうでしょう?みんな役割が決まっていて、時間通りに動いているの」

「誰も慌てているようには見えない」

「準備がしっかりできている証拠よ」

「なるほど」


 ルークは感心したように笑った。長谷部さんが歩きながら振り返る。


「皆さん、足元にお気を付けください。ケーブルがありますので」

「ありがとうございます」


 床を見ると、何本もの太いケーブルが養生テープで固定されていた。照明や音響機材につながっているのだろう。壁際には大きなスピーカーや楽器ケースが整然と並び、ステージの準備が着々と進められている。


「機材だけでもすごい金額になりそうね」


 私が呟くと、長谷部さんが苦笑した。


「全部合わせると、とても口にはできない金額ですね」

「やっぱりそうなんですね」

「全国ツアーですから。音響も照明も最高の状態でお見せできるようにしています」


 さらに奥へ進むと、控室が並ぶエリアへ入った。それぞれのドアには出演者の名前が貼られている。サポートメンバーやスタッフの部屋を通り過ぎ、長谷部さんが一枚のドアの前で立ち止まった。


「こちらです」


 ドアには白い紙が貼られ、大きな文字で、『黒崎夏樹様』と書かれていた。


「ここが夏樹君の控室なのね」


 私がそう言うと、ルークも小さく頷いた。


「いよいよだね」

「ええ」


 長谷部さんが軽くノックをする。


「夏樹君、お連れしたわよ」

「どうぞ!」


 聞き慣れた明るい声が返ってきた。長谷部さんがドアを開ける。


「失礼します」


 控室の中は思っていたより広かった。壁際には大きな鏡が並び、その周りには明るい照明が取り付けられている。テーブルには飲み物や軽食が並び、衣装ラックにはステージ衣装が丁寧に掛けられていた。鏡の前には一人の青年が座っている。私たちに気づくと、その青年は立ち上がり、こちらを振り返った。


「紫乙さん!」


 私は思わず息をのんだ。


「……夏樹君?」


 一瞬、別人かと思った。ステージメイクが施され、目元の印象は普段よりもずっと鋭く、髪も丁寧にセットされている。いつもの穏やかな青年ではなく、人気バンド・ディスレクトサイドゼロのボーカリストがそこに立っていた。


「どうかな?」


 少し照れたように尋ねる。


「変じゃない?」

「そんなことないわ」


 私は笑顔で首を横に振った。


「すごく格好いい。最初、本当に別人かと思ったもの」

「ありがとう」


 そう言って夏樹君がふっと笑った。その笑顔を見た瞬間、私はほっと胸をなで下ろした。


「その笑顔」

「え?」

「やっぱり夏樹君ね」


 私がそう言うと、夏樹君は不思議そうに首を傾げた。


「メイクをしていると、すごく大人っぽくて別人みたい。でも、笑うといつもの夏樹君だってすぐ分かるわ」

「うひゃひゃひゃ。本当?」

「ええ。安心したわ」


 兄も腕を組みながら笑う。


「テレビで見るスターそのものだな」

「本当にオーラがあります」


 アレクも感心したように頷いた。夏樹君は少し照れくさそうに頭をかいた。


「そんなに褒められると恥ずかしいな~」


 その照れ笑いも、仕草も、いつもと何一つ変わらない。どれほど華やかなステージメイクを施しても、私たちの知っている優しい夏樹君は、そのままそこにいた。そして、私たちが夏樹君と話をしていると、ドアがノックされた。


「失礼します」


 扉が開き、数人の男性が楽しそうに入ってくる。


「あっ、みんな来た」


 夏樹君が笑顔で振り返った。最初に入ってきたのは、ギターを担当するリーダーの悠人君だった。黒を基調としたステージ衣装に身を包み、普段の穏やかな雰囲気はそのままだが、どこか引き締まった表情をしている。


「こんばんは」


 私たちへ軽く会釈をすると、その後ろからベースの大和君、ドラムの琉芯君、そしてツインギターの聡太郎君も続いて入ってきた。4人ともすでにステージメイクを終えており、衣装も身に着けている。さっき夏樹君を見た時と同じように、普段とは違う空気をまとっていた。


「こんばんは」


 私たちも挨拶を返す。すると、長谷部さんが手を叩いた。


「みんな、お疲れさま。予定より少し早いけど、先にSNS用の写真を撮ってしまいましょう」

「了解です」


 悠人君が頷く。


「じゃあ、いつもの感じでいこうよ」

「うん」


 夏樹君もすぐに返事をした。そのタイミングで、バンドの統括マネージャーの飯野(いいの)さんが入ってきた。

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