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18時。
部屋の中は、すっかり夜の気配に変わっていた。外の雪は消えてしまった。昼のうちにだ。でも、道路の端には白い塊が積み上がり、街灯に照らされてぼんやりと光っている。私はテーブルの上にスマホをセットした。リングライトを点ける。画面に、自分の顔が映る。
「……よし」
深く息を吐く。少しだけ、緊張していた。昨日とは違う。今日は見られている。そういう感覚が、はっきりとある。でも、やると決めた。私は画面をタップした。配信の開始だ。
「こんばんは、オツです」
いつもと同じように、少しだけ笑って言う。――その瞬間だった。コメント欄が、一気に流れ始めた。速い。明らかに、いつもと違う速度だ。
――「きた!!」
――「待ってた!」
――「昨日の人だ!」
――「本物!?」
――「やばい来た!!」
「え……、ちょっと待って、速い速い」
思わず笑ってしまう。視聴者数を確認する。
「……え?」
桁が、違った。普段の何倍もある。
「え、ちょっと待って、何これ……、すごくない?」
自分でも驚いている声が、そのまま配信に乗る。コメントは止まらない。
――「昨日の光なに!?」
――「あれ本物?」
――「CGじゃないよね?」
――「彼氏どこ!?」
――「またやって!!」
「ちょっと落ち着いて……」
私は軽く手を振る。
「昨日のやつね、私もよく分かってないの」
正直に言う。コメントがさらに加速する。
――「嘘でしょ」
――「絶対知ってるでしょ」
――「彼氏関係あるよね?」
――「あの人何者?」
そのときだった。背後で、気配が動く。ルークだ。私はほんの一瞬だけ、そちらに視線を向ける。彼は静かに、少し後ろに立っていた。コメントが、一斉に反応した。
――「いた!!!」
――「彼氏!!」
――「きたきたきた」
――「この人誰!?」
――「やっぱり違和感ある」
「……あー、うん」
私は少しだけ苦笑する。
「昨日もいたけど、この人ね」
軽く手で示す。
「ルーク・ヴェイルよ」
名前を出した瞬間、コメントが跳ねた。
――「ルーク!?」
――「外国人?」
――「俳優?」
――「雰囲気やばい」
――「なんか怖いんだけど」
「怖くないから」
思わず即答する。ルークは、画面の方を見て、小さく手を振った。
「こんばんは」
静かな声だ。それだけなのに、コメント欄が爆発した。
――「声やばい」
――「低音イケボ」
――「絶対普通じゃない」
――「なんか空気違う」
――「この人関係あるでしょ」
「関係あるっていうか……、まあ、あるけど」
曖昧に答える。ここで全部は言えない。言ったら、終わる。そんな気がした。
「今日はね、普通に雑談しようと思ってたの」
話題を変える。コメントが少し落ち着く。その流れの中で、一つ、妙なコメントが目に入った。
――「さっきからノイズ入ってない?」
「え?」
思わず画面を見る。音声は普通だ。でも、コメントは続く。
――「今もなんか聞こえた」
――「ザーって音」
――「電波悪い?」
私は一瞬、言葉を失った。ルークを見る。彼は、無言で首を横に振った。その意味は――“違う”。電波じゃない。じゃあ、何だろうか。




