13-22
テレビ画面には、先ほど撮影されたという映像が繰り返し流れていた。高知市内の交差点。信号待ちをしていた車のドライブレコーダーが、青空を横切る白い閃光を捉えている。続いて、海沿いの公園で撮影されたスマートフォンの映像。最後は桂浜から偶然撮られた動画だった。どれも数秒ほどの短い映像だが、空の一点が眩しく光り、そのまま消えていく様子がはっきり映っている。
『ずいぶん撮られているね』
ルークの声が頭の中へ響く。
「スマートフォンを持っている人が多いもの。昔なら誰も撮れなかったでしょうね」
『時代が変わった』
「ええ。隠し事をするには、少し厄介な時代ね」
私がそう返すと、ルークは少しだけ笑った。
『でも、この程度なら問題ないよ』
「そうなの?」
『映像だけでは正体までは分からないからね。むしろ火球だと思われた方が自然だ』
その言葉に少し安心する。ニュースでも同じようなことを伝えていた。スタジオでは、別の専門家が大型モニターを指しながら説明を始めている。
『最近はドライブレコーダーや防犯カメラが増えていますので、こうした発光現象は以前より記録されやすくなっています。珍しい現象ではありますが、直ちに危険というものではありません』
司会者が頷いた。
『隕石や人工衛星の破片という可能性はありますか?』
『現段階では何とも言えません。ただ、火球であれば全国各地で年間を通して観測されています。映像だけで宇宙由来の人工物などと判断することはできません』
落ち着いた説明だった。視聴者を不安にさせないよう配慮しているのが伝わってくる。私は胸をなで下ろした。
「大きな騒ぎにはならなさそうね」
『今のところは』
ルークの返事は短かった。その一言に、少しだけ引っ掛かるものを感じる。
「何か気になることでもあるの?」
数秒の沈黙。それから、穏やかな声が返ってきた。
『いや。今日の現象そのものは心配していない。ただ……』
「ただ?」
『似たような現象が短期間に何度も続けば、さすがに調査が始まる』
「そういうことね」
『大学の研究機関も動くだろうし、自衛隊や航空関係も記録を集め始めるはずだ』
私はゆっくり頷いた。確かに、一度だけなら珍しい自然現象で終わる。しかし、それが何度も起これば話は変わってくる。
「あなたたちも気を付けないといけないわね」
『そのための規則があるんだ』
ルークの口調は少し真面目になった。
『地球圏へ出入りする船は、人類から極力観測されない航路を選ぶ。どうしても昼間に移動する必要がある場合は、光学迷彩だけじゃなく、大気との干渉も最小限になるよう制御している』
「そんなことまでしているの?」
『もちろん。地球は保護対象だから』
保護対象。その言葉を聞くたびに、不思議な気持ちになる。宇宙には数え切れないほどの文明が存在する。その中で地球は、まだ発展途中の惑星として扱われている。だからこそ、できる限り存在を知られないように配慮されているのだ。
「でも、今日は見つかったわ」
『完全に防ぐことはできないよ』
ルークは苦笑する気配を見せた。
『鳥だって飛んでいれば誰かに見られるだろう?それと同じだ。偶然はある』
「なるほどね」
『今回は一瞬だけだったし、問題はないと思う』
その頃、ニュースでは街の人へのインタビューが始まっていた。
『最初は雷かと思いました』
『すごく明るかったので、流れ星かなって』
『写真を撮ろうと思った時には、もう消えていました』
皆、口々に驚きを話している。しかし、その表情には恐怖というより、珍しいものを見たという好奇心の方が強かった。私はリモコンをテーブルへ置いた。
「みんな楽しそう」
『未知のものを見ると、人は興味を持つからね』
「あなたたちが本当にいると知ったら、もっと驚くでしょうね」
『そうだろうね』
「会ってみたいと思う人もいるでしょうし」
『逆に怖がる人もいる』
その答えに、私は静かに頷いた。きっと、その通りだ。受け入れる人もいれば、拒絶する人もいる。だから宇宙連合は、長い年月をかけて慎重に距離を保ち続けている。ルークが地球へ来ているのも、あくまで限られた任務の一つにすぎない。
「そう考えると、私はずいぶん特別な立場なのね」
『特別だよ』
即答だった。
『僕たちの存在を知っている。それだけじゃない。同じ家で暮らしている。宇宙船だって見ている』
「普通なら考えられないことね」
『うん』
少し照れたような気配が伝わってくる。
『だから僕は、君を守る義務がある』
「義務だけ?」
少し意地悪を言ってみる。すると、すぐに返事が返ってきた。
『義務だけじゃない』
「そう?」
『守りたいから守っている』
その一言は、あまりにも自然だった。飾ることもなく、照れることもなく。だからこそ胸へ真っすぐ届く。私は思わず笑みを浮かべた。
「ありがとう」
『どういたしまして』
その瞬間、浴室の方からシャワーを止める音が聞こえてきた。でも、出てくる気配はない。
「どうしたの?」
『あと3分くらいここにいる』
「結構ゆっくりね」
『ホテルのお風呂だから』
「家でも同じじゃない」
『今日は特別』
楽しそうな声だった。
「気に入ったのね」
『うん。高知のお湯も悪くない』
「それはお湯じゃなくて、お風呂が好きなんでしょう?」
『ばれた?』
「ええ、すっかり」
私はくすりと笑い、窓の外へ目を向けた。高知の街は、少しずつ夕暮れの色へ染まり始めている。あともう少しで会場へ向かう時間だ。今日一番の楽しみが、もうすぐ始まろうとしていた。




