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ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


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 テレビ画面には、先ほど撮影されたという映像が繰り返し流れていた。高知市内の交差点。信号待ちをしていた車のドライブレコーダーが、青空を横切る白い閃光を捉えている。続いて、海沿いの公園で撮影されたスマートフォンの映像。最後は桂浜から偶然撮られた動画だった。どれも数秒ほどの短い映像だが、空の一点が眩しく光り、そのまま消えていく様子がはっきり映っている。


『ずいぶん撮られているね』


 ルークの声が頭の中へ響く。


「スマートフォンを持っている人が多いもの。昔なら誰も撮れなかったでしょうね」

『時代が変わった』

「ええ。隠し事をするには、少し厄介な時代ね」


 私がそう返すと、ルークは少しだけ笑った。


『でも、この程度なら問題ないよ』

「そうなの?」

『映像だけでは正体までは分からないからね。むしろ火球だと思われた方が自然だ』


 その言葉に少し安心する。ニュースでも同じようなことを伝えていた。スタジオでは、別の専門家が大型モニターを指しながら説明を始めている。


『最近はドライブレコーダーや防犯カメラが増えていますので、こうした発光現象は以前より記録されやすくなっています。珍しい現象ではありますが、直ちに危険というものではありません』


 司会者が頷いた。


『隕石や人工衛星の破片という可能性はありますか?』

『現段階では何とも言えません。ただ、火球であれば全国各地で年間を通して観測されています。映像だけで宇宙由来の人工物などと判断することはできません』


 落ち着いた説明だった。視聴者を不安にさせないよう配慮しているのが伝わってくる。私は胸をなで下ろした。


「大きな騒ぎにはならなさそうね」

『今のところは』


 ルークの返事は短かった。その一言に、少しだけ引っ掛かるものを感じる。


「何か気になることでもあるの?」


 数秒の沈黙。それから、穏やかな声が返ってきた。


『いや。今日の現象そのものは心配していない。ただ……』

「ただ?」

『似たような現象が短期間に何度も続けば、さすがに調査が始まる』

「そういうことね」

『大学の研究機関も動くだろうし、自衛隊や航空関係も記録を集め始めるはずだ』


 私はゆっくり頷いた。確かに、一度だけなら珍しい自然現象で終わる。しかし、それが何度も起これば話は変わってくる。


「あなたたちも気を付けないといけないわね」

『そのための規則があるんだ』


 ルークの口調は少し真面目になった。


『地球圏へ出入りする船は、人類から極力観測されない航路を選ぶ。どうしても昼間に移動する必要がある場合は、光学迷彩だけじゃなく、大気との干渉も最小限になるよう制御している』

「そんなことまでしているの?」

『もちろん。地球は保護対象だから』


 保護対象。その言葉を聞くたびに、不思議な気持ちになる。宇宙には数え切れないほどの文明が存在する。その中で地球は、まだ発展途中の惑星として扱われている。だからこそ、できる限り存在を知られないように配慮されているのだ。


「でも、今日は見つかったわ」

『完全に防ぐことはできないよ』


 ルークは苦笑する気配を見せた。


『鳥だって飛んでいれば誰かに見られるだろう?それと同じだ。偶然はある』

「なるほどね」

『今回は一瞬だけだったし、問題はないと思う』


 その頃、ニュースでは街の人へのインタビューが始まっていた。


『最初は雷かと思いました』

『すごく明るかったので、流れ星かなって』

『写真を撮ろうと思った時には、もう消えていました』


 皆、口々に驚きを話している。しかし、その表情には恐怖というより、珍しいものを見たという好奇心の方が強かった。私はリモコンをテーブルへ置いた。


「みんな楽しそう」

『未知のものを見ると、人は興味を持つからね』

「あなたたちが本当にいると知ったら、もっと驚くでしょうね」

『そうだろうね』

「会ってみたいと思う人もいるでしょうし」

『逆に怖がる人もいる』


 その答えに、私は静かに頷いた。きっと、その通りだ。受け入れる人もいれば、拒絶する人もいる。だから宇宙連合は、長い年月をかけて慎重に距離を保ち続けている。ルークが地球へ来ているのも、あくまで限られた任務の一つにすぎない。


「そう考えると、私はずいぶん特別な立場なのね」

『特別だよ』


 即答だった。


『僕たちの存在を知っている。それだけじゃない。同じ家で暮らしている。宇宙船だって見ている』

「普通なら考えられないことね」

『うん』


 少し照れたような気配が伝わってくる。


『だから僕は、君を守る義務がある』

「義務だけ?」


 少し意地悪を言ってみる。すると、すぐに返事が返ってきた。


『義務だけじゃない』

「そう?」

『守りたいから守っている』


 その一言は、あまりにも自然だった。飾ることもなく、照れることもなく。だからこそ胸へ真っすぐ届く。私は思わず笑みを浮かべた。


「ありがとう」

『どういたしまして』


 その瞬間、浴室の方からシャワーを止める音が聞こえてきた。でも、出てくる気配はない。

「どうしたの?」

『あと3分くらいここにいる』

「結構ゆっくりね」

『ホテルのお風呂だから』

「家でも同じじゃない」

『今日は特別』


 楽しそうな声だった。


「気に入ったのね」

『うん。高知のお湯も悪くない』

「それはお湯じゃなくて、お風呂が好きなんでしょう?」

『ばれた?』

「ええ、すっかり」


 私はくすりと笑い、窓の外へ目を向けた。高知の街は、少しずつ夕暮れの色へ染まり始めている。あともう少しで会場へ向かう時間だ。今日一番の楽しみが、もうすぐ始まろうとしていた。

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