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ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


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157/181

13-20

 16時半。


 桂浜から戻った私たちは、宿泊先のホテルへ帰ってきた。潮風の中を歩き回ったせいで、服は汗ばんでいる。これからコンサートへ出かけるのだから、その前にみんなそれぞれシャワーを浴びて身支度を整えることになった。私も汗を流し、コンサート用に持ってきた服へ着替えるつもりだ。部屋へ入ると、ルークはエアコンの風が当たる場所に立ち、気持ちよさそうに息をついていた。


「あなたもシャワーを浴びるでしょう。先に行ってきてもいいわよ」

「君が先でいいよ。僕はもう少し風に当たっているから」

「そう?じゃあ、お先に失礼するわね」


 私は旅行バッグから着替えを取り出すと、その場で服を脱ぎ始めた。以前なら、ルークの前で着替えることなど考えられなかった。でも、今では妙に吹っ切れている。ルークは、私がまだ歩けなかった頃から入浴の介助をしてくれていた。ウォークインだ。浴室で身体を洗い、湯船へ入るところまで付き添ってくれていたという。だから、私の裸など、とっくに見慣れている。しかも本人は、「見ても何も思わない」と平然と言うのだから、こちらとしては少し複雑な気持ちになる。とはいえ、ルークは私が着替え始めると視線を逸らし、こちらを見ようとはしなかった。一応、気を遣ってくれているらしい。


 カチャン。


 浴室の扉を閉める。このホテルは観光ホテルらしく、浴室とトイレが独立していた。洗い場にも十分な広さがあり、バスタブも足を伸ばして浸かれそうな大きさだ。大浴場もあるが、それは明日の朝の楽しみに取っておこう。


「ふぅ……」


 温かなシャワーを浴びると、汗ばんでいた身体がほっと緩んでいく。まずは髪を洗うことにした。 シャンプーとトリートメントは、自宅から持参した『モイストダリーアン ナイトディープリペア』を使う。汚れ落ちがよく、それでいて髪がしっとりまとまるので気に入っている。この商品を見つけてきたのはルークだった。「これを使ってみてほしい」と勧めてきたので、私は何か裏があるのではないかと少し警戒した。香りが強すぎるとか、妙な理由でもあるのだろうと思っていたのだ。


 けれど、実際に使ってみると心配は杞憂だった。ほのかに甘い香りが心地よく、洗い上がりも滑らかだ。シャンプーもトリートメントも、ルークらしい意地悪は何ひとつなかった。ボディーソープも同じシリーズを愛用している。少し値段は張るものの、冬場でも肌が乾燥しにくく、その使い心地には十分満足していた。


 シャワーを浴びながら、ふと脚の疲れに気付く。ふくらはぎが少し張り、腰にもわずかな重だるさが残っていた。椎間板ヘルニアという持病は、やはり厄介だ。長時間歩くと腰へ負担がかかる。今日は無理をしたつもりはないし、桂浜でもゆっくりしたペースで歩いていた。それでも、知らないうちに疲労は溜まっていたようだ。


 このあと向かうコンサートでは、座席があるとはいえ、盛り上がれば周囲の観客と一緒に立って楽しむ時間もあるだろう。終演する頃には、きっと今より腰が痛くなっている。無理だけはしないようにしよう。そう心に決めながら、私はトリートメントを洗い流した。


 ザーー――。


 髪を軽く絞り、大きめのタオルで包むように巻いて水気を吸わせる。それからホテル備え付けのボディーソープをスポンジに取り、きめ細かな泡をたっぷりと立てた。ふわりと立ち上る優しい香りに包まれながら、私は一日の汗と疲れをゆっくり洗い流していった。


 身体を拭き終え、ホテルの備え付けのバスローブを羽織って浴室の扉を開けると、ちょうどルークがシャツを脱いでいるところだった。


「あら、待っていたの?」

「うん。そろそろ出てくる頃だと思っていた」


 ルークは当たり前のように頷く。


「時間なんて見ていなかったでしょう?」

「見なくても分かるよ」


 さらりと言われ、私は苦笑した。


「どうして?」

「君と意識をつないでいるから。それに、一緒に暮らしている。シャワーを浴びる時間も、髪を洗う順番も、だいたい分かる」

「そこまで?」

「もちろん。君が髪にタオルを巻いたことも、数分前から分かっていた」


 便利なのか、少し怖いのか分からない。でも、不思議と嫌な気持ちはしなかった。


「だから脱ぎ始めたのね」

「そういうこと」


 ルークは微笑みながらズボンを脱ぐと、タオルを肩へ掛けた。


「じゃあ、行ってくる」

「ゆっくり入ってきて」

「うん。このホテルのお風呂、楽しみにしていたんだ」


 そう言って浴室へ向かう姿は、どこか機嫌がよさそうだった。宇宙船には身体を浄化する設備があり、短時間で汗や汚れを落とせる。地球人から見れば夢のような装置らしい。けれどルークは、その装置よりも地球の風呂が好きだった。湯気に包まれ、湯へ浸かり、身体が少しずつ温まっていく感覚が好きなのだという。


 初めてそれを聞いた時は意外だった。文明が何千年も進んでいる星の人なのだから、もっと効率だけを求めるのかと思っていた。しかし、ルークは違う。便利なものは便利なものとして使うが、地球ならではの時間の流れも気に入っているらしい。

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