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ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


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 私たちは土産物店を後にし、来た道をゆっくりと戻った。潮風を感じながら歩いていると、目の前に『海のテラス』の建物が見えてくる。ガラス張りの新しい建物で、中には飲食店や土産物店が並び、多くの観光客で賑わっていた。


「やっぱり人が多いわね」


 私が店内を見渡すと、昼食の時間帯は過ぎているというのに、どの店にも列ができている揚げ物の食欲をそそる香り。ソフトクリームを手に歩く人たち。旅行に来たという実感が、ますます湧いてくる。


「お兄ちゃんたちは、ここで食べたかったのよね」


 私が振り返ると、兄が頷いた。


「ああ。ここへ来ることを考えて、ひろめ市場では少し控えめにしておいたんだ」


 私は思わず笑った。


「だから余裕がありそうだったのね」

「作戦成功だ」


 その隣でユリウスさんも笑う。


「カツオバーガーが気になっていたんだ」

「二人とも、計画的ね」


 私たちは店を見て回り、カツオバーガーと芋天を販売している店を見つけた。店先には写真付きのメニューが並び、分厚いカツオのフライを挟んだバーガーがひときわ目を引く。


「これ、美味しそう」


 私は思わず声を漏らした。兄も頷く。


「これを食べたかったんだ」


 兄とユリウスさんはカツオバーガーと飲み物を注文し、私たちは芋天だけをお願いした。


「さすがに、もうバーガーまでは入らないわ」


 私はお腹をさすりながら苦笑する。


「ひろめ市場で食べ過ぎたもの」

「僕も」


 ルークも素直に頷いた。


「でも、芋天は別腹だ」

「それは本当?」

「本当」


 真面目な顔で言うので、私は吹き出した。数分後、番号を呼ばれ、商品を受け取る。兄とユリウスさんのバーガーは紙に包まれており、ずっしりとした重みがあった。一方、私たちの芋天は紙のカップに入っている。丸く切られたさつまいもに衣が付き、こんがりと揚がっていた。


「できたてね」


 ほんのり湯気が立ち上っている。私たちはテラス席へ向かった。風が心地よく吹き抜け、遠くでは波の音が聞こえている。私はペットボトルのお茶を開けた。


「いただきます」

「いただきます」


 みんなで声をそろえる。私は芋天を一つ口へ運んだ。衣はさくっと軽く、中はほくほくと甘い。


「おいしい」


 自然と笑みがこぼれる。


「ひろめ市場の芋天も美味しかったけど、こっちも負けてないわ」

「場所が違うからかな」


 ユリウスさんが空を見上げながら言う。


「こうして海風に吹かれながら食べると、また違った美味しさがある」

「確かに」


 兄も満足そうに頷いていた。


「旅行って景色もごちそうだからね」


 その言葉に、私は深く頷く。同じ料理でも、誰とどこで食べるかで味は変わる。高知の青い海を感じながら食べる芋天は、東京で食べるものとはまったく違う美味しさがあった。その時だった。ルークが私のカップをじっと見ている。


「どうしたの?」

「大きい」

「え?」

「君の芋天の方が大きく見える」


 私は自分のカップとルークのカップを見比べた。


「同じでしょう」

「いや」


 ルークは真剣な表情だ。


「3ミリくらい大きい」

「そんなの分からないわよ」

「気になる」


 私は笑いながら、一番大きそうな芋天を一つ摘まんだ。


「はい」

「くれるの?」

「交換しましょう」


 ルークは嬉しそうに自分のカップから一つ差し出した。二人で交換すると、私は一口食べる。


「……同じ味ね」

「同じだ」

「当たり前でしょう」

「でも、満足だ」


 ルークは交換した芋天を嬉しそうに頬張った。保木君が笑う。アレクはズボンを緩めたいと言いながら、芋天の三つ目を摘まんでいる。


「ルーク、子どもみたい」


 私が笑うと、ルークは首を傾げる。


「旅行では子どもになるものだよ」

「そんな言葉、初めて聞いたわ」

「今、作った」


 私は思わず吹き出した。


「正直ね」

「君が笑ったから成功だ」

「またその理論?」

「うん」


 すると、兄がバーガーを食べながら笑った。


「二人を見ていると、芋天一つでも楽しそうだな」

「そうだね」


 ユリウスさんも優しく微笑む。


「旅行って、こういう時間が一番思い出に残るのかもしれない」


 私は頷いた。耳には波の音。頬を撫でる心地よい潮風。そして、大好きな人たちとの笑い声。私はペットボトルのお茶を一口飲みながら、今日という一日が、きっと忘れられない思い出になるのだろうと静かに感じていた。


 食事を終えると、私たちはホテルへ戻ることにした。今夜はいよいよ、ディスレクトサイドゼロの高知公演がある。ホテルで少し休憩し、着替えを済ませてから会場へ向かう予定だ。開演の一時間前には到着し、約束していた通り、夏樹君たちバンドメンバーの控室を訪ねることになっている。ステージサイドから客席を眺められるそうで、それも今回の楽しみの一つだった。


「早めに戻って準備しないとね」


 私がそう言うと、みんなも頷いた。すると、その時、保木君がスマートフォンを取り出した。


「タクシーを呼んでおきますね」


 配車アプリを開きながら、落ち着いた口調で言う。


「あら、もう呼ぶの?」


 私が尋ねると、保木君は穏やかに微笑んだ。


「はい。こちらへ来た時、タクシーは一台しか待機していませんでしたから」


 そう言えば、到着した時もすぐに次のお客さんを乗せて出発してしまった。


「このままだと、6人一緒には帰れないかもしれません」

「なるほど」

「観光客の多くはバスを利用されるので、市内ほどタクシーの台数は多くないと思います。今のうちに手配しておけば安心ですから」

「さすがね」


 私は思わず感心した。会員制エスコートクラブ・アルカディアで接客をしていただけあって、周囲への気配りが自然と身についているのだろう。


「いえ」


 保木君は照れくさそうに笑う。


「せっかくですから、皆さん一緒に帰れた方が楽しいと思いまして」

「ありがとう」


 私は素直に礼を言った。保木君が配車を依頼している間、私は隣に座るルークへ目を向けた。すると、ルークは椅子に深くもたれかかり、お腹をさすっている。


「もう入らない……」


 珍しく弱々しい声だった。その隣では、アレクも同じように背もたれへ体を預け、大きく息をついている。


「食べ過ぎました……」


 二人とも、まるで動けないと言わんばかりの様子で、椅子にふんぞり返っていた。その姿がおかしくて、私は思わず吹き出してしまう。


「そんなになるまで食べなくてもいいでしょう」

「だって、美味しかったから」


 ルークは真面目な顔で答える。


「旅行だから」

「それ、今日、何回目?」


 私が笑うと、兄も肩を震わせた。


「ルーク、完全に食べ過ぎだな」

「宇宙人にも満腹ってあるんだな」


 ユリウスさんも笑いながら言う。


「もちろんあるよ」


 ルークは胸を張った。


「今、その限界を超えた」


 その一言に、その場のみんなが笑い出した。アレクも苦笑しながら頷く。


「僕も同じです。今日は食べ過ぎました」

「夕食、大丈夫?」


 私が尋ねると、アレクは少し考えてから答えた。


「コンサートが終わる頃には、またお腹が空いていると思います」

「すごいわね」


 私が感心すると、兄が笑った。


「若い証拠だよ」


 海から吹く爽やかな風が、テラスをゆっくりと吹き抜けていく。青く広がる海。穏やかに寄せては返す波。そして、旅先ならではのゆったりとした時間。高知へ来て本当によかった。そんな思いを胸に、私たちは配車されたタクシーへ乗り込み、次の楽しみが待つホテルへ向けて桂浜を後にした。

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