13-18
水族館を後にした私たちは、そのまま隣にある土産物店へ入った。店内には観光客が多く、あちこちから楽しそうな話し声が聞こえてくる。
「お土産がいっぱいね」
私はゆっくりと店内を見渡した。棚には坂本龍馬をモチーフにしたキーホルダーや文房具、お菓子などが並び、水族館の人気キャラクターをデザインしたぬいぐるみや雑貨も数多く置かれている。
「かわいい」
ルークがペンギンのマスコットを手に取った。
「さっき歩いていた子に似てる」
「本当に気に入ったのね」
私は笑いながら棚を眺める。高知限定の商品も多く、見ているだけでも楽しい。店の一角には観光案内のコーナーがあり、高知市内の記念館や美術館、歴史施設などを紹介するパンフレットやチラシが並べられていた。
「あら」
私は一冊手に取る。
「こんなにたくさんあるのね」
兄も興味深そうに覗き込んだ。
「高知城歴史博物館に、坂本龍馬記念館……」
「牧野植物園の案内もありますね」
保木君が一枚のパンフレットを手に取る。アレクも笑顔で頷いた。
「一度では回りきれませんね」
「本当に」
私はパンフレットを眺めながら微笑んだ。今回の旅行では、よさこい祭りとコンサートが中心だ。だから、高知市内をじっくり観光する時間はあまりない。
「次に来た時は、こういう施設をゆっくり巡る旅もいいわね」
「賛成」
ルークがすぐに頷く。
「今度は歴史や文化を楽しむ旅にしよう」
「その時はMY遊バスにも乗りたいわ」
「竹林寺にも行こう」
「牧野植物園もね」
次々と行きたい場所が増えていく。高知には、まだまだ知らない魅力がたくさんあるのだろう。私はパンフレットを一部だけいただき、バッグへしまった。次にこの街を訪れる時の楽しみを胸に描いた。
すると、ルークが棚に並んでいた小さなペンギンのぬいぐるみを指差した。もう片方の手には、おそろいのペンギンのキーホルダーを持っている。
「それが欲しいの?」
私が尋ねると、ルークは素直に頷いた。
「うん」
「気に入ったのね」
「君に似ているから」
私は思わず笑いそうになった。
「まあ、かわいいじゃない」
すると、ルークが慌てて付け加える。
「足が短いって意味じゃないよ」
「余計なことを言ったら買わないから」
私がじろりと睨むと、ルークは慌てて首を振った。
「ごめん、ごめん。本当にそんなつもりじゃないんだ」
「じゃあ、どういう意味?」
「雰囲気が似ているんだよ」
「本当?」
「本当」
私は少し考えてから笑った。
「いいわよ。何かあなたにも買ってあげたいと思っていたし」
「やった」
ルークは嬉しそうにぬいぐるみを抱えた。その時だった。ユリウスさんがすっと近づき、ルークの手からぬいぐるみとキーホルダーを受け取ると、そのままレジへ向かおうとした。私は慌てて後を追う。
「ユリウスさん、いいのよ。私が買うから」
すると、ユリウスさんは笑って首を横に振った。
「いや、いいんだよ」
「でも……」
「旅の思い出だからね。僕からルークへのお土産ってことで」
そこまで言われると、断るのも申し訳ない。私はルークを見た。
「ルーク、お礼を言って」
ルークは素直に頭を下げた。
「ユリウス君、ありがとう」
「どういたしまして」
ユリウスさんは穏やかに微笑む。
「月島君のことで、いつも苦労を掛けているからね」
「そんなことないよ」
ルークは苦笑した。その言葉に、私の耳がぴくりと反応する。
「え?」
私は兄を見る。
「お兄ちゃん、何かしたの?」
兄は苦笑いを浮かべたまま目を逸らした。保木君は肩を震わせ、アレクは口元を押さえて笑っている。どう見ても、何か隠している。
「お兄ちゃん」
「何でもないよ」
「何でもない顔じゃないでしょう」
「本当に大したことじゃない」
「言って」
私がじっと見つめると、兄は観念したようにため息をついた。
「ルークの警備サービスの船を一隻、僕のところへ回してもらったんだ」
「それだけ?」
「サービスを体験してみたくてね」
私は首を傾げた。
「別に変なことじゃないじゃない」
「……」
兄は黙っている。アレクはさらに笑いをこらえている。絶対に何かある。
「どうしてそれが苦労になるの?」
私が尋ねると、兄はまた、何でもないとはぐらかした。ますます怪しい。私は今度はルークへ視線を向けた。ルークは買ってもらったぬいぐるみの入った袋を嬉しそうに持ちながら、困ったように笑っている。
「ルーク」
「うん?」
「話してちょうだい」
ルークは、仕方ないなという顔で肩をすくめた。
「警備サービスは三隻の警備船が交代で僕を担当しているんだ」
「うん」
「そのうち一人が、地球に付き合っている相手がいるからシフトを替えてほしいって頼んできたんだ」
「そうだったの」
「だから替わってあげた。そのお礼に、凰李が希望していたサービスをやってもらったんだよ」
「どんなサービス?」
ルークは少し笑って続けた。
「ユリウス君の様子を観察して、凰李へ報告するサービス」
「え?」
私は思わず目を丸くした。
「小型の警備船がユリウス君の部屋へこっそり入っていってね」
ユリウスさんが苦笑する。
「気付いた時は本当に驚いたよ」
「それで?」
「月島君と少し言い合いになった」
私は額に手を当てた。
「お兄ちゃん……」
兄は悪びれる様子もなく頷く。
「便利なサービスだと思ったんだ」
「便利って……」
「ユリウス君が何をしているのか逐一レポートしてくれるから、参考になった」
「参考って何のよ!」
私が思わず突っ込むと、兄は平然と答えた。
「恋人との距離感の勉強だ」
その一言で、保木君とアレクはとうとう吹き出した。ユリウスさんは苦笑しながら額を押さえる。
「だから苦労を掛けてるって言ったんだ」
「もう、お兄ちゃんったら……」
私は呆れながらため息をついた。それでも兄はどこか満足そうで、ルークは嬉しそうにペンギンのぬいぐるみを抱き締めている。高知旅行の思い出は、また一つ賑やかな出来事と一緒に増えていくのだった。




