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すると、スタッフが思い出したように口を開いた。
「そうだ」
「はい?」
「もうすぐペンギンのお散歩が始まりますよ」
「えっ、本当ですか?」
私の声が少し弾んだ。
「あと5分ほどで、この通路を通ります」
スタッフは目の前のルートを指差してくれる。
「飼育員がペンギンたちを連れて歩きますので、近くでご覧いただけますよ」
「わあ!」
私は思わずルークを見る。ルークも目を輝かせていた。
「見たい」
「私も!」
兄も笑う。
「これはちょうどいいタイミングだったな」
ユリウスさんも頷いた。
「ショーは残念だったけど、こっちも楽しそうだ」
保木君が周囲を見回す。
「ここなら見やすそうですね」
アレクも頷いた。
「近くを歩いてくれるなら、写真も撮れそうです」
「それじゃあ」
私は嬉しそうに笑った。
「ここで待ちましょう」
みんなも賛成し、通路の邪魔にならない場所へ移動する。周りにも、もうすぐ始まるんだと話しながら集まってくる観光客が少しずつ増えてきた。私もその気持ちは同じだった。あと5分。ペンギンたちが、この目の前を歩いてくれる。そう思うだけで、自然と笑みがこぼれていた。
私たちはペンギンのお散歩コースの脇で待つことにした。あと5分ほどとはいえ、楽しみにしていると時間が少し長く感じる。その間、保木君が館内の案内板を眺めながら声を上げた。
「紫乙さん」
「どうしたの?」
「この水族館にはアカメが展示されているそうです」
「アカメ?」
私は聞き返した。名前は聞いたことがあるような気がするが、どんな魚なのかまでは知らない。保木君は案内板を見ながら説明してくれた。
「高知県を代表する魚の一つなんです。四万十川や浦戸湾などに生息していて、日本では高知で見られることで有名なんですよ」
「そうなのね」
「名前の通り、目が赤く見える大型魚です。『幻の魚』とも呼ばれているそうですよ」
「幻の魚?」
私は思わず目を丸くした。兄も興味深そうに頷く。
「テレビで見たことがあるな。釣り人には憧れの魚らしい」
「そうなのね。せっかく高知まで来たんだもの、帰る前に見に行きましょう」
「賛成です」
アレクも頷く。
「高知ならではの魚なら、ぜひ見てみたいですね」
「僕も」
ルークも嬉しそうだった。そんな話をしていると、館内放送が流れた。
『まもなくペンギンのお散歩を始めます』
その一言で、周囲の空気が一気に明るくなる。誰かが歓声を上げ、大人たちがスマートフォンを手に集まり始めた。
「来る!」
私は思わず背筋を伸ばす。すると、奥の扉が開いた。飼育員さんの後ろから、よちよちと歩くペンギンたちが姿を現す。
「かわいい!」
あちこちから歓声が上がった。ペンギンたちは慌てる様子もなく、一羽ずつゆっくり歩いてくる。左右に体を揺らしながら、小さな足で一歩一歩前へ進む姿が何とも愛らしい。周囲ではスマートフォンを構える人が一気に増えた。私も慌ててスマートフォンを取り出す。
「動画にしよう」
ルークが言う。
「そうね」
私たちは動画撮影を始めた。目の前を歩くペンギンたちは、時折立ち止まって辺りを見回したり、隣の仲間へ顔を向けたりしている。
「かわいい……」
私は思わず笑みがこぼれた。その時だった。ルークが真顔で私を見た。
「紫乙」
「何?」
「あの歩き方」
私はペンギンを見る。
「うん」
「君が腰を痛めた時の歩き方にそっくりだ」
「え?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「ほら」
ルークはペンギンの歩きを真似するように少し体を揺らした。
「こんな感じ」
その瞬間だった。兄が吹き出した。
「ぶ……!」
肩を震わせながら笑い始める。
「確かに。この前、そんな歩き方をしていた」
「お兄ちゃんまで!」
私は思わず声を上げた。保木君も笑いをこらえきれず顔を背けている。アレクまで口元を押さえて肩を震わせていた。ユリウスさんも小さく笑っている。
「ルーク!」
私はルークの方を向いた。
「何?」
本人だけが本気で不思議そうな顔をしている。
「悪気はないよ」
「余計に悪いわ!」
私は思い切りルークの頬をつねった。
「いたたたた!」
「誰がペンギンと同じ歩き方よ!」
「本当に似てたんだって!」
「言わなくていいでしょう!」
「痛い、痛い!」
ルークは声を上げる。その様子を見て、兄たちはますます笑い出した。
「二人とも仲がいいなあ」
兄が笑いながら言う。
「旅行中も変わらない」
「もう」
私は頬を膨らませながら手を離した。ルークは自分の頬をさすり、少しだけ拗ねたような顔をする。
「正直に言っただけなのに」
「正直すぎるの!」
私が言い返すと、ルークはふっと笑った。
「でも、怒ってる顔もかわいい」
「そういう問題じゃないわ」
私はため息をつきながらも、つい笑ってしまった。周囲では、相変わらずペンギンたちがのんびりと歩き続けている。その愛らしい姿と、みんなの笑い声が重なり、水族館の穏やかな空気をさらに温かなものにしていた。
高知らしい生き物たちとの出会い。仲間たちとの何気ない笑い合い。そのどれもが、この旅行を特別な思い出へと変えてくれている。私はスマートフォンをしまいながら、水族館の入口を振り返った。
「また来たいわね」
その言葉に、みんなが笑顔で頷いた。桂浜水族館は、楽しい思い出とたくさんの笑顔を私たちに残しながら、静かに旅の一ページを彩ってくれたのだった。




