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ゆっくりと目を開ける。隣を見ると、ルークも真剣な表情で手を合わせていた。普段は冗談ばかり言う彼が、こういう時だけは驚くほど静かになる。その横顔を見て、私は自然と微笑んだ。
参拝を終えると、社殿の脇に小さな案内が置かれていることに気付いた。
「あら」
私は近づいて読んでみる。
『御朱印をご希望の方は、一枚500円を賽銭箱へお納めください。御朱印はご自由にお持ちください』
「書き置きの御朱印なのね」
兄も案内を読んで頷いた。
「最近はこういう神社も増えている」
「せっかくだからいただこうか」
ユリウスさんが言う。
「旅の記念にもなるし」
「そうね」
私も賛成した。6人それぞれ5百円を賽銭箱へ納め、社殿の横に置かれている御朱印を一枚ずついただく。白いな袋に丁寧に入れられていて、中には御朱印だけでなく、小さな木製の栞も添えられていた。透明な袋に入っていた。
「かわいい」
私は袋を開けずに眺める。御朱印には海津見神社の社名と力強い朱印、そして今日の日付が墨書きされていた。
「ちゃんと今日の日付が入っているわね」
「旅の記念になりますね」
保木君も嬉しそうに見つめている。木の栞には、波を思わせる優しい木目が残され、神社の名前が焼き印で刻まれていた。
「これ、本に挟んで使えるわね」
私が言うと、アレクが微笑む。
「僕は仕事の手帳に入れようと思います」
「いいですね」
保木君も頷いた。
「毎日見られますから」
一方のルークは、御朱印を両手で大切そうに持ちながら満足そうに笑っていた。
「これも思い出になるね」
「ええ」
私は袋をそっとリュックサックへしまう。今日という日は二度と戻ってこない。だからこそ、この日付の入った御朱印には、写真とはまた違う旅の記憶が刻まれているような気がした。海から吹き抜ける風が、再び境内を優しく通り抜ける。私はもう一度だけ朱色の社殿へ向かって軽く一礼し、この場所へ来られたことへの感謝を胸に刻みながら、ゆっくりと神社を後にしようとした。その時だった。
「あら?」
私は境内の奥に、小さな石の祠が建っていることに気付いた。
「もう一つ神社があるわ」
その先には、ひっそりと佇む小さな社がある。朱色の社殿とは対照的に、素朴で静かな雰囲気をまとっていた。近くまで歩いていくと、案内板が目に入る。
「早高神社……」
私は名前を読み上げた。ルークも隣へ来て頷く。
「ここは桂浜で一番高い場所にある神社なんだ」
「そうなの?」
「うん。この辺りでは一番見晴らしのいい場所らしい」
私は改めて周囲を見渡した。確かに先ほど参拝した海津見神社よりも少し高い位置にあり、海も浜辺も一望できる。潮風が心地よく吹き抜け、木々の葉がさらさらと音を立てていた。
「せっかくここまで来たんだもの」
私はみんなの方を振り返る。
「こちらにもお参りしましょう」
「もちろん」
兄が微笑む。
「二つの神社を参拝できる機会なんて、そう多くないからね」
ユリウスさんも頷き、保木君とアレクも笑顔を見せた。私たちは静かな境内をゆっくり歩き、小さな石の祠へ向かって足を進めた。私たちは石畳の小道を進み、早高神社の前へ立った。海津見神社と比べると、こちらはずっと小さなお社だった。石造りの祠が静かに佇み、長い年月をこの場所で過ごしてきたことが伝わってくる。周囲には背の高い木々が立ち並び、木漏れ日が石畳に優しく落ちていた。すぐ近くには海があるはずなのに、こちらは波音も少し遠く感じられる。
「落ち着く場所ね」
私は小さく呟いた。
「人も少ない」
ルークも辺りを見回す。海津見神社には多くの参拝客が並んでいたが、こちらまで足を運ぶ人はそれほど多くないようだった。
「静かだから、ゆっくりお参りできそうだ」
兄が穏やかに笑う。私たちは順番に祠の前へ進んだ。賽銭箱へお賽銭を納め、姿勢を正す。二礼。二拍手。そして、静かに手を合わせた。私は目を閉じる。風が木々を揺らし、葉擦れの音が耳に心地よく響く。先ほどは海を前に旅の安全を願った。今度は少し違う願いを心の中で唱える。これからも、大切な人たちが笑顔で過ごせますように。そして、自分自身も一歩ずつ前へ進んでいけますようにと。
ゆっくりと目を開くと、目の前には静かな祠があった。どこか優しく見守ってくれているような、不思議な安心感が胸に広がる。
「お参りできてよかった」
私が振り返ると、ルークも柔らかな表情で頷いた。
「ここは空気が違うね」
「ええ」
私は微笑む。
「海津見神社が海を見守る神社なら、ここは静かに桂浜全体を見守っているような気がするわ」
兄も周囲を見渡しながら頷いた。
「高い場所だからこそ、この景色をずっと見守ってきたんだろうな」
私たちはもう一度だけ祠へ軽く一礼すると、穏やかな空気に包まれながら、次の目的地である桂浜水族館へ向かうことにした。




