13-14
海沿いの遊歩道をしばらく歩いていくと、小さな石橋が見えてきた。
「あれが龍宮橋ね」
私は足を止めた。橋は石造りで、周囲の景色によく溶け込んでいる。派手さはないが、海へ向かう道の雰囲気によく合っていて、どこか趣があった。橋の脇へ目を向けると、大きな岩場が広がっている。その先には海へ続く細い通路のような場所が見えたが、入口には柵が設けられ、『立入禁止』の表示が掲げられていた。
「向こうには行けないのね」
私が言うと、ルークが頷く。
「その先は崖になっているんだ」
彼は海の方を指差した。
「崖の下には砂浜が広がっているよ」
「そうなの?」
「高さはそれほどじゃないから、下りられないことはない。でも、危ないから立入禁止になっているんだ」
私は改めて地形を眺めた。
「なるほど。神社は桂浜から少し張り出した場所に建っているものね。こういう地形だったのね」
「そういうこと」
ルークは穏やかに笑う。
「今、歩いてきた浜辺は自由に歩けるけど、あっちは足場が悪いから危険なんだ」
「どうしても向こうへ行きたい人は?」
「公園の外へ出て、海沿いの堤防を回れば行けるよ」
「詳しいのね」
私が感心すると、ルークは少し照れたように笑った。
「空から確認してあるから」
「え?」
「君に危険がないように、事前に周辺を見ておいたんだ」
その一言に、私は思わず笑みを浮かべた。
「ありがとう」
「当然だよ」
ルークはさらりと言う。
「旅行中に怪我なんてしてほしくないからね」
そんな会話をしていると、ルークが私の手をそっと引いた。
「こっち」
「え?」
前を見ると、神社から参拝を終えた人たちが階段を下りてきていた。階段はそれほど広くない。私たちは端へ寄り、参拝客が通り過ぎるのを待った。
「ありがとうございます」
すれ違う人たちが軽く会釈をしてくれる。私たちも笑顔で頭を下げた。やがて人の流れが途切れ、目の前に石段が現れる。
「ここを上れば海津見神社ね」
「行こう」
兄が先頭に立ち、私たちも後に続いた。一段、一段とゆっくり上っていく。30段ほどだろうか。石段は少し幅が狭く、両脇には手すりが設けられている。
「思ったより歩きやすいですね」
保木君が周囲を見回す。
「手すりがあるので助かります」
アレクも頷いた。
「安心ですね」
潮風を受けながら最後の数段を上り切ると、視界が一気に開けた。
「わあ……!」
私は思わず声を上げる。
「着いたわね!」
目の前には、海へ張り出すように建てられた神社の境内が広がっていた。広さはそれほどないが、きれいに舗装され、奥には鮮やかな白と朱色の社殿が静かに佇んでいる。参拝客が列を作り、それぞれ順番を待ちながら静かに手を合わせていた。
「きれいな神社ね」
私はゆっくりと辺りを見回した。そして、境内の端へ近づき、海の方へ目を向ける。眼下には切り立った岩壁が続き、その下では波が力強く砕け散っていた。
ザーーーーッ。
ザザーーーッ。
規則正しく響く波音が耳に心地よい。青く澄んだ海に白い飛沫が舞い上がり、潮風が頬を優しく撫でていく。潮の香りを胸いっぱいに吸い込みながら、私はしばらくその雄大な景色に見入っていた。
景色を眺めた後、私たちは参拝の列へ並んだ。境内はそれほど広くないため、一度にお参りできる人数も限られている。それでも列はゆっくりと進み、海から吹く風が暑さを和らげてくれていた。私は社殿を見上げる。鮮やかな朱色が青い空によく映え、小さいながらもどこか厳かな雰囲気があった。兄が案内板を見ながら口を開く。
「ここは海津見神社というんだ」
「海津見神社……」
私はその名前を繰り返した。
「『わたつみ』と読むそうだよ」
ルークも案内板へ目を向ける。
「海の神様をお祀りしている神社なんだね」
案内板には、祭神は海神である海津見大神で、古くから航海の安全や大漁、海上安全を願う人々の信仰を集めてきたことが記されていた。桂浜は古くから港へ出入りする船を見守る場所でもあり、多くの漁師や船乗りたちが航海の無事を祈願してきたという。
「だから龍王宮とも呼ばれているのね」
私は納得した。目の前にはどこまでも続く太平洋が広がっている。この景色を毎日見守ってきた神様なのだろう。
「海らしい神社ですね」
保木君が静かに言った。
「本当に」
私は頷いた。やがて私たちの順番が回ってきた。6人で社殿の前へ進む。まずは静かに一礼し、それぞれ賽銭箱へお賽銭を納める。私は姿勢を正した。二礼。二拍手。そして、もう一度静かに手を合わせる。目を閉じると、波の音がすぐ近くから聞こえてきた。
ザ――。
ザザ――。
規則正しく打ち寄せる波音は、まるで神様の息遣いのようにも感じられる。私は心の中で静かに願った。今回の旅行が最後まで無事に終わりますように。家族や仲間たちが健康で過ごせますように。そして、ルークと、これからも笑いながら旅ができますようにと。




