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一方で、アレクは地球のお金を用意していた。保木君のところで暮らすには、それが必要だと言っていた。地球人に溶け込むためだし、生活もしないといけない。私はそれを聞き、ルークもお金を用意できるのだと察した。でも、ルールがあるのなら仕方がないのか。ルークは店先に出ているメニューの看板を見ている。
「美味しそうだ。でも、今は入らない」
「それが正解よ」
そこで、アレクもお腹をさすりながら笑う。
「僕も今は無理ですね」
「夕飯までにはお腹を空かせないと」
保木君も同意した。今夜はディスレクトサイドゼロのコンサートが終わった後、ホテルへ戻る前に軽く何か食べようという話になっている。今ここで食べ過ぎるわけにはいかなかった。
「帰る前にお土産を見てもいいかもね」
私が言うと、兄が頷く。
「その方が荷物にならなくていい」
「最後に寄りましょう」
そう話しながら施設を抜ける。建物の先には、石造りの階段が続いていた。
「海へ下りるんだね」
ルークが先を覗き込む。
「ええ」
私は頷いた。
「神社は浜辺の先にあるの」
ゆっくりと階段を下りていく。すると、目の前が一気に開けた。
「わあ……」
思わず息をのむ。青く輝く太平洋。白い波が砂浜へ打ち寄せ、その音が心地よく響いている。浜辺には多くの観光客が思い思いに過ごしていた。波打ち際を歩く人。砂浜へ座って海を眺める人。写真を撮る人。子どもたちは波が来るたびに歓声を上げている。
「きれい」
私は自然と微笑んだ。
「テレビで見るよりずっと広いわ」
「本当だ」
ルークも目を細める。
「海がどこまでも続いている」
砂浜の脇にはアスファルトで整備された遊歩道が延びている。それは桂浜の先端へ向かって続いていた。私はその先へ目を向ける。
「あった」
遠くに赤い建物が見える。鮮やかな朱色が緑の中でひときわ目立っていた。
「あれが海津見神社よ」
「龍王宮とも呼ばれている神社ですね」
保木君がパンフレットを見ながら言う。
「そう」
私は頷いた。
「海の神様が祀られているの」
「海らしい場所だね」
ルークが穏やかに笑う。すると、海風が少し強く吹き、私の帽子が飛ばされそうになる。私は慌てて帽子を押さえた。
「今日は風も気持ちいいわね」
「暑いが、この風があるだけで全然違う」
兄も海を眺めながら言った。私たちは歩道へ入り、ゆっくりと海岸線を歩き始める。左にはどこまでも続く青い海。右には松林が広がる。波の音を聞きながら歩いていると、時間までゆっくり流れているような気がした。これから参拝する神社では、今回の旅行が最後まで無事に過ごせることをお願いしよう。そう思いながら、私は朱色に輝く社殿を目指して、一歩ずつ歩みを進めた。
波の音を聞きながら遊歩道を歩いていると、前方に楽しそうな声が響いてきた。
「人が集まっているわね」
私が視線を向けると、建物の入り口が見えてきた。
「あれが桂浜水族館だ」
兄が指さす。入口には多くの観光客が集まり、家族連れやカップルがチケットを手に笑顔で写真を撮っていた。小さな子どもたちは、水族館の看板を見るだけで興奮している。
「楽しそう」
私は思わず微笑んだ。
「帰りにゆっくり見よう」
ルークも頷く。
「アシカもいるんだよね」
「そうよ。ウミガメも人気みたい」
「楽しみだ」
水族館のすぐ隣には、お土産ショップが並んでいた。高知限定のお菓子や坂本龍馬のグッズ、海をモチーフにした雑貨などが店先いっぱいに並べられている。風鈴が風に揺れ、涼しげな音を立てていた。
「帰りにここも見たいですね」
保木君が店内を覗き込みながら言う。
「そうね。やっぱり最後がいいわね」
私も賛成した。まだ歩き回る予定なのだから、今は身軽な方がいい。さらに歩いていくと、小さな軽食店が見えてきた。店先では揚げたてのポテトフライが販売されている。ジュワッという油の音とともに、香ばしい匂いが辺りへ漂ってきた。
「またいい匂い……」
ルークが足を止める。私は思わず笑ってしまった。
「あなた、本当に匂いに弱いのね」
「お腹はいっぱいなんだけど」
ルークは少し照れたように笑う。
「匂いだけで食べたくなる」
「その気持ちは分かるわ」
私も店先を見る。ポテトフライのほかにも、ソフトクリームやかき氷、冷たいジュースなど、夏らしいメニューが並んでいた。
「飲み物もあるわね」
「神社の帰りに休憩してもいいかもしれない」
兄が提案する。
「それなら、腹も落ち着いているだろう」
「賛成」
ユリウスさんも笑顔で頷いた。その時だった。放送が流れ始めた
『ご来園の皆様にお知らせいたします。桂浜は遊泳禁止となっております。海へ入ることは大変危険ですので、おやめください。皆様のご理解とご協力をお願いいたします』
落ち着いた女性の声が、浜辺全体へ響いた。私は思わず海へ目を向ける。
「遊泳禁止なのね」
「桂浜は波が高い日も多いからな」
兄が説明してくれた。
「見た目は穏やかでも、急に深くなったり流れが速かったりするんだ」
「なるほど」
私は青く広がる海を見つめた。遠くから眺めていると、とても穏やかで入りたくなるような海に見える。けれど、美しい景色だからこそ、危険な場所でもあるのだろう。波は絶え間なく砂浜へ打ち寄せ、白い飛沫を上げていた。
「見る海なんだね」
ルークが静かに呟く。私は頷いた。
「ええ。今日は景色を楽しんで、神社へお参りして、水族館も楽しみましょう」
そう言うと、みんなも笑顔で頷き、私たちは再び海津見神社を目指して歩き始めた。




