13-12
何でもない時には見ることができるのに、探したらいないなんて。私は目を細めて、遠くの方を見た。
「うーーん。見えないものね」
「普通は見えないよ」
ルークは楽しそうにシャッターボタンを押した。
カシャッ。
もう一枚。
カシャッ。
角度を少し変え、また撮影する。
「写るの?」
「分からない」
ルークは笑いながら答えた。
「写らないかもしれない」
「それでも撮るのね」
「こういうのは記念だから」
私は思わず笑ってしまう。
「あなた、本当に楽しそう」
「楽しいよ」
ルークは少年のような笑顔を浮かべた。
「あとで拡大したら、光が写っていることもあるから」
「なるほど」
保木君も興味深そうにスマートフォンの画面を覗き込む。
「そんなことがあるんですね」
「たまにね」
アレクが穏やかに答えた。
「人間の目には見えなくても、カメラには光だけ写る場合があります」
「不思議ね」
「向こうもこちらを撮っているかもしれないし」
ルークがさらりと言った。
「えっ?」
私が振り向く。
「撮られているの?」
「たぶん」
ルークは悪びれる様子もなく頷いた。
「警備記録としてね」
「そういうことなら安心だけど」
「紫乙が坂本龍馬像の前で笑っていたから、記録に残ってるかも」
「ちょっと恥ずかしいわ」
私が苦笑すると、ルークはまた一枚、空へ向かってシャッターを切った。カシャッ。その姿は、子どものように生き生きとしている。私はその横顔を見ながら微笑んだ。宇宙船が写るかどうかは分からない。でも、こうして旅先で空を見上げ、目には見えない誰かに思いを馳せながら写真を撮る時間も、きっと私たちらしい旅の思い出になるのだろう。
ルークは最後に満足そうに画面を確認すると、自撮り棒をたたんだ。
「これでよし」
「電池は大丈夫?」
「もちろん」
ルークはリュックサックのポケットを軽く叩いた。
「モバイルバッテリーも持ってきたから、一日中撮っていても平気だよ」
「準備万端ね」
「旅行だからね」
その一言に、私は思わず笑顔になった。ふと隣を見ると、兄がスマートフォンを構え、私たちの様子を静かに撮影していた。
「お兄ちゃん、いつの間に」
「自然な表情が一番いいからな」
兄は笑いながらシャッターを切る。カメラの先には、ルークが空を見上げながら写真を撮る姿と、それを不思議そうに眺める私たちの姿が収まっているのだろう。
「後で送る」
「ありがとう」
私は微笑んで答えた。改めて考えると、不思議な顔ぶれだった。私と兄とユリウスさんは地球人。ルークはアルタイル星人。アレクはベガ星人。そして、兄とユリウスさんはハトホルの職員である。それぞれ生まれも立場も違う6人が、こうして桂浜で笑い合いながら観光を楽しんでいる。もし数年前の私にこの光景を見せたとしても、きっと信じなかっただろう。地球の観光地で、異なる星の仲間たちと肩を並べ、旅行を楽しむ日が来るなんて、想像したこともなかった。
兄は撮った写真を確認しながら満足そうに頷く。
「いい写真だ」
「どれどれ?」
私が画面を覗き込むと、そこには自然な笑顔の私たちが写っていた。青空の下、坂本龍馬像を背に、それぞれが思い思いの表情を浮かべている。私はその一枚を見ながら、胸の中が少し温かくなった。きっと、この写真は何年たっても、大切な思い出として残り続けるのだろう。
私たちは坂本龍馬像の前を後にし、来た道をゆっくりと引き返した。木陰を抜けるたびに潮風が頬を撫で、さっきよりも少しだけ暑さが和らいだように感じる。
「次は神社ね」
私が言うと、兄が案内図を確認しながら頷いた。
「ああ。海のテラスを通って行くと近い」
「楽しみ」
私は自然と足取りが軽くなる。坂を下り切ると、目の前に新しい建物が姿を現した。海のテラスだ。ルークが周囲を見回す。木材を多く使った開放感のある建物で、店内の様子がよく見えた。外にはテラス席も設けられていて、海風を感じながら食事を楽しめるようになっている。
「きれいな建物ね」
私が感心すると、ユリウスさんも頷いた。
「観光地らしい雰囲気だ」
施設の中へ入ると、一気に活気が伝わってきた。昼のピークは過ぎているはずなのに、飲食店の前にはまだ多くのお客さんが並んでいる。家族連れ。カップル。海外からの観光客らしい人たち。どの店も笑顔で賑わっていた。
「まだこんなに混んでいるのね」
私は驚きながら歩く。
「夏休みだからかな」
保木君が周囲を見回した。
「よさこい祭りの期間でもありますし」
「両方だろうな」
兄が笑う。店先を通るたびに、おいしそうな香りが鼻をくすぐる。焼きたてのハンバーガー。炭火で焼いた魚。揚げたての天ぷら。ソフトクリームやジェラートを持って歩く人も多い。
「いい匂いだ……」
ルークが立ち止まりそうになる。私は思わず笑った。
「また食べる気?」
「匂いだけ」
「さっき芋天を食べたいって言っていたものね」
「龍馬バーガーも」
「まだ言ってる」
私が苦笑すると、ルークは笑った。今度は何を買ってもらおうかと言っている。本当にお金を持っていない。でも、のんびりしている。




