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ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


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13-11

 私たちは坂本龍馬像を目指して歩き始めた。遊歩道の両側には木々が生い茂り、木陰へ入ると、海から吹いてくる風が心地よく頬を撫でる。真夏の日差しは強いものの、木漏れ日の中を歩いていると少し暑さが和らいだ。


「気持ちいいわね」


 私は空を見上げながら深呼吸する。潮の香りと緑の匂いが混ざり合い、高知らしい自然を感じられた。道はゆるやかな坂になっている。行きは上り坂だが、それほど急ではない。息が切れるような勾配ではなく、観光を楽しみながら歩くにはちょうどいい道だった。私たちの前にも後ろにも観光客の姿がある。みんな同じ方向へ歩いているので、迷う心配もなかった。


「この人の流れについて行けば着きそうね」


 私が笑うと、兄も頷く。


「桂浜で一番人気の場所だからな」


 数分ほど歩くと、木々の向こうに大きな台座が見えてきた。


「着いたわ」


 私は思わず足を止める。目の前には、堂々とした坂本龍馬像がそびえ立っていた。


「わあ……」


 自然と声が漏れる。想像していた以上に大きい。見上げるほどの高さがあり、龍馬は太平洋の彼方を見つめるように立っていた。


「顔が見えないくらい高いのね」


 私が感心していると、兄が笑いながら説明してくれた。


「毎年秋になると、龍馬さんの顔の高さまで上がれる特設展望台が設置されるんだ」

「そうなの?」

「ああ。坂本龍馬の誕生日に合わせたイベントだ。龍馬さんは海を見つめるように建てられているんだ」


 私は改めて像を見上げた。確かに、その視線の先には広い太平洋が広がっている。幕末という激動の時代、この海の向こうに新しい時代を思い描いていたのだろうか。


「素敵ね」


 私は自然と微笑んだ。


「私たちも記念写真を撮りましょうよ」

「賛成」


 ルークがすぐに頷く。私はリュックサックを開き、自撮り棒を取り出した。シャフトをゆっくりと伸ばし、最大の長さまで固定する。


「今日は配信しないんですか?」


 保木君が尋ねる。


「今日はしないわ」


 私は首を横に振った。


「みんなとゆっくり観光したいもの」


 もちろん、公園の管理者へ許可を取れば配信もできただろう。でも、今日のような日はやめておいた方がいいだろう。観光地ではどうしても他の人が映り込んでしまう。映っていなくても、映されたと思われてしまうこともある。今までいろいろな配信者の動画で、そうしたトラブルを何度も見てきた。カメラがあるだけで、人は落ち着かなくなる。せっかくの旅行なのだから、今日は画面越しではなく、自分たちの目で景色を楽しみたかった。


「ホテルに戻ったら、少しだけ配信する予定だけどね」

「それがいいと思う」


 ルークも賛成してくれた。


「今日は旅行を楽しもう」


 私はみんなの方へ向き直る。


「はい、みんな入って!」


 自撮り棒を高く掲げる。6人が自然と集まり、龍馬像を背に並んだ。


「タイマーにするわね」


 画面を確認し、3秒タイマーを設定する。


「はい、笑って!」


 パシャッ。続いて、パシャッ、パシャッ。連続で何枚か撮影した。確認してみると、龍馬像はあまりにも大きく、画面には足元から腰のあたりまでしか入っていなかった。


「やっぱり高いわね」


 私は思わず笑ってしまう。


「これじゃ龍馬さんの顔が見えない」

「秋にまた来ないといけないな」


 兄が笑う。


「展望台がある時期なら、顔の近くまで行ける」

「それも楽しそう」


 私はもう一度カメラを構えた。


「今度はみんなの顔を中心に撮るわ」


 自撮り棒を少し短くし、構図を調整する。龍馬像は背景として少しだけ映る程度になった。


「はい、いくわよ!」


 私は声を掛ける。


「3、2、1!」


 パシャッ。シャッター音が心地よく響く。画面を見ると、今度は6人の笑顔がしっかり収まっていた。背景には青空と龍馬像。高知らしい、とてもいい一枚だった。


「これなら完璧ね」


 私は満足そうに微笑み、その写真をみんなにも見せた。


「あとでホテルで送り合いましょう」


 そう言うと、みんなも嬉しそうに頷いた。私は自撮り棒を短くたたみ、リュックサックへしまおうとした。すると、横からすっと手が伸びてくる。


「借りるね」


 ルークだった。


「あら、写真を撮るの?」

「うん」


 そう言うと、ルークは自撮り棒をもう一度伸ばし、スマートフォンを取り付けた。そして、私たちではなく、海の方へレンズを向ける。私は首を傾げた。


「何を撮るの?」

「宇宙船」

「え?」


 思わず海の方を見た。青い空。白い雲。穏やかに波打つ太平洋。どこを見ても、宇宙船らしいものは見当たらない。


「何も見えないわよ」

「肉眼ではね」


 ルークはにこりと笑う。


「警備サービスの船が来ている」


 私は驚いてもう一度空を見上げた。


「本当に?」

「うん。たぶん二隻」


 隣でアレクも同じ方向を見て頷く。


「僕にも確認できます。やっぱり来ていますね」

「桂浜の上空?」

「少し沖の方です」


 私は目を細めて探してみる。けれど、やはり何も見えない。雲がゆっくり流れているだけだった。

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