表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
145/178

13-8

 私たちの前では、次のチームが演舞を始めていた。去年大賞を受賞したチームだった。追手筋はひときわ大きな拍手に包まれた。そして、演舞が終わり、踊り子たちが退場し、次のチームが流れてきた。本部演舞場では、それぞれのチームが追手筋を流れるように列になって踊っている。目当てのチームを見終わったのか、観客も少しずつ場所を移動し始めていた。


「近くで見られてよかったわね」


 私は満足そうに笑う。


「うん」


 ルークも頷いた。


「思った以上に迫力があった」


 その時だった。


「きゃっ!」


 前方から女性の悲鳴が聞こえた。私は反射的にそちらを見る。一人の観客が足をもつれさせてよろめき、その拍子に周囲の人たちも体勢を崩した。


「あっ……」


 後ろにいた人たちは何が起きたのか分からないまま押され、人の波が一気にこちらへ押し寄せてくる。


「紫乙!」


 ルークの声が耳元で響いた。次の瞬間、私は腕を引かれ、そのまま彼の胸へ引き寄せられる。


「きゃっ!」


 ルークは私をしっかりと抱き寄せたまま、人波を避けるように後方へ下がった。押される人たちの間をすり抜け、安全な場所まで一気に移動する。驚くほど素早い動きだった。守護者として鍛えられた身体能力だからこそできるのだろう。数秒後、前方ではスタッフが駆けつけ、人の流れも落ち着きを取り戻した。


「紫乙」


 ルークが私の肩へ手を添える。


「大丈夫?」


 私はまだ鼓動が速いまま頷いた。


「……ええ」

「怪我は?」

「ないわ」


 ルークは私の顔をじっと見つめ、安心したように小さく息を吐いた。


「よかった」


 その優しい表情を見た瞬間、胸がじんわりと熱くなる。私は照れ隠しに笑った。


「あなた、優しいのね」


 そう言うと、ルークは少しだけ首を傾げた。


「当然だよ」


 私はさらに胸が高鳴る。ラブロマンスのような展開を想像した。ルークとは全くそういうことがなくて、友達同士とか、家族とか、そういう感じだった。でも、これからはそうではないのか知れない。そんな期待が膨らんだ、その時だった。


「君がいなくなると困るから」


 私は思わず目をぱちぱちさせた。


「え?」

「僕、お金持ってないし」


 ルークは真面目な顔のまま続ける。


「君がいないと、お茶も買えないし、ご飯も食べられない」

「……」

「ホテルにも帰れない」


 私はじっとルークを見つめた。ルークは笑いもせずに言った。


「だから、大事なんだ」


 言葉をここだけ切り取れば、胸が高鳴る展開だ。でも、その前に出した言葉で、肩の力が抜けた。


「ルーク」

「うん?」

「今の感動、返して」

「え?」

「せっかく『守ってくれた』って、ときめいていたのに」


 私は両手を広げた。


「ときめきを返して」


 そこで、保木君が思わず吹き出す。


「ルークさん、それはないですよ」

「そうですよ!」


 アレクも苦笑しながら頷いた。


「最後まで格好よく決めればよかったのに」

「僕は本当のことを言っただけなんだけど」


 ルークは不思議そうに首を傾げる。兄まで笑い始めた。


「ルークらしいな」


 ユリウスさんも肩を震わせる。


「嘘がつけないんだよね」


 私は大きくため息をついた。


「もう」

「怒った?」

「半分だけ」

「残りの半分は?」

「ちゃんと助けてくれたことには感謝してる」


 私がそう言うと、ルークは安心したように笑った。


「それならよかった」

「でもね」


 私はルークの腕を軽くつついた。


「次に助けてくれた時は、『紫乙が大切だから』って先に言って」

「その後に、お金の話をしてもいい?」

「駄目」

「どうして?」

「台無しになるからよ」


 私が笑いながら言うと、みんなも一斉に笑い出した。祭りの熱気と笑い声に包まれながら、私たちは再び追手筋の演舞へと視線を戻した。次のチームを待つ人、新しい場所へ移動する人で歩道は賑わっている。夏の日差しは相変わらず強かったが、祭りの熱気の方が勝っているように感じられた。


「来てよかったな」


 兄が満足そうに笑う。


「写真で見るのと、生で見るのとじゃ全然違う」

「本当に」


 私も頷いた。


「明日は指定席でゆっくり見られるのが楽しみ」

「今日は雰囲気だけでも十分満足できたね」


 ルークも笑顔を見せる。すると、兄が腕時計を見ながら言った。


「まだ夜まで時間があるな」

「そうね」

「せっかくだから桂浜へ行かないか?」


 私は思わず兄の顔を見る。


「桂浜?」

「ああ」


 兄が頷く。


「海も見たいし、坂本龍馬像も見ておきたい」

「いいわね」


 私は自然と笑顔になった。高知といえば桂浜。一度は訪れてみたい場所だった。しかし、すぐに別のことが頭に浮かぶ。私は兄とユリウスさんを見た。今回の旅行は、二人でゆっくり過ごせる時間を大切にしたいと思っていただろう。別行動するということになっていた。


「でも……」


 私は少し遠慮がちに言った。


「お兄ちゃんたちは二人で回った方がいいんじゃない?」

「え?」

「せっかくの旅行なんだから。私たちは私たちで市内を歩いているから」


 兄は少し困ったように笑った。


「気を遣わなくてもいいのに」

「そうよ」


 私は笑う。


「夕方にはまたホテルで会えるし」


 すると、それまで静かに話を聞いていたユリウスさんが、私の手を取った。


「紫乙さん」

「え?」

「一緒に行こう」


 そのまま軽く手を引かれる。


「え、でも……」

「坂本龍馬像、一緒に見よう」


 ユリウスさんは楽しそうに笑った。


「桂浜は景色もいいし、お土産屋もたくさんある」

「それに」


 兄も続ける。


「飲み物も食べ物も結構売ってるぞ」

「アイスもあるし」

「名物も食べられる」

「本当に?」


 私が聞き返すと、兄は力強く頷いた。


「海も綺麗だ。飽きないだろう」


 すると、ユリウスさんがさらに笑顔になる。


「桂浜水族館も行こう」

「水族館?」

「面白いぞ」

「アシカもいるし、ウミガメもいる」

「ペンギンも近くで見られる」


 私は思わずルークを見る。ルークも少し興味を示しているようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ