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場内アナウンスが流れ、演舞が次々と始まっていく。私たちは観覧席には座らず、立ち見エリアから祭りを眺めていた。周囲には私たちと同じように、少しでも近くで踊りを見ようという観光客が大勢集まっている。前へ進もうとする人。スマートフォンを掲げる人。子どもを肩車しているお父さん。歓声と拍手が絶えず響き、追手筋全体が熱気に包まれていた。
「すごい人ね」
私は思わず息をつく。
「昨日の花火大会も混んでいたって聞いたけど、それ以上かもしれないわ」
ルークも周囲を見回して頷いた。
「これだけ人がいても、皆が楽しそうだ」
「一年で一番盛り上がる祭りだからな」
兄も笑顔を浮かべている。その時だった。地方車からの総合MCの声がした。『蒼耀』だ。ネットの中継サイトには、『SOUYOU- by プラセル』と出ている。地方車に乗っているのは、ボーカル、和太鼓、三味線、ギター、ベース、キーボード、音響スタッフだった。私は思わず顔を上げた。
「来た!プラセルが衣装提供したチームよ!」
ほどなくして、演舞待機場所から大勢の踊り子たちが姿を現した。
「きれい……」
思わず声が漏れる。衣装は白とシルバーを基調としていた。真っ白な生地に、光を受けて輝く銀色の装飾。肩や袖には繊細な刺繍が施され、歩くだけでも光が反射してきらめいている。動きを大きく見せる長めの袖が風を受けて揺れ、まるで光の羽をまとっているようだった。
「一貴さんらしいデザインね」
私は思わず呟いた。派手さだけではない。上品さと力強さを両立させた衣装だった。
「すごく綺麗です」
保木君も目を奪われている。
「テレビで見るよりずっと映えますね」
アレクも腕を組みながら感心した。
「白がここまで映えるとは思いませんでした」
兄が説明を続ける。
「蒼耀は毎年人気のチームだ。今年は70人で参加すると聞いている」
「70人も?」
ルークが驚く。
「会社員や大学生が中心なんだが、その中に20人くらいダンススクールへ通っている人たちが入っているらしい」
「だから動きが揃うのね」
私が納得すると、兄も頷いた。音楽が流れ始めた。最初は静かな笛の音。その後、大太鼓が力強く鳴り響く。
ドン――。
腹の底まで響く低音だった。70人の踊り子が一斉に構える。そして。
「はいっ!」
威勢のいい掛け声とともに、演舞が始まった。鳴子の音が一斉に重なる。その音だけで鳥肌が立った。
「すごい……」
私は息をのむ。全員の動きがぴたりと揃っている。一歩踏み出すタイミング。腕を上げる高さ。視線の向き。どれ一つ乱れがない。70人が一つの生き物のように動いていた。
「これだけ揃うものなの?」
ルークが感心している。
「相当練習したんでしょうね」
保木君も目を離せない様子だった。演舞が進むにつれ、隊形が次々と変化する。二列。四列。大きな円。そして斜めへ広がる隊形。どの形になっても乱れない。衣装の白が夏の日差しを受け、銀色の装飾がきらきらと輝く。まるで光の波が追手筋を流れていくようだった。
「本当に綺麗」
私は小さく呟く。一貴さんは、この光景を想像しながらデザインしたのだろう。布の広がり方。光の反射。踊った時の見え方。そのすべてを計算した衣装なのだと思う。すると、アレクが微笑んだ。
「社長に写真を送りたくなりますね」
「きっと喜ぶわ」
私は頷いた。
「今日は仕事で来られなかったけれど、この演舞を見たら嬉しいでしょうね」
ルークも演舞を見つめたまま静かに言う。
「衣装を作る人は、自分の作品が生きて動く瞬間を見るのが、一番幸せなのかもしれない」
私はその言葉に頷いた。踊り子たちは衣装を着ることで、さらに輝いて見える。そして、衣装もまた、踊り子が動くことで命を吹き込まれる。どちらが欠けても完成しない。そんな演舞だった。最後の決めのポーズが決まると、追手筋は大きな拍手と歓声に包まれた。観客全員が自然と立ち上がり、惜しみない拍手を送っている。私も夢中で手を叩いていた。
「素晴らしかったわ……」
心からそう思った。高知へ来てまだ数時間。それなのに、もう思い出ができていた。そして、大きな拍手が鳴り響く中、蒼耀の演舞が終わった。踊り子たちが笑顔で手を振りながら去っていく。私はその後ろ姿を見送り、大きく息を吐いた。
「すごかったわね」
「うん」
ルークも満足そうに頷く。
「衣装も綺麗だった」
「一貴さん、見たら泣いていたかもしれないわ」
「いや」
ルークが真面目な顔で言う。
「泣く前に、縫い目を確認すると思う」
私は思わず吹き出した。
「それはありそう」
「『あそこはもう少し改良できるな』って言うよ」
「そこまで想像できるわ」
二人で笑っていると、ルークが私の帽子のつばを軽く持ち上げた。
「汗、かいてる」
「今日は暑いもの」
「熱中症にならないようにね」
「分かってるわ」
私はペットボトルのお茶を一口飲んだ。すると、ルークが私の顔をじっと見つめる。
「……何?」
「いや」
「何よ」
「今日の紫乙、楽しそうだなって」
その一言に、私は少し照れくさくなった。
「だって、高知に来たかったんだもの」
「宇宙船目当て?」
「違うわ」
「異星人探し?」
「それも違う」
「じゃあ、僕との旅行?」
私は少し考えてから微笑んだ。
「それもあるわね」
ルークの表情がぱっと明るくなる。
「『それも』?」
「全部よ」
私は笑いながら指を折った。
「よさこい祭りも、高知のご飯も、みんなとの旅行も、あなたと一緒にいることも」
「最後が一番嬉しい」
「そう?」
「うん」
ルークは本当に嬉しそうに笑った。その笑顔を見ていると、私まで頬が緩む。すると突然、ルークが私の手をそっと握った。
「人が多いから」
「迷子防止?」
「そう」
「私は子どもじゃないわよ」
「でも、屋台があったらすぐ行きそうだ」
「そんなこと……」
否定しようとして、私は言葉に詰まる。さっきも、いも天の屋台を見て足を止めてしまった。
「図星だね」
「……少しだけ」
「だから離さない」
ルークはそう言って、握った手を少しだけ強くした。周りは祭りの熱気に包まれ、大勢の人が行き交っている。その中で手をつないで歩くのは、少し恥ずかしかった。でも、不思議と嫌ではない。
「じゃあ」
私は小さく笑う。
「迷子にならないように、しっかりつないでいてね」
「任せて」
ルークは得意そうに頷いた。その姿がおかしくて、私はまた笑ってしまうのだった。




