表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
144/177

13-7

 場内アナウンスが流れ、演舞が次々と始まっていく。私たちは観覧席には座らず、立ち見エリアから祭りを眺めていた。周囲には私たちと同じように、少しでも近くで踊りを見ようという観光客が大勢集まっている。前へ進もうとする人。スマートフォンを掲げる人。子どもを肩車しているお父さん。歓声と拍手が絶えず響き、追手筋全体が熱気に包まれていた。


「すごい人ね」


 私は思わず息をつく。


「昨日の花火大会も混んでいたって聞いたけど、それ以上かもしれないわ」


 ルークも周囲を見回して頷いた。


「これだけ人がいても、皆が楽しそうだ」

「一年で一番盛り上がる祭りだからな」


 兄も笑顔を浮かべている。その時だった。地方車からの総合MCの声がした。『蒼耀』だ。ネットの中継サイトには、『SOUYOU- by プラセル』と出ている。地方車に乗っているのは、ボーカル、和太鼓、三味線、ギター、ベース、キーボード、音響スタッフだった。私は思わず顔を上げた。


「来た!プラセルが衣装提供したチームよ!」


 ほどなくして、演舞待機場所から大勢の踊り子たちが姿を現した。


「きれい……」


 思わず声が漏れる。衣装は白とシルバーを基調としていた。真っ白な生地に、光を受けて輝く銀色の装飾。肩や袖には繊細な刺繍が施され、歩くだけでも光が反射してきらめいている。動きを大きく見せる長めの袖が風を受けて揺れ、まるで光の羽をまとっているようだった。


「一貴さんらしいデザインね」


 私は思わず呟いた。派手さだけではない。上品さと力強さを両立させた衣装だった。


「すごく綺麗です」


 保木君も目を奪われている。


「テレビで見るよりずっと映えますね」


 アレクも腕を組みながら感心した。


「白がここまで映えるとは思いませんでした」


 兄が説明を続ける。


「蒼耀は毎年人気のチームだ。今年は70人で参加すると聞いている」

「70人も?」


 ルークが驚く。


「会社員や大学生が中心なんだが、その中に20人くらいダンススクールへ通っている人たちが入っているらしい」

「だから動きが揃うのね」


 私が納得すると、兄も頷いた。音楽が流れ始めた。最初は静かな笛の音。その後、大太鼓が力強く鳴り響く。


 ドン――。


 腹の底まで響く低音だった。70人の踊り子が一斉に構える。そして。


「はいっ!」


 威勢のいい掛け声とともに、演舞が始まった。鳴子の音が一斉に重なる。その音だけで鳥肌が立った。


「すごい……」


 私は息をのむ。全員の動きがぴたりと揃っている。一歩踏み出すタイミング。腕を上げる高さ。視線の向き。どれ一つ乱れがない。70人が一つの生き物のように動いていた。


「これだけ揃うものなの?」


 ルークが感心している。


「相当練習したんでしょうね」


 保木君も目を離せない様子だった。演舞が進むにつれ、隊形が次々と変化する。二列。四列。大きな円。そして斜めへ広がる隊形。どの形になっても乱れない。衣装の白が夏の日差しを受け、銀色の装飾がきらきらと輝く。まるで光の波が追手筋を流れていくようだった。


「本当に綺麗」


 私は小さく呟く。一貴さんは、この光景を想像しながらデザインしたのだろう。布の広がり方。光の反射。踊った時の見え方。そのすべてを計算した衣装なのだと思う。すると、アレクが微笑んだ。


「社長に写真を送りたくなりますね」

「きっと喜ぶわ」


 私は頷いた。


「今日は仕事で来られなかったけれど、この演舞を見たら嬉しいでしょうね」


 ルークも演舞を見つめたまま静かに言う。


「衣装を作る人は、自分の作品が生きて動く瞬間を見るのが、一番幸せなのかもしれない」


 私はその言葉に頷いた。踊り子たちは衣装を着ることで、さらに輝いて見える。そして、衣装もまた、踊り子が動くことで命を吹き込まれる。どちらが欠けても完成しない。そんな演舞だった。最後の決めのポーズが決まると、追手筋は大きな拍手と歓声に包まれた。観客全員が自然と立ち上がり、惜しみない拍手を送っている。私も夢中で手を叩いていた。


「素晴らしかったわ……」


 心からそう思った。高知へ来てまだ数時間。それなのに、もう思い出ができていた。そして、大きな拍手が鳴り響く中、蒼耀の演舞が終わった。踊り子たちが笑顔で手を振りながら去っていく。私はその後ろ姿を見送り、大きく息を吐いた。


「すごかったわね」

「うん」


 ルークも満足そうに頷く。


「衣装も綺麗だった」

「一貴さん、見たら泣いていたかもしれないわ」

「いや」


 ルークが真面目な顔で言う。


「泣く前に、縫い目を確認すると思う」


 私は思わず吹き出した。


「それはありそう」

「『あそこはもう少し改良できるな』って言うよ」

「そこまで想像できるわ」


 二人で笑っていると、ルークが私の帽子のつばを軽く持ち上げた。


「汗、かいてる」

「今日は暑いもの」

「熱中症にならないようにね」

「分かってるわ」


 私はペットボトルのお茶を一口飲んだ。すると、ルークが私の顔をじっと見つめる。


「……何?」

「いや」

「何よ」

「今日の紫乙、楽しそうだなって」


 その一言に、私は少し照れくさくなった。


「だって、高知に来たかったんだもの」

「宇宙船目当て?」

「違うわ」

「異星人探し?」

「それも違う」

「じゃあ、僕との旅行?」


 私は少し考えてから微笑んだ。


「それもあるわね」


 ルークの表情がぱっと明るくなる。


「『それも』?」

「全部よ」


 私は笑いながら指を折った。


「よさこい祭りも、高知のご飯も、みんなとの旅行も、あなたと一緒にいることも」

「最後が一番嬉しい」

「そう?」

「うん」


 ルークは本当に嬉しそうに笑った。その笑顔を見ていると、私まで頬が緩む。すると突然、ルークが私の手をそっと握った。


「人が多いから」

「迷子防止?」

「そう」

「私は子どもじゃないわよ」

「でも、屋台があったらすぐ行きそうだ」

「そんなこと……」


 否定しようとして、私は言葉に詰まる。さっきも、いも天の屋台を見て足を止めてしまった。


「図星だね」

「……少しだけ」

「だから離さない」


 ルークはそう言って、握った手を少しだけ強くした。周りは祭りの熱気に包まれ、大勢の人が行き交っている。その中で手をつないで歩くのは、少し恥ずかしかった。でも、不思議と嫌ではない。


「じゃあ」


 私は小さく笑う。


「迷子にならないように、しっかりつないでいてね」

「任せて」


 ルークは得意そうに頷いた。その姿がおかしくて、私はまた笑ってしまうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ