13-6
食事を終える頃には、テーブルいっぱいに並んでいた料理もほとんど空になっていた。
「ごちそうさまでした」
私たちは手を合わせ、それぞれがお茶を飲んで一息つく。
「全部おいしかったね」
ルークが満足そうに笑う。
「カツオのたたきが一番印象に残った」
「本場だからな」
兄も頷く。
「塩で食べるたたきは、東京じゃなかなか味わえない」
「ウツボもおいしかったです」
保木君が笑顔で言う。
「もっと癖があると思っていました」
「僕も驚きました」
アレクも頷いた。
「高知の料理は面白いですね」
ユリウスさんは湯飲みを置きながら笑う。
「まだ二日ある。また来てもいいな」
「その気持ちは分かるわ」
私は苦笑した。
「ここだけでも食べたいものがたくさんあるもの」
食器を返却口へ運び、市場を後にする。外へ出ると、真夏の日差しが降り注いでいた。青空には白い雲が浮かび、蝉の鳴き声が響いている。
「暑い……」
保木君が思わず額を押さえた。
「高知の夏を甘く見ていました」
「水分補給はしっかりね」
私はペットボトルのお茶を取り出した。
「これから結構歩くから」
全員が頷き、それぞれ飲み物を口にする。兄がスマートフォンで地図を開いた。
「ここから追手筋までは歩いてすぐだ」
「近いのね」
「祭りの時は歩いた方が早い」
兄の案内で、私たちは広め市場を出て、追手筋に向かって歩いた。そばにある商店街も演舞場になっているらしい。人であふれかえっていた。すでに街全体がお祭り一色になっている。鳴子を手にした踊り子たちが、それぞれの集合場所へ向かって歩いていた。色鮮やかな衣装はチームごとにまったく違う。青を基調にしたもの。赤や金を大胆に使ったもの。法被姿のチームもあれば、洋風にアレンジされた衣装もある。
「すごい……」
ルークが感心したように見渡す。
「こんなにたくさんのチームがあるんだね」
「今年は198チームが参加するのよ。踊り子の数は1万8千人よ」
私が説明すると、ルークは目を丸くした。
「そんなに?」
「ええ。全国から集まってくるの」
アレクも周囲を見ながら笑う。
「皆さん楽しそうですね」
「一年かけて練習してきた人たちだから」
私は自然と笑顔になった。少し歩くと、遠くから音楽が聞こえ始める。太鼓の音。そして、鳴子の軽快な響き。まだ本部競演場には着いていない。それでも街全体が祭りのリズムに包まれていた。
「もう始まっているんですね」
保木君が耳を澄ませる。
「ええ。演舞場ごとに順番に踊っているの」
交差点を曲がると、人の流れがさらに多くなった。警備員が誘導を行い、ボランティアスタッフがパンフレットを配っている。その先には、長く伸びる追手筋が見えた。
「着いたわ」
私は思わず立ち止まる。道路の両側には大きな観覧席がずらりと設けられ、多くの観客が座っていた。すでに埋まっている。テレビ中継用のカメラも設置され、スタッフが忙しく準備を進めていた。
「これが本部競演場……」
ルークが静かに呟く。
「想像以上だ」
私も頷いた。
「ここが一番有名な会場なの」
そこへ、兄が説明を続ける。
「明日の夜は、僕たちもこの観覧席で見ることになっている」
「指定席だから安心ですね」
保木君が笑った。
「今日は雰囲気を楽しむだけですね」
「ええ」
私は観覧席を見上げながら答える。
「今日は自由に歩き回って、祭りの空気を感じたいの」
ユリウスさんも周囲を見回していた。
「十分楽しめそうだ」
「明日は座ってゆっくり見られるしな」
兄も笑う。すると、演舞開始を知らせる場内アナウンスが流れた。観客席から拍手が起こる。遠くの待機場所では、踊り子たちが円陣を組み、気合いを入れていた。
「始まるね」
ルークが期待に満ちた声で言う。
「ええ」
私は自然と胸が高鳴った。ネットでは何度も見てきた。けれど、生で見るのは初めてだった。そして、その時だった。ルークが小さく私の袖を引く。
「紫乙」
「どうしたの?」
「あそこ」
ルークが空を見上げていた。私もつられて視線を向ける。真夏の青空には白い雲がゆっくり流れている。一見すると何も変わらない。けれど、私には分かった。雲のさらに高いところに、小さな白い光がいくつも静止している。肉眼では星ほどの大きさしかない。しかし、それは鳥でも飛行機でもなかった。
「……宇宙船」
私は思わず小さく呟いた。ルークが静かに頷く。
「10隻以上いる」
アレクも空を見上げた。
「今日は多いですね」
「やっぱり見に来ているのね」
私は思わず笑ってしまう。玲司さんが話していたことは本当だった。この祭りを見守るように、多くの宇宙船が上空へ集まっている。もちろん、周囲の観光客は気付いていない。皆、これから始まる演舞へ期待を寄せ、前だけを見ている。その光景が少し不思議で、そして温かく感じられた。
地球の人々と、異星から訪れた人々。同じ祭りを、それぞれの場所から見守っている。私は青空の彼方に浮かぶ小さな光を見つめながら、これから始まる熱い夏の祭典へ胸を躍らせていた。




