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食事を楽しんでいると、隣のテーブルからヨールさんがこちらへ視線を向け、優しく微笑んだ。どうやら地球人の女性も料理を持って戻ってきたらしい。
「おいしそうですね」
ヨールさんが言う。
「そちらも」
私も笑顔で返した。
「高知は初めてなんです」
女性が嬉しそうに話す。
「ずっと来てみたかったので」
「私たちも同じです」
ほんの短い会話だったが、不思議と親近感が湧いた。異星から来た守護者が隣にいても、こうして普通に食事を楽しんでいる。その光景は、とても自然だった。兄がカツオを食べながら小さく笑う。
「高知って、不思議な場所だ」
「どうして?」
私が尋ねる。
「祭りを楽しみに来た人たちがいて、その中に異星の人たちも自然に混じってる。誰も気付かないまま同じ料理を食べて、同じ景色を見てるんだ」
私は静かに頷いた。確かにその通りだった。もしルークと出会っていなければ、私は隣に守護者が座っていることにも気付かなかっただろう。今も市場の中には、きっと何人もの異星の人たちがいる。プレアデス星団。アルタイル。ベガ。そして、まだ知らない星々から来た人たち。みんなが人間と同じように笑い、食事を楽しみ、この祭りを眺めている。そんな光景を想像すると、世界が少しだけ広くなった気がした。
「午後からは本番ね」
私はウーロン茶を飲みながら言う。
「よさこい祭り」
「楽しみだ」
ルークが素直に笑う。
「写真もたくさん撮ろう」
「配信もあるものね」
「うん」
私は窓の外から聞こえてくる鳴子の音に耳を澄ませた。まだ演舞場へ向かう途中のチームなのだろう。軽やかなリズムが、夏の高知の空気に溶け込んでいる。旅はまだ始まったばかり。午後には、この街が一年で最も熱く輝く瞬間を、自分の目で見ることができる。その期待に胸を膨らませながら、私はもう一切れ、藁焼きの香り豊かなカツオのたたきを口へ運んだ。
食事を楽しんでいると、その時だった。一人の女性が私たちのテーブルの前をゆっくり歩いていく。40代半ばくらいだろうか。買い物袋を片手に、人混みを縫うように歩いている。けれど、その様子を見ていて私は少し首を傾げた。誰かと話しているように見えるのだ。楽しそうに相槌を打ち、ときどき笑っている。でも、周囲には誰もいない。
「……独り言?」
私が小さく呟くと、ルークがカツオを食べる手を止めた。
「違うよ」
「え?」
「あの人には今、守護者がウォークインしている」
私は思わず女性を見つめ直した。やっぱりそうなのだ。ルークは静かに説明を続ける。
「一つの身体に、今は二人いる状態だ」
「そういうことなのね」
私は納得した。私もルークがウォークインしている時は同じ状態になる。ただ、私たちは頭の中で会話をしている。だから、周囲から見れば普通に歩いているだけだ。しかし、彼女は違った。会話をそのまま声に出しているので、周りから見ると、一人で話しているようにしか見えない。
「こんなに混んでいるんだから、来週に来ましょうよ」
女性が少し困ったように笑う。数秒置いて、また返事をする。
「ええ、それは分かるけど……」
まるで、本当に隣に誰かがいるような話し方だった。周囲の人たちは気にも留めていない。祭りの日だからだろうか。独り言を言う人だと思っているだけなのかもしれない。ルークがその姿を見送りながら言った。
「どうやら地元の人みたいだね」
「分かるの?」
「服装や話し方もそうだけど、守護者が『また来られる』という前提で話している。観光客なら、来週もう一度来ようとはあまり言わないから」
「なるほど」
確かにその通りだった。旅行なら今日しか来られない人も多い。来週また来ようという感覚は、地元で暮らしている人だからこそなのだろう。
「お祭りを見に来たのかしら」
「たぶんね」
ルークは穏やかに頷いた。
「今日は守護者たちも多い。こういう大きな祭りは、彼らにとっても人気があるから」
「そうなんだ」
私は改めて市場の中を見回した。さっき出会ったヨールさん。兄が見かけたアルタイルの人。プレアデス星団の人たち。そして、今の女性。短い時間の間に、これだけ多くの異星の人たちの存在を知ることになるとは思ってもいなかった。
「本当に異星人を見かける日ね」
私は思わず笑ってしまう。
「こんなこと、東京では滅多にないもの」
アレクも頷いた。
「日本の祭りって人気ですからね。よさこい祭りの場合は踊りがありますから、ベガからも見に来た人が多いと思います。いろんな星から来ているんでしょう」
「そうかもしれないわ」
私は市場に響く笑い声へ耳を傾けた。目の前では地球の人たちが旅を楽しみ、そのすぐそばでは異星から来た人たちも同じように祭りを満喫している。その境界は驚くほど自然で、知らなければ誰も気付かない。そんな光景を見つめながら、私は改めて、旅行に来て本当によかったと思った。




