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12時半。
私たちはホテルから歩いて10分ほどの場所にある、ひろめ市場へやって来た。昼時ということもあり、市場の中は大勢の観光客で賑わっている。県外から来た人だけではない。地元の人らしいグループや家族連れの姿も多く、店先からは威勢のいい呼び込みの声が響いていた。
市場内には約60店舗が軒を連ね、カツオのたたきや土佐料理、揚げ物、餃子、スイーツまで、さまざまな店が屋台のように並んでいる。ひろめ市場はフードコート形式になっており、それぞれの店で料理を購入し、市場中央に並ぶテーブルと椅子で自由に食事を楽しめる。席数はかなり多い。それでも、この時間帯はほぼ満席だった。
「すごい人ね」
私は思わず周囲を見回した。テーブルの間を料理を持った人たちが行き交い、あちこちから楽しそうな笑い声が聞こえてくる。お祭りの日らしい活気だった。
「席、空くかな」
ルークが少し心配そうに言う。
「回転は早いから大丈夫だと思うわ」
そう答えたものの、内心では少し不安だった。6人で座れる席を見つけるのは簡単ではない。そこで私たちは、まず席を確保することを優先した。市場内をゆっくり歩きながら空席を探していると、ちょうど食事を終えた6人組が席を立った。
「空いた!」
私は思わず声を上げる。すぐにルークがテーブルへ向かい、私も続いた。
「運がよかったね」
ルークが笑う。
「本当に」
私もほっと胸をなで下ろした。待ち始めてから15分ほどだった。これだけ混雑している中で6人席を確保できたのだから、かなりタイミングが良かったのだろう。
「じゃあ、料理を買ってきますね」
保木君が言う。
「僕たちで回ってきます。人数が多い方が早そうですから」
すると、兄も笑顔で口を開いた。
「この市場は冬にも来たことがあるから、どの店に何があるか大体分かる」
「さすが、お兄ちゃん」
「任せてくれ。ユリウス君、一緒に行こう」
「ああ」
ユリウスさんも頷く。こうして兄、ユリウスさん、アレク、保木君の4人が料理を買いに向かうことになった。土地勘のある兄が案内役になれば、効率よく店を回れる。私は安心して送り出した。席に残ったのは、私とルーク2人だった。私はテーブルに肘をつきながら、市場の活気を眺める。店先では藁焼きの炎が勢いよく上がり、香ばしい香りが風に乗って流れてきた。
「いい匂い」
ルークが小さく呟く。
「お腹が空いてきた」
「飛行機に乗ってから何も食べていないものね」
「うん」
私は笑いながら、兄たちが何を買ってくるか思い浮かべた。カツオのたたきは二皿。高知へ来たら外せない料理だ。それに餃子を二人前。ウツボの唐揚げ。青さのりの天ぷら。土佐巻き。そして、高知名物のいも天。6人で囲めば、テーブルいっぱいに料理が並ぶだろう。考えただけで楽しくなってくる。
「豪華なお昼になりそうね」
私がそう言うと、アレクも嬉しそうに笑った。
「全部食べ切れるでしょうか」
「きっと大丈夫よ」
そんな話をしていると、一人の女性が近くを見回しながら歩いてきた。私と同じくらいの年齢だろうか。困ったような表情で、空席を探している。ちょうどその時、私たちのすぐ近くの三席が空いた。
「どうぞ」
私は女性に声をかけた。すると、女性はぱっと表情を明るくした。
「ありがとうございます ちょうど空いたなんて、本当に助かりました」
「よかったですね」
女性は何度も頭を下げながら席へ座る。手に持っていたペットボトルのお茶を一口飲み、大きく息をついた。
「これで一安心」
そう呟いた次の瞬間だった。私は思わず目を見開いた。女性の身体から、一人の女性が静かに姿を現したのである。
「……!」
私は驚いて息をのむ。ルークが私の中から現れた時と、まったく同じだった。透き通るような雰囲気をまとった、美しい女性。長い髪を揺らしながら、穏やかな笑みを浮かべている。
「ヨール、待っていて。私が買ってくるから」
「ええ。待っているわ」
女性はそう言い残し、料理を買いに歩いていった。席には、ヨールと呼ばれた女性だけが残る。すると、ヨールさんは、私たちへ柔らかく微笑みかけた。ルークとアレクが静かに会釈を返す。
「知り合いなの?」
私が小声で尋ねると、ルークが頷いた。
「あの人はアルタイルから来た守護者だよ」
「やっぱり……」
私が驚いていると、今度は一人の男性がこちらへ歩いてきた。黒髪を軽くパーマで整えた、おしゃれな雰囲気の男性だった。
「イザヤ」
ヨールさんが穏やかに呼びかける。
「ちょうど、そちらの方が席を見つけてくださったの」
「そうでしたか」
男性は私たちへ軽く頭を下げた。
「ありがとうございます。おかげで助かりました」
「いえ、ちょうど空いたところだったので」
私も頭を下げ返す。こうして普通の観光客の中に自然に溶け込んでいる守護者たちは、案外、すぐ近くにいるものなのだと実感した。するとその時、兄が大きな皿を持って戻ってきた。
「お待たせ」
手には、やいろう亭で買ってきたカツオのたたきの盛り合わせがある。
「お兄ちゃん、ありがとう」
「これぐらい何でもない。それより、店の客の中にプレアデス星団の人たちがいたぞ」
「そうなの?」
私は少し驚いた。兄はハトホルの力が備わっており、異星人を見つけることができる。頭の中に、どこの所属の団体なのか情報が入ってくるそうだ。それは当たっているそうで、ルークが、転生後もハトホルの力を忘れていない例だと言っていた。




