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私たちの先を行くのは、キャリーケースを持った旅行客たちだ。高知に帰省した人もいるだろう。後ろを走る道路を大型バスが通り過ぎていく。色とりどりの衣装を着た奢り子たちを乗せたバスだ。市内に数か所ある演舞場で踊るため、移動はバスになるらしい。はりまや橋でも踊り子を見かけたが、このホテルまで来ると、その姿はない。演舞場へ移動しているころだ。
「立派なホテルだね」
ルークが見上げる。
「祭りの期間だから、かなり前から予約していたの」
「人気なんだね」
「ええ。この時期はすぐ満室になるのよ」
私たちは自動ドアをくぐり、涼しいロビーへ入った。冷房の効いた空気に包まれ、ほっと息をつく。
「生き返る……」
思わず呟くと、アレクが笑った。
「さっきまで暑かったですからね」
ロビーには、祭りのパンフレットや観光案内が並び、チェックインを待つ宿泊客が何組もいた。海外からの旅行者も多く、英語や中国語が聞こえてくる。フロントスタッフも慣れた様子で次々と対応していた。順番が来ると、私は代表して予約名を伝える。
「永山です」
スタッフがすぐに予約を確認し、にこやかに微笑んだ。
「永山様ですね。二泊で、ツインルームをご用意しております」
私は頷いた。
「お願いします」
手続きは思っていたよりもスムーズだった。宿泊カードへ記入し、ルームキーを受け取る。
「お部屋は7階でございます」
スタッフが案内図を差し出した。私とルーク、保木君とアレク、兄とユリウスさんの組み合わせになる。
「ありがとうございます」
ちょうどその時だった。ロビーの反対側から兄とユリウスさんが歩いてきた。
「紫乙」
兄が手を振る。
「チェックインは終わった?」
「今、ちょうど終わったところだ」
隣ではユリウスさんが穏やかに笑っていた。
「荷物を置いたら昼食だな」
「私たちはひろめ市場にするわ。一緒にどう?」
私が言うと、兄は頷く。
「ユリウス君ともそうしようと言っている。1時間後くらいでいいか?」
「ええ。それぐらいなら十分よ」
こうして、それぞれルームキーを受け取り、エレベーターへ向かった。二泊三日の高知旅行。その始まりに、私の胸は期待でいっぱいになっていた。
エレベーターに乗り込むと、静かに扉が閉まった。館内には落ち着いた音楽が流れている。私とルーク、そして保木君とアレクは、それぞれキャリーバッグを並べ、七階へ向かう表示を眺めていた。
「祭りの期間だから混んでいるかと思っていましたけど、意外とスムーズでしたね」
保木君がそう言うと、私は頷いた。
「ホテルの人も慣れているのよ。この時期は毎年たくさんのお客さんが来るから」
「なるほど」
アレクも感心したように頷く。
「海外から来ている方も結構いましたね」
「よさこい祭りを見に来る人も多いし、お盆休みも重なるからね」
ほどなくしてエレベーターが七階へ到着した。廊下は明るく、大きな窓から高知市街が見渡せる。ルークが足を止めて窓の外を眺めた。
「景色がいい」
私も隣へ並ぶ。遠くには高知城の緑が見え、その周囲に市街地が広がっていた。真夏の空はどこまでも青く、白い入道雲がゆっくりと流れている。
「夜になったらまた雰囲気が変わるわよ」
「街の灯りも綺麗そうだね」
「ええ」
私は微笑んだ。4人で廊下を歩いていくと、部屋が並んでいた。
「私たちはここね」
私はカードキーを取り出した。ルークと宿泊する部屋だ。そのすぐ隣の扉の前で、保木君も立ち止まる。
「僕たちはこちらですね」
「隣同士でよかった」
アレクが笑顔を見せた。私はカードキーをかざす。小さな電子音が鳴り、ドアの鍵が開いた。
「失礼しまーーす」
部屋へ入ると、ひんやりとした空気が迎えてくれる。
「わあ」
思わず声が漏れた。室内は木目を基調とした落ち着いた雰囲気で、大きな窓の前には丸テーブルと椅子が二脚置かれている。ベッドはゆったりとしたツインタイプだった。
「思っていたより広いね」
ルークが荷物を置きながら言う。
「ええ。ゆっくり過ごせそう」
私はカーテンを開けた。窓いっぱいに夏の高知の景色が広がる。道路には車が行き交い、路面電車がゆっくりと走っていた。ホテルの前を歩く人たちの姿もよく見える。キャリーバッグを引く観光客、帽子をかぶった家族連れ、スマートフォンで写真を撮っている人たち。祭りの期間らしく、街には多くの人が集まっていた。
「観光客がたくさんいるわね」
私が言うと、ルークも窓の外を見ながら頷いた。
「賑やかだ」
「この時期は一年で一番人が集まるからね」
その時、部屋のドアがノックされた。
「紫乙さん」
保木君の声だった。
「はい」
ドアを開けると、保木君とアレクが立っている。
「こちらの部屋も、とても綺麗でした」
保木君が笑顔で言った。
「窓からの景色もいいですね」
「本当ね」
私も頷く。すると、アレクが腕時計を見た。
「あと一時間ありますね」
「ええ」
私は時計を確認した。
「お兄ちゃんたちとは1時間後にロビーで待ち合わせだから、それまで部屋で少し休みましょう」
「分かりました」
保木君が頷く。
「荷物だけ整理しておきます」
「僕も少し休憩します」
アレクも笑顔で答えた。
「それでは、また後ほど」
「ええ、ロビーで会いましょう」
二人は軽く会釈をして隣の部屋へ戻っていった。私はドアを閉め、もう一度窓の外を見る。真夏の青空の下、高知の街は多くの観光客で賑わっている。これから兄とユリウスさんも合流し、ひろめ市場へ向かう。二泊三日の高知旅行は、まだ始まったばかりだった。




