13-1 体験共有プログラム旅行
8月10日、月曜日。午前11時。
私たちは羽田空港から飛行機に乗り、高知龍馬空港で降り、連絡バスで高知市内へやってきた。今日から二泊三日の高知旅行が始まる。この旅は、私の体験共有プログラムの撮影も兼ねている。ベガ中央百貨店の許可を受けた企画で、旅の様子を記録しながら、高知の魅力を紹介する予定だ。
高知市では、ちょうどよさこい祭りの真っ最中だった。昨日は前夜祭と納涼花火大会が行われ、街は大いに盛り上がったという。そして今日と明日は、本祭が開催される。私たちも、この2日間は祭りを楽しむ予定だった。
今日の予定は、まずひろめ市場で昼食を取り、その後、高知城周辺でよさこい祭りを見学する。そして夜は、ディスレクトサイドゼロの高知公演を観に行く。明日も昼と夜に祭りを見学し、高知の街をゆっくり散策する予定だ。そして、明後日の夕方、東京へ帰る。短い旅ではあるが、とても楽しみにしていた。
今回の同行者は、ルーク、保木君、そしてアレクだ。4人で高知の街を巡りながら、私の体験共有プログラムの撮影も進めていく。一方、兄とユリウスさんも同じ飛行機で高知へ来ている。ただし、二人とはホテルでの朝食と、夜のコンサートで合流するだけで、基本的には別行動だ。二人にとっても大切な旅行だからである。箱根へ一泊二日で出かけたことはあったが、飛行機を利用して遠方へ旅行するのは今回が初めてだ。ようやく恋人同士になった二人には、二人だけの時間をゆっくり楽しんでほしい。私たちが邪魔をするわけにはいかなかった。
もっとも、兄が今回の旅行へ来た理由は、それだけではない。私との思い出を作りたいと思ってくれたからだ。兄妹でありながら、私たちは宿泊を伴う旅行をしたことがほとんどない。思い返してみても、月島家のおじいさん、おばあさんの家へ泊まりに行ったくらいだった。大人になってからは、お互い仕事が忙しく、ゆっくり旅行をする機会もなかった。だから兄は、『今度は紫乙と旅行がしたい』と言って、この高知旅行を楽しみにしてくれていた。私はその気持ちが、とても嬉しかった。
窓の外には青空が広がり、真夏の強い日差しが街を照らしていた。よさこい祭りの開催日ということもあり、道路には色鮮やかな衣装を身につけた踊り子たちの姿が見える。鳴子を手にした人たちが笑顔で歩き、沿道には観光客の姿も多かった。
「もうお祭りが始まっているのね」
私が窓の外を眺めながら呟くと、ルークも同じ方向へ視線を向ける。
「街全体がお祭りなんだね」
「ええ。高知では一年で一番賑やかな時期なのよ」
私は自然と笑みがこぼれた。今年は、大切な人たちと一緒だ。ルそう思うだけで、この3日間がきっと忘れられない思い出になるような気がしていた。
はりまや橋で空港連絡バスを降りると、むっとするような真夏の空気が私たちを包み込んだ。
「暑いわね」
思わず口にすると、ルークが空を見上げる。
「東京より暑く感じる」
「湿度が高いからかもしれないわ」
私は笑いながらキャリーバッグの持ち手を引いた。空は雲ひとつない青空だった。照りつける日差しは強いが、どこか夏休みらしい開放感がある。交差点の向こうでは、よさこい祭りのスタッフが案内板を設置していた。色鮮やかな法被姿の踊り子たちも行き交い、街全体が祭りの雰囲気に包まれている。
「まずはホテルね」
私が言うと、保木君が頷いた。
「荷物を置いた方が動きやすいですね」
「そうよね」
「それにしても、もう観光客が多いなあ」
確かにその通りだった。スーツケースを引いた人たちがあちこちにいて、家族連れや海外からの旅行者の姿も目立つ。私たちは、そのまま近くの路面電車の停留所へ向かった。高知市内を走る路面電車は、市民の足であると同時に、観光名物の一つでもある。本当ならタクシーを利用する方が早い。けれど、せっかく高知へ来たのだから、この電車にも乗ってみたかった。
「これも楽しみにしていたのよ」
私が言うと、ルークが線路を見つめる。
「道路の真ん中を走る電車なんだね」
「ええ。最初は私も驚いたわ」
そこへ、緑と白を基調とした路面電車が、ゆっくりと停留所へ滑り込んでくる。古い感じがある。そこもまた魅力だった。
「来たわ」
扉が開き、私たちは順番に乗り込んだ。車内は思っていたより混んでいる。観光客らしい人たちが窓際に座り、スマートフォンで写真を撮っていた。おそらく、よさこい祭りを見に来たのだろう。私たちは奥へ進み、ちょうど4人並んで座れる場所を見つけた。兄とユリウスさんは空港からタクシーでホテルにチェックインすると言っていたから、空港で別れた。今頃、もう着いているかもしれない。すると、電車がゆっくりと走り出す。
「なんだか可愛い電車だね」
保木君が窓の外を見ながら笑った。
「速度もゆっくりだし」
「だから景色が見やすいのよ」
私は窓の外を指さした。電車は街の中心部を走っていく。アレクは興味深そうに外を眺めていた。
「こういう街は落ち着くな」
「東京とは全然違うでしょう?」
「うん。時間の流れまで違う気がする」
その感想に私も頷いた。高知には、高知の時間が流れている。急ぎ足ではなく、ゆったりと。そんな空気が私は好きだった。数駅進んだところで、車内アナウンスが流れる。
「次で降りるわ」
私が言うと、みんなが荷物を持ち直した。電車はゆっくりと停車し、私たちはホームへ降り立つ。目の前には、今回宿泊するホテルが見えていた。
「着いたわ」
私が指差す。そこには落ち着いた外観の観光ホテルが建っていた。パレスクラウン高知。高知城や商店街へのアクセスも良く、この時期は毎年多くの観光客が利用するホテルだ。エントランスには、よさこい祭りの歓迎横断幕が掲げられ、スタッフが笑顔で宿泊客を迎えている。




