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午前10時。
私は部屋の中にいる。パソコンで動画編集をしているところだった。昨日の動画のアーカイブをユーチューブに載せるためだ。その作業を終えて、今度、幽霊が出るという噂の神社に出かけるための予定を立てることにした。来月の予定だ。動画配信者の南波君という子と、ユリウスさん、兄、ルークとの5人で出かける予定だ。パソコンのキーボードの音だけがしている。外の音が、ほとんどしない。車の音も、人の気配も、雪に吸い込まれているみたいだった。
そのときだった。テーブルの上に置いていたスマホが震える。着信だ。名前も出ている。五十里玲司――私の勤務先であるファーストコンタクトの社長だ。
「……五十里社長?」
画面を見て、少しだけ背筋が伸びる。私はすぐに通話ボタンを押した。
「はい、永山です」
『ああ、永山さん。休みのところ、すまない』
落ち着いた低い声が聞こえてきた。
「いえ、大丈夫です。どうされましたか?」
『急で悪いんだが……、明日の出勤は、取りやめていい』
「え?」
一瞬、言葉が止まる。
『代わりに、うちに来てくれないか』
「社長の、ご自宅ですか?」
『ああ。少し事情があってね』
声のトーンが、わずかに落ちる。私は無意識に背筋を伸ばした。
『恵介が、うちにいる』
「……五十里恵介さん、ですか」
モデルとして活動している、24歳の青年だ。そして、社長の遠縁でもある。半年前に付き合っていた元恋人のテレビ局員の中田宗一が麻薬所持で逮捕されたことを受けて、恵介君のところに取材が殺到していると聞いていた。家には帰れず、ホテルで暮らしたり、マネージャーの家に泊まったりしているとのことだった。
『そうだ。例の件でね。今、取材が殺到している。自宅にも戻れない状態でね。記者に居場所を特定されるわけにはいかない。今は、うちで預かっている』
静かな口調だったが、その裏にある緊張は伝わってきた。
『外には出していない。買い物も、通いの者に任せていたが……』
少しだけ間が空く。
『どうやら、周囲を嗅ぎ回る連中が増えてきたようでね。迷惑がかかる』
「……」
『今は、会社に荷物を届けてもらって、僕が持ち帰っている。だが、それも限界だ』
私は、ゆっくりと息を吐いた。状況は理解できる。そして、自分に何が求められているのかも。
『そこで、秘書たちに手伝わせることにした』
社長の声が、少しだけ柔らかくなる。
『その中で、君に来てもらいたい』
「……私、ですか?」
『口が堅い。状況判断もできる。何より――』
わずかに笑う気配。
『月島さんの妹さんだ。さっき月島さんに電話を掛けたら、許可をいただいた』
「……兄がですか」
少しだけ驚く。兄と社長は知り合いだ。数年来の付き合いがあるとも聞いている。




