12-21
実は、今回の件をきっかけにして、佳代子さんの方から、玲司さんと恵介君にルークがアルタイルから来た存在なのだと話をしてくれた。そして、ヨークとウーリがアルデバラン星人であることも。守護者のことも。二人は驚いていたそうだが、今まで不思議だと思っていたそうで、受け入れは早かったそうだ。だから、今、警備船の話ができる。
私はもう一度、恵介君のスマートフォンへ目を向けた。
「もう一回見せてもらってもいい?」
「もちろん」
恵介君が動画を最初から再生する。ニュース番組で流れていた映像だった。夜空を横切る一筋の光。最初は流れ星のようにしか見えない。しかし、みるみるうちに光が大きくなり、尾を引きながら地上へ近づいてくる。私は息を止めた。昨日、自分たちが体験した出来事だ。あの時は空が光ったとしか思えなかった。こうして映像で見ると、改めて恐ろしい。
「ここからです」
恵介君が画面を指差した。私は画面へ顔を近づけた。次の瞬間、隕石が空中で弾けるように砕けた。
「……」
私は何も言わず、その場面を見つめる。動画はそのまま続き、砕けた破片がそれぞれ別の方向へ落下していく様子が映し出されていた。再生が終わる。
「もう一回」
「はい」
恵介君が笑って、もう一度再生してくれた。今度は画面から目を離さない。光。落下。そして空中での分裂。私は再び息をのんだ。
「一見すると……」
思わず呟く。
「二つに割れているように見えるわね」
「そうなんです」
恵介君も頷いた。
「ニュースでも『空中で二つに分裂』って説明していたんですけど、専門家が出て、複数に砕けたって説明がされました」
「私も二つに砕けたように見えたわ」
「でも、警備船が照射したんでしょう」
佳代子さんが画面を覗き込む。本当にそうだった。知らなければ、誰でも自然に砕けたと思うだろう。その時だった。ルークが私の隣へ来る。
「少し戻して」
恵介君が動画を数秒戻した。ルークは画面を指差す。
「ここ」
私は目を細めた。ほんの一瞬だけ、小さな白い光が隕石へ向かって飛んでいくように見えた。
「あっ……」
私は思わず声を漏らす。
「見えた?」
ルークが小さく笑う。
「ええ」
私は頷いた。
「止めてもらえる?」
恵介君が一時停止する。私は画面をじっと見つめた。小さな白い点が、ほんの一瞬だけ映っている。今まで気が付かなかった新たな光だ。ルークが、これも照射されたものだと説明してくれた。
「これよね」
私は小声で言う。
「そう」
ルークも小さく頷いた。
「警備船からの照射だ」
やはりそうだった。普通に再生しているだけではまず気付かない。映像を何度も見返し、注意してようやく分かる程度の小さな光だった。
「二つ照射されたのね。だから砕けたのね」
「そういうこと」
私はもう一度動画を再生した。今度は白い光だけを見る。小さな光が一直線に飛ぶ。次の瞬間、隕石全体が白く光り、弾けるように砕けた。
「本当だ……」
私は思わず呟く。
「ちゃんと映っている」
「ニュースでは誰も触れていませんけどね」
恵介君が苦笑した。
「コメント欄も『自然現象だ』『運が良かった』っていう意見ばかりです」
「無理もないわ」
私はスマートフォンを返した。
「これだけじゃ分からないもの」
画面を見ても、ほとんどの人は空中分裂したとしか思わないだろう。
「でも」
私はクレーターへ視線を移した。
「この光がなかったら……」
その先は言葉にならなかった。ルークが静かに続きを口にする。
「そのまま落ちていた」
私は黙って頷く。昨日の恐怖がよみがえった。黒崎家。遠藤家。そこにいた私たち。すべてが巻き込まれていたかもしれない。私はもう一度青空を見上げる。昼の空には何も見えない。けれど、あの見えない空のどこかで、今日も警備船が静かに黒崎家を見守っている。そのことを思うと、胸の奥が温かくなった。
私がスマートフォンを恵介君へ返すと、研究者たちの方から少し大きな声が聞こえてきた。
「こちらの破片は別に保管してください」
「はい」
白衣姿の人たちがケースを持って動き回っている。クレーターの周囲には測量機材が並び、写真撮影も続けられていた。まるで映画の撮影現場のようだった。
「本当に大掛かりね」
私が呟くと、夏樹君が苦笑した。
「朝からずっとこんな感じだよ」
「疲れない?」
「疲れる」
即答だった。私は思わず笑ってしまう。
「でも、質問には答えないといけないし」
「そうでしょうね」
「同じことを何回も聞かれる」
それは大変だ。大学ごとに調査目的も違う。JAXAもいれば、警察の鑑識もいる。保険会社もいる。当然、それぞれ確認したいことが違う。
「黒崎さんなんて、朝からずっと説明してる」
私は本家の方を見る。ちょうど圭一さんが研究者数人と歩いているところだった。腕で何かを示しながら説明している。その隣には隆さんもいた。二人とも疲れているはずなのに、それを表には出していない。
「すごいわね」
「慣れてるから」
夏樹君が笑う。
「取材には昔から慣れてるもん」
黒崎製菓は有名企業だ。人前で話すことには慣れているのだろう。




