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するとその時、玄関の方が少し慌ただしくなった。大型のトラックが門をくぐり、作業服姿の男性たちが次々と降りてくる。
「窓ガラスの業者さんみたいね」
佳代子さんがそう言うと、隆さんが玄関へ向かっていった。私はルークと顔を見合わせ、その様子を少し離れた場所から見守る。
「お待ちしていました」
隆さんが頭を下げると、年配の作業員も一礼した。
「本日は現場確認と採寸をさせていただきます」
「よろしくお願いします」
「枚数がかなりありますので、まず寸法を測ってから製作に入ります。特注サイズの窓も多いようですので、お時間をいただくことになります」
「構いません」
隆さんは落ち着いた様子で頷いた。
「安全第一でお願いします」
その会話を聞きながら、私は思わずため息をつく。採寸だけでも大仕事だ。私のアパートなら窓は数枚しかない。けれど、この黒崎家は違う。本家だけでも相当な広さがある。さらに、夏樹君たちの家もある。一体、何枚のガラスを交換することになるのだろう。
「考えただけで気が遠くなるわ」
私が呟くと、佳代子さんが苦笑した。
「本当にね」
「一枚ずつ寸法を測るんですよね」
「そうみたい」
作業員たちは早速レーザー測定器やメジャーを持ち、家の中へ入っていった。その人数を見ても、この作業が一日では終わらないことが分かる。それでも私は思った。窓ガラスは交換できる。時間はかかっても元通りになる。昨日あれだけの衝撃があったにもかかわらず、人も動物も命を落とさなかった。それだけで十分幸運だった。
「本当によかった」
思わず口にすると、ルークが静かに頷いた。
「ああ」
その一言には、私と同じ思いが込められているようだった。すると、圭一さんが家の中に入ってきた。私たちに庭を見ないかと誘ってきた。
「研究者の先生たちもいる。説明が聞ける状況になった」
「いいんですか?」
「もちろん」
私たちは屋敷を出て、庭へ向かった。昨日は暗くてよく見えなかった景色が、昼間の光の中でははっきりと見える。広い芝生の一角には規制用のテープが張られ、その周囲では白衣姿の研究者やJAXAの職員たちが話し合っていた。旺星大学。聖アルテマ学園大学。そして、JAXA。昨日来ていた人たちが今日も調査を続けている。私たちは邪魔にならないよう少し離れた場所から見学した。
「思ったより大きい……」
私は思わず息をのんだ。庭には大きなクレーターができていた。昨日は煙で見えなかったが、昼間に見ると迫力がまるで違う。直径は数メートルほどあるだろうか。芝生はえぐられ、土が大きく盛り上がっている。近くには黒く焼けた土まで残っていた。
「すごいですね」
恵介君も驚いている。
「あと数十メートル違ったら、本家に直撃していたかもしれないですよね」
その言葉に私は黙った。本当にそうだった。少し場所が違えば、もっと大きな被害になっていたはずだ。
「今朝のニュース、見た?」
佳代子さんが私に尋ねる。
「見ました」
私は頷いた。
「落下映像も流れていましたね」
防犯カメラやドライブレコーダーの映像を解析したものだった。上空から光を放ちながら落下する隕石が、途中で突然砕け散る映像だった。大小さまざまな破片になり、その一部だけが黒崎家の庭へ落ちてきた。
「空中で割れたから、この程度で済んだんだろうね」
健吾さんが言う。
「そのまま落ちてきたら大変だった」
「ええ」
私は静かに頷いた。その時だった。ルークがスマートフォンを取り出した。
「これ」
画面を私へ向ける。ネットニュースの記事だった。そこには昨日の映像が切り抜かれている。私は思わず目を細めた。
「これ……」
空中で砕ける隕石。その少し前。画面の端から、一筋の白い光が一直線に飛んでいる。その光が隕石へ命中した直後、巨大な岩石が砕け散っていた。
「ニュースでも話題になっていますよ」
恵介君が言った。
「『謎の発光現象』って」
記事には様々な憶測が並んでいた。軍事兵器ではないか。未知の自然現象ではないか。専門家のコメントまで載っている。けれど、本当の理由を私は知っている。私は隣のルークを見た。ルークも小さく笑っていた。
「飛来物対応サービスよね」
私は小声で言う。
「それと」
ルークも小さく続けた。
「警備サービスの警備船だ」
やはりそうだった。昨日、空に浮かんでいた警備船。そして、契約直後に開始された警備サービス。あの光は間違いなく彼らのものだった。ニュースでは『原因不明の光』として報じられている。けれど、私たちだけは知っている。あの一撃がなければ、隕石は砕けなかった。もっと巨大なまま庭へ落下していたはずだ。
「すごい技術ね」
私は思わず呟いた。ルークが穏やかに頷く。
「契約者を守るためだから」
「ここまでしてくれるなんて思わなかった」
私はもう一度クレーターを見つめた。大きくえぐれた芝生。その光景は昨日の恐怖を思い出させる。けれど同時に、あの光が黒崎家のみんなを守った証でもあった。私は空を見上げた。昼の青空には何も見えない。それでも、どこか遠くで警備船が静かに黒崎家を見守っているような気がした。




