12-13
23時。
私とルークはアパートへ帰ってきている。長い一日だった。帰宅してすぐに休みたい気持ちもあったが、ルークは一度母船へ戻っていた。黒崎家への隕石落下について、聞き取り調査が行われることになったからだ。
話を聞くと、ウーリが2か月前に黒崎家への飛来物事故を予見していたらしい。そのため、ベガ中央百貨店の『飛来物対応サービス』へ事前に申し込みを済ませていたそうだ。契約者はウーリ。支払いは一貴さんが行っている。もっとも、通常の支払い方法ではない。体験共有プログラムによる代替支払いだった。プラセルが開催した国内ファッションショーが対象となり、その映像や体験価値がサービス利用料として換算されたらしい。相変わらず宇宙の仕組みはよく分からない。ただ、今日のような事態に備えていたという事実には驚かされた。
ルークは母船から戻ると、機械端末を操作した。すると、空中に青白いホログラム映像が浮かび上がる。契約書類だった。さらに、今日行われた聞き取り調査の内容も表示される。もちろん原文はベガ語だ。ルークが日本語へ翻訳してくれた。私はソファーに座りながら内容を眺める。
『契約者:ウーリ・セレスト・ヴァル・イミグレイ様』
『支払い:広告出演契約による代替支払い』
『出演者:黒崎一貴様こと、ヨシュア・エルディアン・ヴァル・イミグレイ様』
私は思わず目を細めた。こうして正式な名前を見ると、改めて異星人なのだと実感する。ウーリと一貴さんは従兄弟同士。ヨークも同じイミグレイ家の血筋だ。
契約書には、イミグレイ家が黒崎家へ滞在し、警護任務および地球での生活支援を行っていることも記載されていた。その下へ視線を移す。見慣れた名前が並んでいた。
『聞き取り調査対象者:目撃者』
『ルーク・ランズクリイム・ヴェイル様』
『アレク・ヴァレンティス・ノヴァール様』
今日の出来事についての証言がまとめられている。修輔君を襲った男のこと。一貴さんが間に入ったこと。私たちが遠藤家を訪れていたこと。隕石落下の瞬間のこと。そして、さらに下へ視線を移した時だった。知らない名前が目に入る。
『目撃者:エリオット・ランズクリイム・ハシュール様』
『空からの確認』
私はその部分で視線を止めた。今日の現場にはいなかった名前だ。しかも、ルークと同じランズクリイムの名を持っている。私は首を傾げた。
「エリオットさんって誰なの?」
ルークは端末を操作する手を止めた。
「ああ」
そして少し考えるようにして答える。
「ランズクリイム家の兄のような存在だよ」
「兄?」
「血の繋がりはないけどね」
私は再び書類を見る。
「ランズクリイムって、あなたの名前じゃなかったの?」
すると、ルークは小さく笑った。
「ランズクリイムは父方の家名だよ」
「そうなの?」
「ヴェイルは母方の家だ」
私は目を瞬いた。今まで聞いたことがない話だった。ルークは続ける。
「ランズクリイムには意味がある」
「意味?」
「ラファエル天使の使いの家という意味だ」
私は思わず黙った。相変わらずスケールが大きい。ルークは平然としている。
「だから僕の名前は、ルーク・ランズクリイム・ヴェイルなんだ」
「なるほど……」
私は頷いた。けれど、次の言葉でさらに驚く。
「ちなみに君の名前にはランズクリイムは入っていない」
「え?」
「ミレイニー・セレスティア・ヴェイル」
私は目を見開いた。ルークは淡々と続ける。
「それが君のアルタイルでの名前だ」
「……」
「セレスティアは父方の家名だよ」
私はしばらく何も言えなかった。初めて聞いた。フルネームで呼ばれたのは初めてだ。
「初めてね」
私は小さく言う。
「私のフルネームを教えてくれたの」
ルークは少し困ったように笑った。私は思わずため息を吐く。本当にこの人は少しずつしか話してくれない。今日もまた一つ、知らなかったことを知った。でも、知りたいことはまだ山ほどある。
「ねえ」
私はルークを見る。
「そろそろ全部話してくれてもいいと思うんだけど」
「全部?」
「そう」
私は頷いた。
「私、もう驚かないわよ」
隕石だって落ちてきた。宇宙船だって見た。守護者だって受け入れた。今さら何を聞いても大丈夫な気がする。けれど、ルークは首を横に振った。
「駄目だ」
「どうして?」
「君が決めたことだから」
私は眉を寄せる。またそれだ。記憶を失う前の私が決めたこと。私は自分自身で記憶を取り戻すと約束したらしい。だから、ルークは多くを語らない。必要なことしか教えない。最初の頃なんて、守護者だということしか知らなかった。それでも、私はルークを信じた。兄はもっと前から全てを知っていたという。いつかルークが現れることも。私が再び彼と出会うことも。全部予見していたらしい。
今日もまた、一つだけ真実を知った。知らないことはまだたくさんある。でも、それでいいのかもしれない。いつか思い出すその日まで。私は少しずつ、自分の過去を拾い集めていくのだから。




