表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
122/181

12-10

 15時50分。


 黒崎家の前は、完全に非常事態の様相を呈していた。赤色灯が住宅街を照らしている。警察車両。消防車。そして、救急車。次々と到着した緊急車両によって、辺りは騒然としていた。警察官たちは規制線を張り始めている。


「こちらより先は立ち入りできません。安全確認が終わるまでお待ちください」


 近隣住民たちが集まり始めていた。当然だろう。あれほどの爆音だったのだ。しかも、今は煙まで上がっている。私たちは規制線の内側にいたが、それも事情聴取の対象者だからだった。消防隊員たちは黒崎家の敷地へ向かっている。火災の有無。ガス漏れ。建物倒壊の危険。隕石落下地点の確認。次々と役割を分担しているようだった。


 その少し離れた場所では、男が警察官たちに囲まれている。ナイフはすでに回収されていた。しかし、男の様子は不安定だった。落ち着いたと思えば突然叫び出す。その繰り返しだ。そして、その近くには一貴さんがいた。右腕をハンカチで押さえている。血が滲んでいた。修輔君がそばにいる。顔色が悪い。それでも懸命に平静を保とうとしているのが分かった。


「一貴さん」


 修輔君が言う。


「本当に病院へ行った方がいいです」

「救急隊が確認する」


 一貴さんは落ち着いていた。だが、ハンカチにはかなり血が付いている。私には軽傷には見えなかった。夏樹君も同じことを思ったらしい。


「傷、開いているんじゃない?」

「大丈夫だ」

「大丈夫じゃないだろ」


 珍しく強い口調だった。それだけ心配しているのだろう。その時だった。男が再び暴れ始めた。


「離せ!」


 怒鳴り声が響く。警察官が押さえる。しかし、男は激しく抵抗した。すると、アレクが前へ出て、警察官と一緒に押さえ込んだ。真剣な表情だった。


「落ち着け」


 低い声。男はさらに暴れる。しかし、無駄だった。アレクの力は強い。警察官二人とアレクによって押さえ込まれ、ようやく大人しくなった。私は息を吐く心臓がまだ落ち着かない。すると、隣で保木君がしゃがみ込んだ。


「健吾さん」


 健吾さんの手を見ている。男を押さえた際についた引っかき傷だった。浅い傷だが血が出ている。


「これ押さえておいて下さい」


 保木君がハンカチを当てる。


「ありがとう」


 健吾さんが苦笑する。


「大した傷じゃないんだけどな」

「いや、そんなことはないですよ」


 保木君は真面目だった。すると、救急隊員が近付いてきた。


「負傷者はこちらですか?」


 私たちは振り返る。救急隊員が一貴さんと健吾さんを見る。


「まず腕を見せてください」


 一貴さんがハンカチを外した。傷口が見える。思ったより長い。浅いが、数センチは切れているようだった。


「縫合の可能性があります」


 救急隊員が言った。修輔君の顔色がさらに悪くなる。


「やっぱり……」

「念のため病院で診てもらいましょう」


 一貴さんは少しだけ困ったような顔をした。


「そこまでですか」

「刃物ですから」


 救急隊員はきっぱり言った。


「感染症のリスクもあります」


 それには反論できなかった。続いて、健吾さんも診察される。


「こちらも病院へ」


 救急隊員が言う。


「引っかき傷ですが、消毒と検査は必要です」


 佳代子さんが慌てた。


「あなた」

「大丈夫だよ」


 健吾さんは笑う。だが、佳代子さんは納得していない。当然だった。今日は色々ありすぎる。


「二人とも救急搬送します」


 救急隊員が言った。その言葉に現場の空気が少し変わった。救急車の後部ドアが開く。一貴さんが歩き出した。すると、修輔君が一緒に動く。


「俺も行きます」


 その言葉に、一貴さんが振り返る。


「大丈夫だ」

「大丈夫じゃありません」


 即答だった。珍しく強い。


「一貴さんは俺を助けて怪我したんです」


 修輔君は真っ直ぐ言った。


「だから行きます」


 一貴さんはしばらく黙った。そして、小さく息を吐く。


「分かった」


 その様子を見て夏樹君が少し安心したようだった。一方、健吾さんの方では佳代子さんが付き添うことになった。


「あなた、本当に大丈夫?」

「大丈夫だって」

「今日は信用できないわ」


 それには周囲から小さな笑いが起きた。健吾さんも苦笑する。しかし、その笑いもどこか緊張していた。救急隊員たちが二人を案内する。そして、一貴さんが救急車へ乗り込む。修輔君も後に続いた。健吾さんも別の救急車へ向かう。佳代子さんが付き添う。


 ほんの30分前まで普通の日だった。それが今は、こんな状況になっている。私には現実感がなかった。そして、救急車のドアが閉まる。サイレンが鳴る。ゆっくりと動き出した。修輔君が窓越しにこちらを見る。私は小さく手を振った。修輔君も頷く。そして、救急車は走り去っていった。


 その姿を見送りながら、私は胸の奥がざわつくのを感じていた。怪我は命に関わるものではない。それは分かっている。でも、胸が痛かった。


 その時だった。ルークが空を見上げた。私もつられて見上げる。警備船がまだ旋回している。そして、アレクが小さく言った。


「調査班も来ますよ」

「調査班?」


 私が聞く。アレクは黒崎家の方を見る。


「隕石の確認です。研究機関が来る前に空から確認するでしょう」


 その言葉に全員が黙った。そうだ。まだ終わっていない。事件も。隕石も。これからが本番なのかもしれなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ