12-9
警察車両がもうすぐで到着するだろう。それでも私は落ち着かなかった。ルークは火事ではないと言った。警備船も確認に向かっている。だが、それとこれとは別だった。実際に無事な姿を見るまでは安心できない。
「佳代子さん」
私は振り返った。
「黒崎家へ行きましょう」
「ええ」
佳代子さんも同じ気持ちらしい。不安そうな表情だった。私たちは道路を渡る。ルークもついてくる。保木君も一緒だった。健吾さんは警察が到着するまで男のそばを離れられない。一貴さんと修輔君もその場に残っていた。
「状況が分かったら連絡します」
私が言うと、一貴さんが頷いた。
「ああ、頼む」
私たちは急いだ。まずは、敷地の手前に建っている夏樹君たちの家だ。すぐに異変を感じた。
「あ……」
私は足を止めた。窓ガラスが割れている。一枚や二枚ではない。複数の窓が破損していた。ガラス片も見える。衝撃波の影響なのだろう。
「結構やられているわね……」
佳代子さんが呟く。私は思わず本家の方を見ようとした。しかし、見えない。黒崎家の庭は広い。木々も多い。そのため、本家の屋敷の様子まではここから確認できなかった。見えるのは手前の家だけだ。煙も木々に遮られていて、どの辺りから上がっているのか分かりにくい。
「まずはこっちね」
私は夏樹君たちの家の玄関へ向かった。インターフォンを押す。ピンポーン。返事はない。もう一度押す。やはり反応はなかった。
「留守かしら」
佳代子さんが言う。
「本家の方に行っているのかもしれないわね」
私もそう思った。今日は休日だ。みんなそちらへ集まっている可能性が高い。しかし、確認できない以上、不安は残る。私はスマートフォンを取り出した。
「夏樹君に電話するわ」
発信する。呼び出し音が鳴る。一回。二回。三回――。
『もしもし!』
夏樹君の声が聞こえた。私はほっと息を吐く。
「夏樹君!」
『紫乙さん!?』
「大丈夫なの!?」
『大丈夫だけど!』
後ろが騒がしい。人の声がいくつも聞こえる。
「今どこ?」
『本家!』
やはりそうだった。
「そっちにいたのね」
『うん!』
夏樹君が答える。
『みんな本家に集まってる!』
私は佳代子さんと顔を見合わせた。予想通りだったらしい。
「今、手前の家の前にいるの」
『えっ?』
「窓ガラスが割れているわ」
『そっちもかなり酷いんだ』
夏樹君の声が聞こえる。
『爆音の直後に全部割れた』
私は改めて家を見た。確かに被害は大きい。でも、建物自体は無事そうだった。
「怪我は?」
『今のところない!』
私は胸を撫で下ろす。
「本当に?」
『本当!』
その時だった。電話の向こうで聞き覚えのある声がした。私は思わず瞬きをする。
「……え?」
今の声。聞き間違いではない。
「夏樹君」
『うん?』
「もしかして……」
すると、夏樹君があっさり答えた。
『月島さんもいるよ。すごいんだよ。爆発音の直前に俺たちのことを床に伏せるように言ってくれてさ。その後で空が光って、何か落ちてきたって思ったんだ。隕石かもって言っているよ』
私は驚いた。私のそばで、ルークが、兄の予知だと言った。
「みんな無事なの!?今、警察を消防を呼んだわ。あと、門の前で修輔君がナイフを持った男に襲われて、一貴さんが取り押さえたの。健吾さんも押さえているわ。襲われているときに何か落ちてきたの」
『え!?そっちに行くよ!黒崎さんが外に出たんだ。クレーターができているって言ってる』
「やっぱり。アレクが空から降ってくるのを見たのよ」
『こっちでも消防を呼んだよ』
「近所の人も呼んだと思うわ」
そこで、私は今日の予定を思い出す。そうだ。今日はホワイトデーだった。兄とユリウスさんは夜に食事へ行く予定だと聞いていた。でも、まさかこの時間に黒崎家へ来ているとは思わなかった。
「ユリウスさんもいるの!?」
『いるよ』
夏樹君が答える。
『さっきからずっといる』
私は驚きながらも少し安心した。すると、電話の向こうで別の声が聞こえた。
『紫乙さん?』
ユリウスさんだった。
「ユリウスさん!」
『僕なら大丈夫だよ。アンもアンドリューも、ユリウスも大丈夫だよ。月島君が、ユリウスのことを抱いていろっていうから、抱いていたんだ。それから、床に伏せた。お手伝いさんたちは奥のキッチンにいたから全員無事だよ。そっちはガラスは割れていないだ。月島君は分かっていたみたいだ』
少し苦笑したような声だった。
『びっくりしたよ』
「そりゃそうでしょう!」
『本当にそうだよね』
電話の向こうで誰かが何か言った。圭一さんかもしれない。少なくとも話せる余裕はあるらしい。それだけで安心できた。
「怪我はない?」
『ないよ』
ユリウスさんが答える。
『みんな無事だ』
私はようやく肩の力を抜いた。その時だった。ルークが道路の向こうを見た。少しして言った。
「警察と消防が来るよ」
私は再び電話へ意識を戻した。夏樹君たちが外に出てくるそうだ。
『俺たち、そっちに行くから!男を取り押さえているんだろ!?怪我はないの?』
「一貴さんが少し手を切ったわ」
『やばい!すぐに行くよ』
そして、夏樹君たちが外に出てきた気配がした。そして、言った。
『クレーターができてる!』
私は言葉を失った。
『本当に落ちたんだ』
夏樹君の声が聞こえる。
『隕石だよ』
現実味がない。けれど、現実だった。人生は本当に何が起こるか分からない。




