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ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


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12-8

 地鳴りはまだしている気がした。身体が震える。その衝撃は別の効果も生んでいた。男が驚いてしゃがみ込んでいたのだ。一貴さんはその隙を逃さなかった。男を地面へ押さえ付ける。


「動くな!」


 男が暴れる。だがもう無理だった。修輔君も加勢する。完全に取り押さえられた。私は我に返った。


「警察!」


 スマートフォンを取り出す。震える指で110番を押した。呼び出し音。すぐに繋がる。


『はい、110番です』

「事件です!」


 私は叫んだ。


『場所を教えてください』


 住所を伝える。そして、続けた。


「男の人が刃物のような物を振り上げて知り合いを襲いました!」

『けが人はいますか?』

「今のところ分かりません!別の人が取り押さえています!」

『分かりました』

「それと!」


 私は黒崎家の方向を見る。煙はまだ上がっている。


「向かいの家から煙が出ています!」

『火災ですか?』

「分かりません!でも、空が光って、大きな音がして!」


 自分でも何を言っているのか分からない。それでも続けた。


「隕石かもしれません!」


 電話の向こうが一瞬沈黙した。


『消防にも連絡します。安全な場所へ避難してください』

「はい!」


 通話を終える。心臓が激しく鳴っていた。道路では一貴さんが男を押さえ続けている。修輔君も無事だった。だが、黒崎家の方向から上がる煙。あの光。あの衝撃。ただ事ではない。私たちは全員、同じ方向を見つめていた。何が落ちたのか。何が起きたのか。まだ誰にも分からなかった。


 男が地面に押さえ付けられている。荒い呼吸。興奮した声。意味の分からない言葉を叫び続けていた。

一貴さんも肩で息をしている。修輔君は少し離れた場所で立ち尽くしていた。その時だった。健吾さんが前へ出る。


「一貴君。僕が代わる」

「頼みます」


 一貴さんが短く答えた。健吾さんは男の腕を押さえ込む。そこへ、アレクも加わった。


「僕も手伝う」


 男が暴れる。しかし、健吾さんもアレクも体格がいい。二人で押さえ込まれると動けなかった。一貴さんはようやく男から離れる。その直後だった。ルークが近付いた。


「見せろ」

「大したことはない」


 一貴さんはそう言った。だが、ルークは聞いていない。破れたスーツの袖をめくる。腕を見る。


「切れている」


 私は息を呑んだ。確かに血が滲んでいた。傷は深くないようだが、赤い筋ができている。刃物が当たったのだろう。修輔君の顔色がさらに悪くなる。


「一貴さん……」

「平気だ」


 一貴さんは落ち着いていた。


「かすっただけだ」

「でも、血が出ています」


 修輔君の声は震えていた。無理もない。もし一貴さんが間に入らなければ、自分が襲われていたかもしれないのだから。その時だった。周囲がざわつき始めた。近所の住人たちが家から出てきたのだ。爆音を聞いたのだろう。


「何があったの?」

「事故?」

「今の音は?」

「煙が出ているぞ」


 人が集まり始める。道路が騒がしくなる。私は思わず黒崎家の方を見た。煙はまだ上がっていた。白い煙だ。私は佳代子さんを見る。佳代子さんも同じ方向を見ていた。


「夏樹君……」


 不安そうな声だった。私も同じことを考えていた。黒崎家には夏樹君がいる。お手伝いさんたちもいる。

もしかしたら来客もいるかもしれない。もし火事なら――。


「行きましょう」


 私が言う。


「ええ」


 佳代子さんが頷いた。私たちは道路を渡ろうとした。その時だった。


「待て」


 ルークの声だった。私は振り返る。ルークは黒崎家の方を見ている。金色の瞳になっていた。能力を使っているのだと分かった。数秒、静寂が流れる。そして、ルークが言った。


「火事は起きていない」


 私は息を止めた。


「本当?」

「ああ」


 ルークは頷く。


「燃焼反応はない」


 その言葉を聞いた瞬間、全身から力が抜けた。


「良かった……」


 佳代子さんも胸に手を当てている。私も同じだった。火事ではない。それだけで全然違う。もちろん何かが落ちたのは間違いない。煙も上がっている。だが家が燃えているわけではない。その事実だけで安心できた。


 すると、アレクが空を見上げた。私もつられて空を見る。青空の中に光るものがあった。小型宇宙船だ。

ルークの警備サービスを担当する警備船。昼に見たものと同じだった。宇宙船は旋回していたが、今は明らかに黒崎家の方向へ向かっている。まっすぐだった。


「動いているわね」


 私が言う。アレクが頷いた。


「警備対象の周辺で異常事態が発生したからです」

「だから確認に?」

「はい」


 アレクは真面目な顔だった。


「状況把握と安全確認です」


 その時だった。ルークが小さく目を細めた。


「庭だな」

「何が?」

「隕石が落ちた場所だ」


 ルークは黒崎家を見ている。


「建物じゃない」


 私はほっとした。庭ならまだいい。もちろん良くはない。だが建物に直撃するよりはずっといい。佳代子さんも安堵の表情を浮かべた。


「夏樹君たちは無事なのね」

「たぶん」


 ルークが答える。


「動いている気配がある」


 それを聞いて私たちは顔を見合わせた。その時、遠くからサイレンが聞こえてきた。警察だ。消防もいる。音がどんどん近付いてくる。男はまだ健吾さんとアレクに押さえ込まれていた。


「離せ!」


 叫んでいる。だがもう誰も相手にしていない。私はスマートフォンを握り締めたまま空を見上げた。警備船が太陽の光を反射している。その姿は不思議なほど頼もしく見えた。たった一日の出来事とは思えない。だが、今日はまだ終わっていなかった。

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