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ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


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2-5

 空を見て、私たちは顔を見合わせて、苦笑した。明日の分を買い物しておけばよかったねと言って。冷蔵庫の中には、ほんの少ししか食材が残っていない。今日は帰りが遅くなって、スーパーに寄らずに帰ってきてしまったのだ。


「午後には晴れるよ。そのときに出ればいい」


 ルークが、気楽に言う。彼は本当に買い物が好きなのだと思う。それなら――ひとつ、いい方法がある。


「ねえ、ルーク。プラセルコーポレーションで働いたら?」


 一貴さんが声をかけてくれている。ウーリが企画部のデザイナーとして働くことになった流れで、ルークにもどうかという話があったのだ。社長秘書でもいい、とまで言われている。


「いいけど、無償になるよ」

「一貴さんが、お給料を出すって言ってくれたじゃない」

「それは受け取れない」


 あっさりと言う。


「ルールなんだ。ウーリみたいに“任務後のバカンス”なら、地球で通貨を得てもいい。でも僕には、その許可が下りていない」

「……ふうん」


 そう言われると、これ以上は何も言えない。本当かどうかも、私には分からない。けれど、私は、ルークの“ありえないこと”をいくつもこの目で見てきた。だから、結局は彼の言葉を信じるしかない。兄やウーリなら、もっと詳しく知っているのかもしれない。でも、それを私に話さないということは、きっと理由があるのだろう。


 雪は、相変わらず降り続いている。アパートの階段を上りながら、私は小さく息を吐いた。四階の部屋までの道のりは、見晴らしがいいぶん、なかなか堪える。後ろから、ルークがついてくる気配がする。ふと振り返ると、さっきまで短髪だった彼の髪が、いつの間にか長くなっていた。――家用の姿だ。


「……自由ね、その髪」

「気分だよ」


 軽く答える。


「寒いわね。ルーク、今夜はどうするの?」

「君の部屋で寝るよ」

「分かった。布団は自分で敷いてね」

「うん。それと、明日の朝はコーンスープが飲みたい」

「買ってあったっけ……?」


 一瞬、考える。


「今朝で終わった気がするんだけど」

「あるよ」


 即答だった。……ある、らしい。彼にとっての“ある”は、だいたい“エネルギーとして感じている”という意味だ。実際に飲むのは私だから、結局、現実的にはない可能性が高い。そんなことを考えていると、ルークがそっと背中を押した。


「あと少し」

「……分かってるわよ」


 三階まで上がってきた。あと一段、もう一段。私は踏ん張るようにして四階まで上りきり、大きく息を吐いた。


「はあ……。疲れた」

「お疲れさま」


 軽く言う。私は鍵を取り出し、ドアを開けた。


「ただいま」

「おかえり」


 いつものやり取りだ。そして、電気をつけた、その瞬間だった。テーブルの上に、白い薔薇の花束が置かれていた。


「……え?」


 思わず足を止める。次の瞬間、それはふっと輪郭を失って、空気に溶けるように消えた。振り返ると、ルークが楽しそうに笑っている。


「僕、お金がないから買えないんだ」

「はいはい」


 思わずため息が出る。


「分かってるわよ。イメージだけ、ありがとう」


 やれやれ、という気持ちで靴を脱ぐ。エアコンのスイッチを入れると、少し遅れて暖かい風が流れ始めた。部屋の中は、まだ冷えている。けれど、さっきまでの外の寒さに比べれば、ずっとましだった。時計に目をやる。針は、ちょうど0時を指していた。日付が変わる。クリスマスイブが終わって、本当のクリスマスが始まる。


「……メリークリスマス」


 小さく呟く。ルークが、少しだけ嬉しそうに笑った。今年の夜は、少し不思議で、とても綺麗だった。そんな時間が、静かに過ぎていく。

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