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空を見て、私たちは顔を見合わせて、苦笑した。明日の分を買い物しておけばよかったねと言って。冷蔵庫の中には、ほんの少ししか食材が残っていない。今日は帰りが遅くなって、スーパーに寄らずに帰ってきてしまったのだ。
「午後には晴れるよ。そのときに出ればいい」
ルークが、気楽に言う。彼は本当に買い物が好きなのだと思う。それなら――ひとつ、いい方法がある。
「ねえ、ルーク。プラセルコーポレーションで働いたら?」
一貴さんが声をかけてくれている。ウーリが企画部のデザイナーとして働くことになった流れで、ルークにもどうかという話があったのだ。社長秘書でもいい、とまで言われている。
「いいけど、無償になるよ」
「一貴さんが、お給料を出すって言ってくれたじゃない」
「それは受け取れない」
あっさりと言う。
「ルールなんだ。ウーリみたいに“任務後のバカンス”なら、地球で通貨を得てもいい。でも僕には、その許可が下りていない」
「……ふうん」
そう言われると、これ以上は何も言えない。本当かどうかも、私には分からない。けれど、私は、ルークの“ありえないこと”をいくつもこの目で見てきた。だから、結局は彼の言葉を信じるしかない。兄やウーリなら、もっと詳しく知っているのかもしれない。でも、それを私に話さないということは、きっと理由があるのだろう。
雪は、相変わらず降り続いている。アパートの階段を上りながら、私は小さく息を吐いた。四階の部屋までの道のりは、見晴らしがいいぶん、なかなか堪える。後ろから、ルークがついてくる気配がする。ふと振り返ると、さっきまで短髪だった彼の髪が、いつの間にか長くなっていた。――家用の姿だ。
「……自由ね、その髪」
「気分だよ」
軽く答える。
「寒いわね。ルーク、今夜はどうするの?」
「君の部屋で寝るよ」
「分かった。布団は自分で敷いてね」
「うん。それと、明日の朝はコーンスープが飲みたい」
「買ってあったっけ……?」
一瞬、考える。
「今朝で終わった気がするんだけど」
「あるよ」
即答だった。……ある、らしい。彼にとっての“ある”は、だいたい“エネルギーとして感じている”という意味だ。実際に飲むのは私だから、結局、現実的にはない可能性が高い。そんなことを考えていると、ルークがそっと背中を押した。
「あと少し」
「……分かってるわよ」
三階まで上がってきた。あと一段、もう一段。私は踏ん張るようにして四階まで上りきり、大きく息を吐いた。
「はあ……。疲れた」
「お疲れさま」
軽く言う。私は鍵を取り出し、ドアを開けた。
「ただいま」
「おかえり」
いつものやり取りだ。そして、電気をつけた、その瞬間だった。テーブルの上に、白い薔薇の花束が置かれていた。
「……え?」
思わず足を止める。次の瞬間、それはふっと輪郭を失って、空気に溶けるように消えた。振り返ると、ルークが楽しそうに笑っている。
「僕、お金がないから買えないんだ」
「はいはい」
思わずため息が出る。
「分かってるわよ。イメージだけ、ありがとう」
やれやれ、という気持ちで靴を脱ぐ。エアコンのスイッチを入れると、少し遅れて暖かい風が流れ始めた。部屋の中は、まだ冷えている。けれど、さっきまでの外の寒さに比べれば、ずっとましだった。時計に目をやる。針は、ちょうど0時を指していた。日付が変わる。クリスマスイブが終わって、本当のクリスマスが始まる。
「……メリークリスマス」
小さく呟く。ルークが、少しだけ嬉しそうに笑った。今年の夜は、少し不思議で、とても綺麗だった。そんな時間が、静かに過ぎていく。




