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ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


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12-4

 アレクとルークの器具が外される。二人とも無事だった。それだけで十分なはずなのに、アレクはまだ興奮が冷めていないらしかった。


「もう一回飛べるなーー」


 そう言いながら大きく伸びをする。私は呆れたように笑った。


「本気?」

「本気です」

「さっき人生で5本の指に入るって言っていたじゃない」

「だからもう一回体験したいんです」


 理屈になっていない。隣では保木君も笑っていた。


「飛びたいなら飛べばいいじゃないか」

「一人じゃ面白くない」

「僕は飛ばないよ」

「知ってる」


 即答だった。それでもアレクは嬉しそうだ。結局のところ、保木君と話しているだけで機嫌がいいのである。私はコメント欄を見た。


『アレクさん元気』

『体力すごい』

『もう一回!?』

『保木君、慣れてる』


 まったくその通りだった。保木君はアレクの扱いに慣れている。アレクの方は、友人以上の感情を隠せていないのだけれど。


 すると、スタッフが記念撮影スペースへ案内してくれた。ジャンプ証明書を受け取る。背景には龍姫湖渓谷。青空。吊り橋。絶好の撮影日和だった。


「皆さん、記念写真を撮るそうです」


 私はカメラを向ける。ルークとアレクが並ぶ。スタッフがシャッターを切った。


「はい、チーズ!」


 パシャリ。その直後だった。アレクは証明書を受け取るなり、真っ先に保木君のところへ向かった。


「見てくれ」


 保木君が証明書を見る。


「格好いいじゃないか」

「本当か?」

「本当だよ」


 その瞬間だった。アレクの表情がぱっと明るくなった。私は思わず吹き出しそうになる。分かりやすすぎる。コメント欄も同じ反応だった。


『今の顔!』

『嬉しそう』

『褒められて喜んでる』

『可愛い』


 もちろん読み上げない。絶対に面倒なことになる。その時だった。ルークが私の隣へやってきた。


「紫乙」

「何?」

「腹が減った」


 私は思わず笑った。


「飛んだばかりでしょう」

「運動した」

「それは確かに」


 ルークらしい理由だった。時間を見る。もう11時半近い。昼食を考え始める時間だ。


「皆さん、お昼ご飯は何だと思いますか?」


 そう言うとコメントが流れた。


『蕎麦』

『常陸牛』

『カレー』

『お腹空いた』


 私も空いていた。その時だった。アレクが声を上げる。


「あ!」

「どうしたの?」

「僕のスマートフォンだけでしか写真を撮っていなかったんです。湊のでも撮らなきゃ。スマホを貸してくれ」

「いいよ」


 アレクは保木君のスマートフォンを手に取った。そして、当然のように保木君の隣へ立つ。肩が触れそうな距離だった。


「近いな」


 保木君が笑う。


「せっかくだろう」

「まあね」


 パシャリ。写真が撮られる。アレクはすぐに画面を確認した。そして満足そうに頷く。


「いい写真だ」

「そう?」

「宝物にする」


 保木君は苦笑した。どうやら深く考えていないらしい。私は内心で思う。その言葉は普通、もっと特別な相手に使うものではないだろうか。コメント欄も盛り上がっていた。


『宝物』

『好きじゃん』

『応援したい』


 私はそっと視線を逸らした。読まない方が平和である。しばらくすると、私たちは吊り橋を戻ることになった。行きよりも人が増えている。観光客も多かった。橋の中央付近まで来た時だった。強い風が吹く吊り橋がわずかに揺れた。


「わっ」


 私は反射的に手すりを掴む。すると、アレクが笑った。


「怖いですか?」

「少しはね」

「さっき飛んでないのに?」

「飛んでいないから怖いの」


 すると、ルークが言った。


「分かる」

「ルークも?」

「飛んだ方が楽だった」


 私は思わず笑った。飛んだ人にしか分からない感覚なのだろう。その後も私たちはゆっくり橋を渡った。景色は相変わらず素晴らしい。渓谷を吹き抜ける風。青い空。山々の緑。配信を見ている人たちも楽しんでいるようだった。現在の同時接続数は2000近い。かなり多い。コメント欄では感想が飛び交っていた。


『面白かった』

『またアレクさん出てほしい』

『ルークさん強い』

『保木君も飛んで』


 私は笑いながらコメントを読んだ。


「保木君が飛ぶ日は来ると思いますか?」

「来ない」


 即答だった。すると、アレクが横から口を挟む。


「来る」

「来ない」

「来る」

「来ない」

「来る」


 二人が言い合う。まるで子供だった。私は思わず笑ってしまう。その時、ルークがぼそりと言った。


「賭けるか」

「何を?」


 アレクが聞く。


「一年以内に飛ぶかどうか」


 保木君が即座に首を振った。


「飛ばないから」

「じゃあ、勝負成立だな」


 アレクが笑う。


「僕は飛ぶ方に賭ける」

「だから飛ばないって」

「まだ分からないだろう」


 どうやら新しい遊びが始まったらしい。そんなやり取りをしながら橋を渡り終える。駐車場の方へ向かう途中で、私はコメント欄を見た。そこには相変わらず同じような内容が並んでいる。


『アレクさんと保木君仲良し』

『距離が近い』

『お似合い』

『付き合ってないの?』


 私は思わず苦笑した。視聴者は気付いている。私も気付いている。ルークも気付いている。それなのに、保木君だけは、アレクの好意を友人としてのものだと思っている気がする。前を歩く二人を見る。アレクは楽しそうに話している。保木君も笑っている。春の風が吹き抜けた。空は青い。私はスマートフォンを掲げた。


「皆さん、これから昼食です。配信はもう少し続きます」


 コメント欄がまた流れ始める。その様子を見ながら、私は小さく笑った。どうやら今日は、長い一日になりそうだった。

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