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ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


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12-1 ホワイトデーのバンジージャンプ

 3月14日、土曜日。午前10時。


 私たちは、茨城県の龍姫湖渓谷に架かる全長375メートルの吊り橋に設置されたバンジージャンプ施設『龍姫バンジー』に来ていた。ルークとアレクが、バンジージャンプに挑戦するためだ。死亡後サービスのブルーハイサービスに申し込んだ私は、体験共有プログラムの利用申請が認められ、高知旅行の計画を進めている。あとは夏を待つだけだった。


 一方で、ルークのバンジージャンプ体験もプログラムの対象となり、特典として警備サービスを半年間利用できることになった。アレクも同じだ。保木君に贈りたいデジタル画集があり、さらに両親へのプレゼントとして利用したいサービスもあるらしい。そのため、今回の体験共有プログラムへの参加を決めたのだという。


 そして私は今、アルタイル軍とベガ中央百貨店の許可を得て、二人の挑戦を配信していた。アレクについては、視聴者には保木君の友人として紹介している。彼が配信に映るのは、もう4回目だ。保木君の家と私のアパートが近いこともあり、よく遊びに来るようになった。その流れで自然と配信にも登場するようになり、今では視聴者から「今日はアレクさんはいないんですか?」と質問が飛ぶほどになっている。


 さらには、


「ルークさん、焼きもちを焼かないんですか?」


 という質問まで出るようになった。もちろん、それはない。いや、正確には少し違う。ルークが焼きもちを焼く相手は一人だけだ。玲司さんである。もっとも、それも半分は冗談のようなものだった。


 玲司さんは恵介君との仲を進展させたいらしく、何かと理由を見つけては恵介君のところへ顔を出している。用事を作っては会いに行き、食事に誘い、お茶に誘い、自然な流れで距離を縮めようとしていた。恵介君は今も遠藤家で暮らしている。ただ、以前のように記者に追い回されることはなくなった。元恋人だった中田さんの逮捕直後は大変だったが、さすがに時間が経った今となっては報道の熱も落ち着いている。


 そのため、元の家へ戻る話も出ていた。もっとも、中田さんに関する捜査の動き次第では再び取材が来る可能性もある。そこで、初公判の日程が決まってから帰ろうという話になっているらしい。玲司さんはそれでも心配していて、自分のマンションへ来ないかと何度も誘っているそうだ。だが、恵介君は首を縦に振らない。一人暮らしがしたい。その考えは変わらないらしかった。


 結局のところ、二人はまだ付き合っていない。玲司さんが告白したことは知っているが、恵介君が断ったという話も聞かない。かといって、恋人同士になったという話もない。ずっと同じ距離感のままだ。恵介君に他に好きな人がいる様子もない。玲司さんは今でも時々遠藤家を訪れては、お茶を飲んで帰っていく。不思議な関係だった。


 それでも良い変化はあった。恵介君が外出できるようになったのだ。最近では遠藤夫妻と一緒に外食へ出かけたとも聞いている。記者たちは今でも遠藤家の所在地を把握しているだろう。だが、もう大きなニュースではない。最初の頃のような勢いは完全になくなっていた。そのおかげで仕事も再開できた。ワタベ電機の新しい広告案件である。来週の水曜日には、対談記事が掲載された雑誌も発売される予定だ。タイミングとしては本当に良かったと思う。


 今日は玲司さんも恵介君も、自宅からこの配信を見てくれている。兄とユリウスさんもだ。今日はホワイトデー。兄とユリウスさんは夜に食事デートへ出かけるらしい。ムードのあるレストランを予約していると聞いた。羨ましい。そう思わないでもない。それに比べると、私とルークは相変わらずだった。色気もない。ロマンチックな雰囲気もない。バンジージャンプというイベントは確かに楽しいし、非日常感もある。けれど、恋人らしいことをしているかと言われると微妙だった。


「ルーク、カメラに向かって手を振って」

「いいよ」


 ルークが素直に手を振る。コメント欄が一気に流れた。


『ルークさん!』

『かわいい』

『頑張ってー!』

『今日は飛ぶんだよね?』


 私は思わず笑ってしまう。受付を終えたルークとアレクは、スタッフに案内されながらジャンプ台へ向かっていた。私は自撮り棒を長く伸ばし、高い位置から撮影する。私たち4人全員が画面に収まるように角度を調整した。もちろん施設側には事前に配信許可を取っている。ここは電波状況が非常に良く、配信者の間では有名な場所だった。昨年も多くの配信者が訪れ、話題になったと聞いている。画面の上部には配信タイトルが表示されていた。


『龍姫バンジー編』


 いつものようにシンプルなタイトルだ。配信開始から1時間。現在の同時接続数は1500人。累計視聴者数は7000人を超えていた。数字としては悪くない。もっとも、人気配信者の竹内わかなさんなら同時接続3万人など珍しくもない。私にはそこまでの影響力はない。だからこそ気楽だった。視聴者と雑談しながら、のんびり配信を続けられる。それが私にはちょうどいい。


 前方では、吊り橋の中央へ向かうルークとアレクが楽しそうに話していた。その背中を見ながら、私はふと思う。あと数十分後には、あの二人が高さ100メートルを超える渓谷へ向かって飛び込むのだ。今は平然としているが、本当に大丈夫なのだろうか。私はスマートフォン越しに彼の後ろ姿を見つめ、小さく笑った。たぶん、大丈夫だ。少なくとも本人達は、まったく怖がっていないようだった。

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