11-22
私は改めてアレクへ向き直る。答えは決まっている。ちゃんと考えて出す答えだ。
「じゃあ、私、申し込むわ」
アレクの背筋がぴんと伸びた。
「はい!」
「支払いは体験共有プログラムを使いたいの」
「承知しました!」
元気の良い返事が返ってくる。
「でも、前にも言った通り、私は腰が悪いからバンジージャンプは飛べないわ。その代わり、夏に高知へ行って、よさこい祭りを見てくることにするわ」
「ありがとうございます!」
アレクの顔がぱっと明るくなった。
「その内容で承りました!」
私は頷いたものの、ふと疑問が浮かぶ。よさこい祭りは分かる。でも、体験共有プログラムの利用者を見る限り、バンジージャンプを選ぶ人も多いらしい。なんとなく申し訳ない気もした。
「でも、いいのかしら」
私が首を傾げる。
「バンジージャンプみたいな派手な体験じゃなくて」
「問題ありません!」
アレクは即答した。
「大切なのは体験の価値ですから!」
なるほどと、私は頷く。すると、ふと思いついた。
「そうだわ」
私は隣に座るルークを見る。
「あなたなら、バンジージャンプを飛べるわよね?」
ルークが嫌な予感を察したような顔をした。
「……何を考えているんだ?」
「ついでに飛びなさい」
「ついでって?」
即座に返された。私は真面目な顔を作る。
「私に大事なことを黙っていた罰よ」
「理不尽だな」
「当然です」
私は頷く。兄も少し笑っている。ユリウスさんまで肩を震わせていた。ルークは小さくため息をついた。
「別に飛ぶのは構わない」
「あら」
「守護者の身体能力なら問題ない」
「素直ね」
「でも」
ルークはアレクを見る。
「僕が一人で飛んでも面白くないだろう?」
その言葉に、アレクの目が輝いた。
「あっ!」
嫌な予感しかしない。
「実はですね!」
アレクが勢いよく身を乗り出す。
「僕も申し込みたいサービスがあるんです!」
全員が一斉にアレクを見る。
「サービスを提供する側なのに?」
保木君が呆れたように聞く。
「もちろんです!」
アレクは胸を張った。
「社員割引がありますから!」
「あるのね……」
私は思わず感心した。ベガ中央百貨店は抜かりがない。
「それで?」
兄が促す。すると、アレクは満面の笑みを浮かべた。
「僕も体験共有プログラムで支払おうと思っていまして!」
「へえ」
「内容はバンジージャンプです!」
言い切った。やっぱり飛ぶらしい。しかも、嬉しそうだ。
「ですので!」
アレクはルークを指差した。
「一緒にどうですか?」
ルークが固まった。保木君が吹き出す。ユリウスさんも思わず笑っている。兄に至っては真面目な顔をしているつもりでも、完全に笑っていた。私は思いがけない提案に目を丸くした。
「あら、いいわね」
「僕も賛成だ」
ユリウスさんが即答した。
「ぜひ映像を見たい」
「ユリウス君まで……」
ルークが遠い目をする。だが、兄も穏やかに頷いた。
「僕も興味があるな」
「凰李もか」
ルークが声を上げる。
「せっかくだろう」
「せっかくなんかじゃない」
「面白そうだ」
「本音が出ているよ」
ルークの反論に、部屋中から笑い声が上がった。重たい話をしていたはずなのに、不思議と空気は明るい。未来の不安が消えたわけではない。けれど、それを一人で抱え込まなくてもいいのだと思えた。私は笑いながら思う。もし本当にルークとアレクが並んでバンジージャンプを飛ぶことになったら、その映像はきっと、何年経っても笑い話になるだろう。そんな未来も、少し悪くない気がした。
ルークは部屋中から向けられる期待の視線を受けて、しばらく黙り込んでいた。私と兄。ユリウスさん。保木君。そして、きらきらと目を輝かせているアレク。全員が返事を待っている。やがて、ルークは大きくため息をついた。
「……分かった」
「あら」
私は思わず笑う。
「本当に?」
「そこまで期待されて断る方が面倒だ」
ルークは肩をすくめた。
「それに、許可が下りないわけじゃない」
「やったーーー!」
アレクが勢いよく立ち上がった。
「ありがとうございます!」
「まだ飛ぶ日も決まっていないよ」
「決めましょう!」
アレクは即答した。さすが営業である。行動が早い。
「詳しい日程は後で連絡する。僕も予定を確認したい」
ルークが言う。
「もちろんです!」
アレクは満面の笑みだった。
「楽しみですね!」
「君だけだと思うよ」
ルークが真顔で言う。保木君が吹き出した。ユリウスさんも笑っている。兄まで口元を押さえていた。




