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すると、アレクがふいに笑顔を浮かべた。
「そうだ」
「なに?」
「今日の出会いの記念に、小皿をプレゼントさせていただきます」
私は思わず目を瞬いた。
「え?」
アレクは当然のように頷く。
「ベガ中央百貨店の顧客満足度向上施策の一つです」
「そんな制度があるの?」
「あります」
きっぱりと言い切った。
「新しいお客様とのご縁を大切にする、という方針なんです」
私は思わず苦笑する。さすが3400年続く百貨店である。考え方まで老舗らしかった。
「でも」
私は首を傾げる。
「私、バンジージャンプを飛ばないかもしれないわよ?」
「いいんです!」
アレクは即答した。まったく迷いがなかった。
「このサービス以外にも、まだまだお勧めしたいものがありますからね」
営業マンの笑顔だった。
「お付き合いの始まりを記念して、ぜひ受け取ってください」
「そういうものなの?」
「そういうものです」
アレクは頷く。
「それに、小皿なら、今、お渡しできますので」
「今?」
私は思わず聞き返した。
「持ってきているの!?」
「はい」
アレクがにっこり笑う。
「こうなると思っていましたので」
用意が良すぎる。営業優秀賞は伊達ではなかった。
「湊、そっちのバッグを取ってくれ」
「うん」
保木君が頷く。そして、隣に置いていたショルダーバッグを持ち上げた。私は目を瞬く。まさか、あの中に入っていたのだろうか。保木君がバッグを差し出すと、アレクは慣れた手つきで中から小さな箱を取り出した。さらに、丁寧に包装を解いていく。やがて現れたのは、一枚の小皿だった。
「あら……」
私は思わず声を漏らした。綺麗だった。青と白を基調とした繊細な模様。昼にホログラムで見たものよりも、実物の方がずっと美しい。光の当たり方によって色合いが微妙に変化して見える。
「綺麗ね」
「ありがとうございます」
アレクが嬉しそうに微笑む。
「お兄様がお戻りになる前ではありますが、こちらはプレゼントです」
そして、小皿を私の前へ差し出した。
「ぜひ、お土産と並べて飾ってください」
私は小皿を手に取る。思ったより軽かった。けれど、しっかりとした作りだ。兄がマカオから持ち帰ってくる本場の小皿と並べたら、きっと綺麗だろう。
「そうね」
私は微笑む。
「そうさせてもらうわ」
こうなってしまうと、受け取らない方が失礼な気がする。最終的にサービスへ申し込まなくても構わないと言っているのだ。それに、コートには興味がある。せっかく来てもらったのに、何も受け取らずに帰してしまうのも申し訳なかった。
「喜んでいただけて良かったです」
アレクが満足そうに頷く。保木君もどこか嬉しそうだった。すると、アレクが改めて姿勢を正した。
「では、お返事は明後日でよろしいでしょうか」
「ええ」
私は頷く。
「明日の夜には兄が帰ってくるから、その時に話してみるわ。今夜のうちに連絡だけはしておくつもりだけどね」
「そうですか」
アレクは笑顔で頷いた。
「ぜひご検討ください」
そして、少しだけ声を弾ませる。
「コート、本当にお似合いになると思うんです」
「まだ試着もしてないでしょう」
「営業の勘です」
即答だった。私は思わず笑う。保木君も苦笑している。
「サービス対象にできたら、僕たちとしても嬉しいです」
「分かったわ」
私は苦笑しながら頷いた。すると、隣でルークが満足そうな顔をしていた。完全にこちらの返事が前向きなものになったと思っているらしい。
「返事は僕がするよ。母船経由で連絡するから」
ルークが言うと、アレクも当然のように頷いた。
「お申し込みの際は、改めてご説明に伺います」
「また来るのね」
「もちろんです」
爽やかな笑顔だった。私はなんとなく察する。この人は契約になろうがなるまいが、また来る。営業のために。あるいは雑談のために。たぶん両方だ。そんなことを考えていると、保木君が少し遠慮がちに口を開いた。
「あの」
「なに?」
「体験共有プログラムなんですけど」
私は身構えた。またバンジージャンプの話だろうか。すると、保木君は慌てて首を振った。
「飛ぶ以外にもありますから」
「え?」
私は思わず聞き返した。
「そうなの?」
「あります」
保木君が頷く。
「アレクがバンジージャンプ好きなだけで」
「湊」
アレクが真顔になった。しかし、否定はしなかった。どうやら本当らしい。保木君が説明し始めた。
「例えば旅行とか、伝統工芸の体験とか、地域のお祭りとか、地球らしい体験なら対象になることが多いんです」
「なんだ」
私は胸を撫で下ろした。
「それを先に言ってほしかったわ」
「僕もそう思います」
保木君が即答した。アレクは少し不満そうだった。
「でも、バンジージャンプは人気なんですよ」
「だから飛ばないわよ」
「まだ分かりません」
「分かるわ」
私が言うと、保木君が笑った。ルークは相変わらず楽しそうな顔をしている。どうやら完全には諦めていないらしい。私は小皿の入った箱を見下ろす。思いがけない来客。宇宙の百貨店。今日は忙しい一日だった。私は小さく笑った。どうやら、この縁は続くらしかった。




