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私は腕を組みながら考える。死亡後サービス。100万円。体験共有プログラム。そして、バンジージャンプ。普通なら即座に断る話だ。しかし、さっき聞いた内容が頭から離れなかった。――大切な人に早く会える。兄の顔が浮かぶ。子供の頃からずっと守ってくれた人。困った時には助けてくれて、迷った時には相談に乗ってくれる。私が宇宙だの守護者だのという話に巻き込まれても、最後まで味方でいてくれた人だった。
私は小さく息を吐く。兄に相談しようか。一瞬そう思った。しかし、すぐに首を横に振る。駄目だ。相談したらいけない。兄は絶対にこう言う。――必要なら僕が払う、と。間違いなく言う。断言できる。兄はそういう人だ。昔からそうだった。私が困っていると知ったら、自分のことは後回しにしてでも助けようとする。それが月島凰李という人だった。
「どうした?」
ルークが聞いてきた。私は顔を上げる。
「お兄ちゃんのことを考えていたの」
「ああ」
ルークは納得したようだった。
「相談する?」
「しない」
即答だった。すると、アレクが首を傾げる。
「仲が良いなら相談してもいいのでは?」
「駄目よ」
私は首を横に振る。三人が私を見る。私は苦笑した。
「兄が払いそうなの」
アレクが少し考える。
「優しいんですね」
「優しいわ」
私は頷く。
「だから困るの」
保木君が小さく笑った。
「払ってくれそうなんですね」
「絶対に払う」
私は断言した。
「それも笑顔で」
するとルークが頷く。
「払うね」
「でしょう?」
「払う」
「だから相談できないのよ」
私は額を押さえる。兄に無理をさせたくない。それが一番大きかった。兄にとって払えない金額ではない。むしろ払おうと思えば払えるだろう。でも、それが問題なのだ。払えるからこそ払ってしまう。私のために。私はそんな顔を何度も見てきた。
「それなら」
アレクが言う。
「申し込んだ後で報告するんですか?」
私は少し考えた。そして、頷く。
「その方がいい気がする」
それなら兄は後から怒るかもしれない。心配もするだろう。でも、自分で決めたことだと説明できる。少なくとも代金を払わせることはない。
「なるほど」
アレクが感心したように言う。
「お兄様の性格をよくご存じなんですね」
「長い付き合いだから」
私は笑った。兄妹なのだ。嫌というほど分かっている。すると、保木君が少し羨ましそうな顔になった。
「いいですね」
「え?」
「そういう関係」
私は瞬きをする。保木君は照れたように笑った。
「兄とは仲が良いんですけど」
「うん」
「そこまで何でも話す感じではないので」
「ああ」
なんとなく分かった。兄弟にも色々な形がある。私と兄の関係は、かなり特殊な方かもしれない。すると、アレクが言った。
「湊は素直じゃないですから」
「アレク」
「本当です」
アレクは笑っている。
「兄貴に頼ればいいのに、自分で抱え込みます」
「誰かさんに言われたくないけど」
保木君も反撃した。どうやらこちらも似た者同士らしい。私はそのやり取りを見ながら少し微笑む。なんだか楽しそうだった。すると、その時だった。ルークが急に立ち上がった。
「よし」
「なにが?」
私が聞く。すると、ルークが真面目な顔で言った。
「決めた」
嫌な予感がした。
「なにを?」
「バンジージャンプ」
「飛ばないわよ」
私は即答する。しかし、ルークは構わず続けた。
「下見に行こう」
「飛ばないって言ってるでしょう」
「見るだけ」
「見るだけなら」
そこまで言って、私は止まった。危ない。それが罠だ。見るだけのつもりで行って、そのまま飛ばされる未来しか見えない。アレクの目が輝いていた。営業マンの顔だ。
「素晴らしいですね」
「まだ何も決まってないわよ」
「現地確認は大事です」
「そういう問題じゃないの」
保木君が横で笑いを堪えている。どうやら面白がっているらしい。私は大きくため息をついた。しかし、胸の奥では少しだけ思う。兄のこと。未来のこと。そして、自分のこと。今まで考えないようにしていたことを、今日はたくさん考えた。だからだろうか。バンジージャンプは嫌だった。でも、以前ほど即座に拒絶できなくなっている自分もいた。そして、やっぱり兄に相談しようと思った。代金は支払わせない。申し込むときはバンジージャンプをする。
「やっぱり、兄に相談するわ。黙っているのはよくないから」
「ありがとうございます!」
アレクは満面の笑みだった。保木君が吹き出す。ルークも満足そうに頷いている。どうやら私は、一歩ずつ包囲網を狭められているらしかった。その事実に気付いた私は、思わず頭を抱えるのだった。




