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このままだと、私はバンジージャンプを飛びかねない。その提案は却下だと言ったのに、アレクが、そうしましょうよと言った。味方だと思っていたルークまで、完全に敵側に回っている。
「景色が綺麗な場所で飛んだらいいじゃないか」
「飛ばないわよ」
「栃木もいいね」
「飛ばない」
「二回飛べば」
「一回も飛ばない」
保木君が肩を震わせている。アレクは営業スマイルのままだ。私は大きくため息をついた。これ以上この話を続けていたら、本当にバンジージャンプの予約を入れられそうな気がする。危険だった。そこで私は話題を変えることにした。
「そういえば」
私はお茶を飲みながら言う。
「二人のことを、まだあまり聞いていないわね」
「僕たちですか?」
保木君が顔を上げる。
「ええ」
私は頷いた。
「いつから地球に来ているのかとか、どういう経歴なのかとか」
すると、アレクが嬉しそうな顔になった。営業マンだからだろうか。話を聞いてもらうのが好きらしい。
「もちろんです!」
元気よく返事をする。
「その辺りはぜひ聞いていただきたいですね!」
保木君が苦笑した。
「アレクは自分の話も好きですから」
「営業ですので!」
誇らしげだった。私は少し笑う。そして、アレクが姿勢を正した。
「まず、僕からですね」
ホログラムが消える。今度は完全に雑談モードになったらしい。
「僕はベガ中央百貨店の経営者一族の出身です。現在の社長の息子です」
「社長の息子?」
「そうです」
「そんな人が営業してるの?」
思わず聞いてしまった。すると、アレクは胸を張った。
「営業は重要ですから!」
説得力があるような、ないような返事だった。
「将来的には副社長として経営に参加する予定です。そのためにも現場経験が必要なんです。商品開発、販売、広報、営業、全部やらされました」
「大変そう」
「大変でした」
即答だった。私は思わず笑ってしまう。すると、保木君が口を開いた。
「アレクは、営業成績は本当に良いんですよ」
「そうなの?」
「去年は表彰されました」
私は胸元のバッジを見る。
「それ?」
「そうです」
アレクが嬉しそうに頷く。
「営業優秀賞です」
やっぱりだった。私はなんとなく納得した。この人なら取るだろう。話しているだけで分かる。営業が好きなのだ。そして、向いている。
「地球にはいつ来たの?」
私は聞いた。すると、アレクが指を3本立てる。
「守護者として湊の前に現れたのは3年前です」
「最近なのね」
「そうですね」
アレクが頷く。
「湊が生まれた頃から見守ってはいましたから、感覚的にはもっと長いですけど。本格的にコンタクトを取って、こうして地上で活動するようになったのは3年前くらいです」
「その前は?」
「研修です」
「研修?」
「地球文化の調査ですね」
なるほど、と私は思う。だから日本語も自然なのだろう。
「その後は?」
「営業です。地上勤務中の人を見つけたら営業していました。守護者の方や転生者の方を見つけては、百貨店のサービスをご案内していました」
「迷惑がられなかった?」
「時々」
アレクが苦笑する。
「でも、契約も取れました」
本当に営業マンだった。私はお茶を飲む。そして、今度は保木君を見る。
「保木君は?」
「僕ですか?」
「ええ」
保木君は少し照れたように笑った。
「僕は聖アルテマ学園大学の経済学部です」
「あら」
私は少し驚く。
「知り合いの子と同じ大学だわ。烏丸朝陽君っていうんだけど。医学部の子なのよ」
「月島さんから伺っています。彼はとても成績優秀で、大学でも有名なんですよ。朝陽君は一年生ですね。僕は4年生です」
「じゃあ、4月からは?」
すると、保木君が少しだけ嬉しそうな顔になる。
「黒崎製菓に入社します」
「えっ」
今度は本当に驚いた。
「黒崎製菓?」
「はい」
保木君が笑う。
「内定をいただきました」
「すごいじゃない」
「ありがとうございます」
保木君は照れくさそうだった。
「配属はまだ分かりませんけど」
「朝陽君のお兄さんが副社長なのよ。とてもいい人よ」
「そうですよね」
保木君が笑う。なんだか急に身近な存在になった気がした。すると、アレクが横から言う。
「湊は大学でも優秀ですよ」
「やめてよ」
保木君が慌てる。
「本当なんですよ」
「恥ずかしいから」
二人のやり取りに私は笑ってしまった。仲が良いらしい。そこで私はふと思い出した。
「守護者は一人だけなの?場合によっては数人いるらしいけど」
「ええ」
保木君が頷く。
「僕の場合は二人体制なんです」
「二人?」
「メインの守護者はクラウスです」
私はアレクを見る。するとアレクが頷いた。
「僕の兄です」
「ああ、お兄さん」
「はい」
保木君が笑う。
「クラウスが僕のメイン守護者なんです」
「そうだったの」
「アレクは補佐みたいな感じですね」
「営業担当です」
アレクが真顔で言った。
「守護者業務より、営業している時間の方が長いです」
「自慢することじゃないだろう」
保木君が呆れている。私は思わず笑った。
「クラウスさんは何をしている人なの?」
「ベガ軍に所属しています。それと、百貨店の副社長でもあります」
「忙しそうね」
「ものすごく忙しいです。軍の会議と百貨店の会議を行ったり来たりしています」
「だから普段は?」
「僕のところにいるのは、アレクが多いですね」
保木君が言う。
「実はこの近くのマンションに住んでいるんですけど、一人暮らしだった部屋が手狭になってしまって」
「二人増えたらそうなるわよね」
「はい」
保木君が笑った。
「それで少し広い部屋に引っ越しました」
「その事情、分かるわ。うちも3DKなの。古くても、広い部屋が必要だったの。それくらいないと厳しいもの」
「ですよね」
保木君は大きく頷いた。そして、少しだけ表情を曇らせる。
「ただ、親にはまだ話せていないんです」
「そうだったの」
「兄にもまだです」
私は目を瞬く。
「お兄さんにも?」
「はい」
保木君は苦笑した。
「いつかは話したいんですけど」
「信じてもらえない?」
「たぶん」
その返事に、私は思わず深く頷いてしまった。
「宇宙関連には興味がない人なんです。だから、急に守護者がいるとか、宇宙人と同居してるとか言っても」
「普通は信じないわよね」
「そうなんです」
保木君が頷く。私は少し考える。うちは兄が不思議な人だ。未来予知も守護者も宇宙人も、案外すんなり受け入れてしまった。だから、感覚が少し麻痺していたのかもしれない。でも、本来はこちらが普通なのだろう。
「大変ね」
「まあ、いつかは話します」
保木君はそう言って笑った。その笑顔を見ながら、私は思った。宇宙人と同居している大学生。宇宙の百貨店の御曹司。そして、その二人とお茶を飲んでいる私。改めて考えると、とんでもなく不思議な土曜日だった。




