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ファーストコンタクト~私の宇宙人彼氏はお金を出さないけど、光を降らせる~  作者: 夏目奈緒


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11-13

 私はゆっくり息を吐いた。今は、ルークを問い詰めても仕方がない。それに、アレクは完全に失言した顔をしているし、保木君まで気まずそうに縮こまっている。なんだか二人が気の毒になってきた。


「……とりあえず」


 私はお茶を一口飲んだ。


「サービスの説明を聞くわ」


 その瞬間だった。アレクの表情が目に見えて明るくなった。


「ありがとうございます!」


 保木君もホッとした顔になる。どうやら二人とも、追い返される覚悟をしていたらしい。


「本当に助かります……。僕、今日は帰り道にアレクのお葬式を見ることになるかと思いました」

「湊……」


 アレクが悲しそうな顔をした。


「そんなに?」

「かなりです」


 即答だった。私は思わず笑ってしまう。緊張していた空気が少しだけ和らいだ。すると、アレクが改めて姿勢を正した。


「では、ご説明させていただきます」


 ホログラムが再び展開される。そこには青い文字が浮かんでいた。


 ――ブルーハイ・サービス。


 なんだか高級ホテルの会員サービスみたいな名前だった。


「死亡後サービス『ブルーハイ・サービス』です」

「名前は綺麗ね」

「ありがとうございます」


 アレクが嬉しそうに頷く。


「こちらは生前申し込み制になっています」

「なるほど」

「宇宙連合共通通貨でのお支払いになります」


 私は少し身構えた。さっきのネックレスの件がある。嫌な予感しかしない。


「地球通貨に換算すると、およそ100万円です」

「100万円」


 私は少し考える。高いが、500万円のネックレスを見た後だと感覚が麻痺していた。むしろ安く感じる。危険だった。


「なお」


 アレクが続ける。


「地球通貨との両替サービス込みです。地球通貨でお支払いいただけます」

「そういうサービスまであるの?」

「はい」


 アレクは頷く。


「地球在住者のお客様からは非常に好評です」


 完全に生命保険の説明みたいになっていた。私は思わず苦笑する。すると、アレクが言った。


「もっとも」

「もっとも?」

「100万円は高いので」

「でしょうね」


 私が即答すると、保木君が笑った。アレクも苦笑する。


「そこで、別の支払い方法をご用意しております」

「分割?」

「違います」


 ホログラムが切り替わる。大きく表示された。体験共有プログラムと出ている。


「なんですか、それ」


 私は嫌な予感しかしなかった。


「地球での体験を共有していただくんです」

「共有?」

「はい」


 アレクが頷く。


「珍しい体験や感動的な体験を、ベガ中央百貨店の広報素材として使用させていただきます」


 私は瞬きをする。


「広告?」

「広告です。例えばですね」


 アレクが楽しそうな顔になる。


「地球でしかできない体験がありますよね?」

「まあ」

「それを紹介したいんです」

「例えば?」


 私は聞いた。すると、アレクが満面の笑みで言った。


「バンジージャンプなんてどうでしょう!」


 私は固まった。ルークは頷いた。保木君は吹き出した。


「待って」


 私は手を上げる。


「なんでそこでバンジージャンプなの」

「面白そうだからです」

「理由が軽いわ」


 私は即座に突っ込んだ。しかし、アレクは真剣だった。


「地球でも人気です」

「人気かもしれないけど」

「映像映えします」

「宣伝目線でしょう、それ」

「宣伝ですから」


 潔かった。私は額を押さえた。その時だった。ふと気付く。


「ねえ」

「はい?」

「小皿のことといい」

「はい」

「バンジージャンプのことといい」


 私はじっとアレクを見る。


「どこかで見てた?」


 一瞬だけ沈黙が落ちた。保木君が視線を逸らす。アレクは営業スマイルを浮かべた。そして。


「企業秘密です」


 と言った。


「見てたでしょう」

「企業秘密です」

「見てたわね」

「企業秘密です」


 認めたようなものだった。私は思わず笑う。マカオの話も知っている。兄の話も知っている。配信も見ている。どう考えても調査済みだった。すると、アレクが話を戻す。


「マカオまでは遠いので、日本国内でいかがでしょう」

「嫌です」


 私は即答した。


「まだ提案段階ですよ?」

「嫌です」


 即答だった。すると、アレクがホログラムを操作する。岐阜と栃木のバンジージャンプ施設の写真が並んだ。


「景色が綺麗ですね」

「嫌です」

「人気がありますよ」

「嫌です」

「安全です」

「嫌です」


 保木君が笑いを堪えていた。ルークも少し楽しそうだった。私は嫌な予感しかしない。


「交通費などは紫乙さん負担になりますが」

「なるほど」

「アレクも同行で?」


 保木君が聞く。


「もちろんです!」


 アレクが胸を張る。


「広報担当として同行します!」


 絶対に楽しみたいだけだと思った。


「映像を共有していただければ、かなりの金額を充当できます」


 アレクが真面目な顔で言う。私は腕を組んだ。嫌だ。高いところは好きではない。飛びたくない。しかし、私は兄のことを思い浮かべた。いつか必ず別れが来る。それは分かっている。今まで深く考えないようにしていただけだった。私は黙る。ルークも何も言わない。すると、アレクが少しだけ声を落とした。


「大切な人と、少しでも早く会いたいと思う方は多いんです」


 私は視線を落とした。さっきの失言が頭をよぎる。兄より先に死ぬ。その言葉はまだ胸のどこかに引っかかっていた。嫌だ。聞きたくなかった。でも、もし本当にそうなのだとしたら。私は兄ともう一度会いたいと思うだろう。きっと、迷わずに。


「……」


 私はため息をついた。そして、アレクを見る。


「サービスには興味あるわ」


 アレクの目が輝いた。


「本当ですか!」

「でも」


 私は即座に続ける。


「バンジージャンプは嫌」


 すると、ルークが横から言った。


「楽しそうなのに」

「あなたは黙って」

「賛成」

「ルーク!」


 私は思わず叫んだ。保木君が吹き出す。アレクは営業スマイル全開だった。どうやら私は今、宇宙規模の営業攻勢に巻き込まれているらしかった。

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