11-12
私は少し身構える。500万円のネックレスの後である。これ以上すごい話が出てくるとは思えない。しかし、アレクはどこか真面目な表情になっていた。営業スマイルは浮かべている。けれど、先ほどまでの商品の説明とは雰囲気が違った。
「実はですね」
アレクが静かに言う。
「近年、ベガ中央百貨店が最も力を入れているのは、商品販売ではありません」
「そうなんですか?」
「はい」
アレクは頷く。
「サービス事業です」
ホログラムが切り替わる。今度は文字が並んだ。警備サービス。居住サポート。資産管理サービス。そして、その一番下に書かれていた言葉を見て、私は首を傾げた。
「死亡後サービス?」
なんとも物騒な名前だった。すると、アレクが嬉しそうに頷く。
「こちらです」
私は少し不安になる。名前からして嫌な予感しかしない。保木君は気まずそうにお茶を飲んでいた。どうやら内容は知っているらしい。
「死亡後サービスというのはですね」
アレクが説明を始める。
「地球への転生者で、寿命を終えた方を対象にしたサポートです」
「はあ」
「地球で人生を終えた後、多くの方は元の星へ帰還します」
「そういうものなの?」
私はルークを見る。ルークは頷いた。
「人によるけど」
否定はしなかった。どうやら本当にそういう仕組みらしい。私は黙る。アレクが説明を続けた。
「ですが、そこで問題があります」
「問題?」
「再会まで時間がかかるんです」
私は首を傾げる。
「再会?」
「はい」
アレクは頷く。
「地球で大切だった人たちとの再会です。本体の身体に戻って、会いに行くことができるんです。それには、あらかじめ、事情を話しておかなければなりませんが、多くの方が話をされていますから、残された方は、再会を待ち望むんです」
その言葉に、私は少しだけ表情を変えた。アレクは続ける。
「通常ですと、地球での人生を終えた後、各種手続きや帰還処理があります」
「役所みたいね」
「かなり役所です。そのため、再会できるのは最短でも地球時間で3日後になります」
「3日」
「はい」
アレクは頷く。
「ですが、当社の死亡後サービスをご利用いただくと――」
そこで少し胸を張った。
「すぐに会えます」
私は固まった。
「すぐに?」
「すぐです」
「そんなことできるの?」
「できます」
即答だった。私はルークを見る。ルークも見ている。そして。
「できる」
と言った。私は頭を抱えたくなった。宇宙のデパートは何を売っているのだろう。小皿から始まり、最後は死後サービスである。商品の幅が広すぎた。すると、アレクが資料を操作する。
「実際に利用されたお客様からも高評価をいただいております」
「お客様って言うのね……」
「お客様です」
アレクはきっぱり言った。私は少し笑ってしまう。すると、アレクがこちらを見る。
「紫乙さん」
「はい?」
「配信でお兄様のお話をよくされますよね」
私は頷いた。
「そうね」
「とても仲が良いのでしょう」
「ええ」
それは否定しない。すると、アレクは優しく笑った。
「だからこそ、お勧めしたいんです」
私は首を傾げる。その意味がよく分からなかった。そして、次の瞬間だった。
「こちらで紫乙さんのことを見送る方が必要ですから」
その言葉に、私は瞬きをする。
「え?」
「お兄様より先に命を落とされる予定だと、ルークさんからお聞きになっていませんか?」
部屋が静かになった。私は固まった。保木君も固まった。アレクも固まった。そして。
「あ」
と、アレクが声を出した。完全に失言した顔だった。アレクが青ざめる。
「僕、口が滑りました」
私は何も言えない。ルークを見る。ルークは湯呑みを持ったまま止まっていた。
「聞いていないんですね」
アレクが恐る恐る言う。私はゆっくり首を振る。聞いていない。初耳だった。
「アレク」
保木君が小声で言う。
「それ言っちゃ駄目なやつでは」
「駄目なやつです」
アレクが即答した。さっきまでの営業スマイルが消えている。私は静かにルークを見る。
「ルーク」
「なに?」
ルークは落ち着いていた。
「どういうこと?」
「説明すると長い」
「説明しなさい」
私は即答した。ルークは少し困った顔になる。その様子を見て、私は逆に冷静になる。すると、アレクが小さく手を挙げた。
「その前に、本当に申し訳ありません」
深々と頭を下げた。保木君まで一緒に頭を下げている。私は思わずため息をついた。怒る気にはなれなかった。なぜなら、アレクが悪意で言ったわけではないと分かったからだ。ただ、問題は別にある。私はゆっくりルークへ視線を戻した。
「後で詳しく聞くから」
「うん」
ルークが頷く。その返事が妙に素直だった。だからこそ、私は確信する。この話は、かなり長くなりそうだった。




