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どうやら、本当に危険な相手ではなさそうだった。私は少しだけ肩の力を抜く。すると、アレクが嬉しそうに鞄へ手を伸ばした。
「それでは本題に入りましょう」
やっぱり始まるらしい。営業トークである。私は思わず背筋を伸ばした。保木君は横で苦笑している。どうやら、この流れになることは予想していたらしい。
「実はですね」
アレクが得意そうな顔になる。
「本日は紫乙さんに、ぜひご紹介したい商品が三点ございます」
「三点もあるんですか」
「厳選しました!」
自信満々だった。私は思わずルークを見る。すると、ルークはお茶を飲みながら言う。
「売る気だ」
「もちろんです!」
アレクは堂々としていた。むしろ清々しい。そして、鞄の中から、薄い板のようなものを取り出した。空中に映像が浮かぶ。
「わあ」
思わず声が漏れた。ホログラムだった。しかも、かなり鮮明だ。映し出されたのは巨大な建物だった。地球のデパートにも似ている。しかし、規模が違う。見上げるほど高い。そして、建物の周囲を小型宇宙船が飛んでいる。
「これが、ベガ中央百貨店です」
「百貨店なんですか」
「はい!」
アレクが胸を張る。
「創業3400年になります!」
私は固まった。
「3400年?」
「老舗です!」
桁が違った。日本の老舗企業でも驚くのに、3400年である。もはや文化財ではないだろうか。すると、保木君が小声で言った。
「最初聞いた時、僕も同じ反応でした」
「でしょうね」
私は頷く。それ以外の反応ができない。アレクは楽しそうだった。そして、映像を切り替える。
「まずはこちら」
空中に美しい食器が映し出された。美しい小皿だった。青と白を基調にした繊細な模様。どこか見覚えがある。
「あ」
私は思わず声を上げた。
「ポルトガル風?」
「正解です!」
アレクが嬉しそうに頷く。
「マカオ文化保存シリーズです!」
私は思わず笑ってしまった。今日の昼、兄に頼んだばかりだったからだ。
「実は今日、兄にポルトガルの小皿をお土産で頼んだんです」
「なんと!」
アレクが本気で驚く。
「これは運命ですね!」
「営業の人って、そういうこと言うんですね」
私が言うと、保木君が吹き出した。アレクは真面目な顔で頷く。
「言います」
潔かった。私は笑いながら小皿の映像を見る。確かに綺麗だった。飾っても映えそうだ。しかし、アレクはそこで映像を切り替えた。
「そして、二つ目はこちらです」
今度は服だった。深い紺色のコートだ。シンプルなデザインだが、とても上品に見える。
「あら」
私は少し驚く。思った以上に好みだった。すると、保木君が少し照れたように言った。
「これ、僕がアルバイトしているデパートの商品なんです」
「そうなの?」
「はい」
保木君が頷く。
「僕、紳士服売り場じゃなくて、最近は婦人服売り場の応援にも入っているんです」
なるほどと、私は納得した。だから紹介したかったのだろう。アレクが説明を続ける。
「こちらはアメリカのアパレルブランドである『アルケミスト』の商品です。デザイナーはベガからの転生者で、守護者もついています。彼が地球向けにデザインした商品です」
「普通のコートに見えるけど」
「普通じゃありません」
アレクは得意げだった。
「軽量です」
「へえ」
「暖かいです」
「それは大事ね」
「そして、汚れに強いです」
「便利」
私は素直に感心した。冬物のコートは実用性も大切だ。ホログラムのモデルがコートを着て回転している。シルエットも綺麗だった。すると、保木君が少し笑う。
「実は、最近の紫乙さんの配信を見ていて、この色が似合いそうだなって思ったんです」
「え?他の日も見てくれたの?」
私は思わず瞬きをする。保木君は少し恥ずかしそうだった。
「落ち着いた色の服を着ていることが多かったので」
そう言われると照れる。まさか配信を見た大学生に服を勧められる日が来るとは思わなかった。すると、隣でルークが言った。
「似合いそう」
「あなたまで」
「本当」
どうやら気に入ったらしい。私は苦笑した。そして、アレクが満足そうに頷く。
「では、最後の商品です」
来た。どうやら本命らしい。アレクの雰囲気が少し変わる。営業スマイルはそのままだが、どこか誇らしげだった。鞄の奥から黒いケースを取り出す。そして、ゆっくり開いた。
「綺麗……」
思わず声が漏れた。中にはネックレスが入っていた。青白い光を宿した石。まるで夜空の星を閉じ込めたような輝きだった。小さな光が石の内部を流れているようにも見える。
「こちらはベガ製です」
アレクが静かに言う。
「職人が一点ずつ作っています」
私は見入ってしまった。今まで見たアクセサリーとは少し違う。どこか不思議な魅力がある。
「この石は?」
「ベガ星系で採掘される鉱石です」
アレクが説明する。
「感情に反応して微弱に発光します」
「え?」
「嬉しい時は少し明るくなります」
私はネックレスを見る。しかし、ふと現実的な疑問が浮かぶ。
「お高いんでしょう?」
私が聞くと、アレクが営業スマイルのまま答えた。
「はい」
即答だった。嫌な予感しかしない。
「おいくらですか?」
すると、アレクが金額を告げる。地球の通貨での金額だった。私は固まった。500万円と言ったからだ。聞き間違いかと思った。でも、アレクが同じ金額を言う。
「高い!」
思わず叫んでしまった。保木君が吹き出す。アレクは苦笑していた。
「高級品ですから」
「高級品にも程があるでしょう!」
私は思わず身を乗り出す。
「ネックレス一つで!?」
「宇宙連合共通通貨でのお支払いになります。地球通貨ですと500万円ほどですが、ルークさんの一か月分のお給料と同程度ですね」
その言葉に、私は別のところで引っかかった。思わずルークを見る。
「ルーク」
「なに?」
「あなた、お金持ってたの?」
「持ってるよ」
ルークは不思議そうな顔をした。
「前にも話したじゃないか。軍から給料が出てるって」
「そうだったかしら……」
「言った」
ルークが頷く。
「でも、そんなに多くない」
「一か月分で500万円なのに?」
「危険手当が入ってる」
さらりと言われて、私は返す言葉を失った。危険手当の規模がおかしい。すると、アレクが笑った。
「特別な日に身につけるためのネックレスです。結婚式や記念日、そういう場面で人気があります」
アレクは丁寧に説明する。しかし、説明されても高いものは高い。私はケースの中のネックレスを見つめる。確かに綺麗だ。綺麗なのだが。
「私、今日の買い物で洗剤が400円安かったって喜んでいた人間なんですよ」
思わず言う。保木君が完全に笑いを堪えていた。ルークも少し肩を震わせている。
「それをいきなり、500万円と言われても……」
「そうですよね」
アレクもさすがに苦笑した。そして、ケースを閉じる。
「でも、見ていただけただけでも嬉しいです」
その言葉に、私は少し安心した。どうやら無理に売りつけるタイプではないらしい。とはいえ、私はテーブルの上に並んだ商品説明を見て思った。宇宙の営業というのは、思っていたよりずっと本格的だった。
すると、アレクが身を乗り出した。
「実は今日は、商品だけではないんです」
「え?」
「本当にご紹介したいのは、むしろこちらです」
そう言って、アレクは再び鞄の中へ手を入れる。保木君が、ああ、そっちだったのかと小さく呟いた。どうやら、まだ本題は終わっていないらしかった。




