表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人生2周目は、300万円で買ったゴミ山に引きこもります。〜世界崩壊まであと1ヶ月、私だけが知ってる『絶対安全地帯』〜  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/40

第33話

5月8日、木曜日。

世界崩壊から、七日が経った。


噂は、思ったより早く広がった。


「山の奥に、安全な場所がある」


ネロが各地の通信を傍受した限り、その話はすでに複数の生存者グループに伝わっていた。正確な場所まではわかっていないようだが、「北の山道を上った先」という方向性は共有されていた。


「今日は来るかもしれない」


朝食のとき、私がそう言うと、蒼が「わかってる」と答えた。すでに夜明け前から監視塔にいる。


「規模は?」とゲンタが聞いた。


「ネロ、昨夜の観測データを」


「拠点から十キロ圏内で確認できる生存者の移動が、一昨日より倍増している。昨日までの単独・小グループ中心から、今日は十人を超える集団の動きが少なくとも二件」


「武装は」


「うち一件は、ドローン映像で武器らしき形状のものを確認している。ただし距離があるため断定できない」


ゲンタが腕を組んだ。


「来るな」


「来る」と私は言った。「今日中に」


---


最初のグループが現れたのは、昼前だった。


ネロのアラートで情報処理室に入ると、モニターに十二人の集団が映っていた。


「分析してくれる?」


「やっている」


ネロが複数のウィンドウを展開した。ドローンが低空から撮影した映像が、三方向から同時に流れている。


「先頭に子ども二人。その後ろに女が三人。さらに後方に男が七人。男たちはバックパックを背負っているが——」


ネロが映像を拡大した。


「後方の男の一人、右腰に膨らみがある。ジャケットの下だが、形状からしてホルスターの可能性が高い。もう一人、バックパックの外ポケットに金属製のものが見えている」


「武装してる。しかも銃器?」


「ああ。警官から奪ったか、元から裏の人間か。いずれにせよ、まともな避難民じゃない」


ネロが冷たい声で言った。


「少なくとも二人は武装している。構成的に——先頭の子どもと女は、意図的に前に出されている『盾』だろうな」


私は映像を見た。


先頭を歩く二人の子どもは、五歳か六歳くらいだった。疲れた顔をしていた。女たちも同様に消耗していた。後方の男たちだけが、なぜか比較的余裕のある足取りで歩いていた。


「蒼に共有して」


「済んでいる。蒼はすでに後方の男たちに狙いを定めている」


---


集団が正門前に到着した。


今度はすぐに子どもが前に出てきた。女の一人に背中を押されるようにして、インターフォンの前に立たされた。


男の一人が——後方にいた男ではなく、女たちと一緒に歩いていた男が——代表として前に出た。


「お願いします。子どもたちが限界なんです。食料も水もない。お願いだから、せめて子どもだけでも中に——」


「止まれ」


蒼の声が流れた。


「後方の男、右腰のものを地面に置け。バックパックの外ポケットも開けて、中身を見せろ」


沈黙。


男が固まった。


「なんのことを——」


「聞こえなかったか。後方の男、右腰のものを地面に置け。今すぐ」


後方にいた男たちがざわめいた。何か小声で話す声が、マイク越しに拾えた。


私はモニターを見ながら、腕を組んだ。


「ネロ」


「後方の男が二人、位置を変えようとしている。城壁の死角を探しているようだ」


「蒼に伝えて」


「伝えた。すでに対応済みだ」


---


インターフォンから蒼の声が流れた。


「確認が取れた。後方に武装した者が複数いる。子どもと女を前に置いて交渉を試みる意図も確認した」


男が「違う、そんなつもりじゃ——」と言いかけた。


「黙れ」


蒼の声は変わらなかった。


「子どもを盾にする人間と話すことはない。回れ右をして来た道を戻れ。今なら撃たない」


「待ってくれ! 本当に困ってるんだ! 子どもたちは本物だ。俺たちは——」


「武器を持ったまま子どもを盾にして交渉に来た。それが事実だ。釈明を聞く気はない」


「撃つのか!? 子どもがいるのに!?」


「子どもに危害を加えるつもりはない」と蒼は静かに言った。「ただし、武装した大人が一歩でも踏み込んだら撃つ。選べ」


長い沈黙があった。


後方の男たちが再びざわめいた。代表の男が振り返って、何か激しくやり取りをしていた。


私はモニターを見ながら、何も言わなかった。


子どもたちが怖がっていた。泣きそうな顔で立っていた。


可哀想だと思った。


ただ、それは子どもたちに対してであって——彼らを盾として連れてきた大人たちに対してではなかった。


---


最終的に、集団は引き返した。


後方の男たちが先に動いた。代表の男が「覚えておけ」と言い残した。女たちが子どもの手を引いて、来た道を戻っていった。


最後に、女の一人がカメラを振り返った。


何かを言いかけて——やめた。


やがて全員が山道の向こうに消えた。


「追跡は?」とネロが聞いた。


「しなくていい。ただし、別ルートで戻ってくる可能性がある。監視は続けて」


「了解だ」


私はモニターから目を離した。


「蒼に、よくやったと伝えて」


「自分で言えばいい」


「……後で言う」


---


夕食のとき、ゲンタが「今日は何件来た」と聞いた。


「一件。十二人。武装あり、子ども二人連れ」


「撃ったか」


「撃っていない。引き返した」


ゲンタが黙って茶碗を持った。それから「子どもは」と聞いた。


「連れていかれた。武装した大人たちと一緒に」


ゲンタがため息をついた。


「……そうか」


「どうしようもないわ。私たちが全員受け入れて、食料が尽きたら、子どもも含めて全員死ぬ」


「わかってる」


「わかってても、しんどいのよね」


ゲンタが少し目を細めた。それから「ああ」とだけ言った。


シノが「明日も来るかしら」と呟いた。


「来る。今日引き返した人たちとは別の人たちが」


「どのくらい?」


「わからない。ただ——今日が最初じゃなくて、今日が始まりよ」


テーブルに少しの間、沈黙が流れた。


モグが「ごはん、おかわりある!」と言った。


全員が、少し顔を上げた。


「ありがとう、モグ」


私はお椀を差し出した。


外の声は、夜になっても消えなかった。


【世界崩壊から7日目。初めて、武装した集団が来て、去った。星降る森は、今日も揺るがなかった。】



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
集落や村落には洋の東西問わず「大人」が相談役が必要だよな 良い悪いは関係なく話し合いし集落の不満を和らげ精神的に安定した社会には子供やペットや年寄りは必要だよね、強権を使う老害やワガママ暴走する未成年…
主人公がぶれないのが良い このままでいて欲しいけど今回の母子はちょっと気になる ここの住人と同じ匂いがするよね
そりゃ話して入れなかったら逆恨みされちゃう。全員は受け入れられないってわかってるんだし、期待させるくらいならそもそも初めから話しをしなくて良いんじゃないかな。50mの溝と高い土壁(と結界)がある安全そ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ