表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/10

7話

スマホの通知音が部屋の中をこだまする。僕はそれを手に取り画面を見る。「未成年後見制度...」それは妖夢からのメッセージだった。あれから妖夢は僕では言えなかったことを小傘にありありと突きつけた。それから、彼女自身もその空気にこらえが効かなくなったのか、数十分したら僕にその空気を押し付けて帰っていった。昨日、それ以降聞いた小傘の声のは「ご飯できました。」と「おやすみなさい。」のその二言だけ。会話...というより、返事とか報告とか、そんな言い方の方がしっくりと来てしまうそんな言葉だけだった。

...今日も居間からよい香りがしてくるため、きっと小傘は朝ご飯を作ってくれているのだろうけど、どうしても僕は会話の切り出し方がわからなくて。少し考える時間が欲しかったため、僕はメッセージアプリに妖夢から一緒に送られてきていたリンクを踏み、未成年後見制度についての説明に目を通す。「未成年後見制度。親権者による虐待、親権者の死亡などが確認されたとき子どもの権利を保護するために親権者ではない他人がその子供を保護することができるという制度」...らしい。昨日僕は妖夢に話をした。だから妖夢は僕にこう言いたいのだろう...小傘を救いたいのなら覚悟しろ、と。小傘がここに居る理由として、家を失ったことがある。そしてそれは小傘が両親から捨てられてしまったかもしれないこと、両親から虐待を受けていたかもしれないことをどうしても頭をよぎらせる。この背景も知ったうえで妖夢はこれを送ってきた。未成年後見制度...僕に小傘を助けることができるのだろうか。喪失感に苛まれる僕のそばにいてくれた小傘のことを...

「おはようございます、湊さん。」「おはよう小傘。」「朝ご飯、できてます。」「ああ、ありがとう。」それだけの会話を交わし、僕らは食卓に着き食事をとる。言葉を交わすことなくただ黙々と。「なあ、小傘。」「...はい」「昨日妖夢から話されただろ?僕は...」「もう少し...もう少しだけ居させてください...そうしたら出ていきますから。」ただ何かをこらえるような表情で小傘は言う。もうぎこちない笑顔を見せることはなかった。「違うんだ、あれにそう言う意味はなくって...」僕はとっさに言葉を選べなかった。また、小傘を傷つけてしまうかもしれないと、そんな思いが働いて。そうして僕が少し押し黙っていると「食器、片づけちゃいますね。」そう言って小傘は食器をもってすぐに背を向けてしまう。居間には食器のぶつかる音と、外でいまだに降り注いでる雨の音だけが響き渡る。そんなこだまする物悲しい音をいつかのようにテレビの音でかき消すなんてことできなくって、僕は「少し...出かけてくるよ。」と小傘にそう告げ気まずさからの逃避行動をとる。「...傘、忘れないでくださいね。まだ雨は止んでませんから。」「忘れないよ。」カバンを持ち傘を持ち混濁とした心を持ち。僕は玄関の扉を開けて憂鬱な雨との対面を果たす。「行ってくる。」居間に向かってそれだけ言って、僕はあるところへと足を動かした。

そうして「多々良小傘という少女の両親を探してほしいんです。」「...うちに依頼しに来たっていうことは、相当な事案ってわけだ?それなりの金額覚悟しとけよ。」「わかってます。言い値を払うつもりで来てるので。」「いいね、言い値。って言ってなははは。...笑うとこだぞ?ここ。まーいいさ、とりあえず俺らもあんま下手な事案に首突っ込むわけにいかねえからさ。軽く話してもらうぞ?」「...わかる範囲でなら。」そうして僕は彼ら...何でも屋を自称し広告を打っていた彼らに顛末を話す。「...なーるほどねぇ。家出少女をかくまってたら情がわいてどうにか家に置いとけないか模索する誘拐犯ってわけだ。」「...」「なんだ?反論してこないのか?」「社会的に見たらそれが事実なんだって、自分で理解してますから。もしうまくいかなかったらちゃんと警察とかに話して自分も償います。」「...5万だ。」「え?」「5万で受けてやるって言ってんだその依頼。」「5万ですか...思ったよりも安いですね。もっと何十万と請求されるのかと思ってました。」「そりゃそれくらい吹っ掛けたいさ?だけど...俺も少し情が乗ったんだよ情が。ありがたく5万払って帰りな。調べがつき次第紙で送るから。」「ありがとうございます。...できるだけ早めにお願いします。」「人捜しなんて一日もかかんねえよ。寝る前までずーっとポストの中でも凝視してろ。」「頼みます。」「えいえい」そうして、連日続く雨で空気の湿ったその部屋から僕は出て帰路に着く。

「思ったよりも安く済んでよかった。」傘を差しながら足を動かし、カバンの中に入った現金入りの封筒がしっかりあるかをちらちらと確認しながら進む。警察、探偵、興信所。思いつくだけでも頼るべき場所はある。だけど、きっとありのままに相談したら僕は捕まり、小傘は親元に帰る。社会的にはそれが正解で、僕と小傘にとってはそれは不正解。だから、どうせ被害を被る未来があるならと、僕は何かを不通に相談するには芳しくない、いわゆるアングラと言われる何でも屋を訪ねてきた。結果はどうあれこれがだめならもうおとなしく法に則るしかないと、それくらいしか考えが及ばない自分が嫌になる。歩いて歩いて歩いて...そうして僕は家の前まで来たのだが「まさか...」郵便受けに、家を出たときには見覚えのない少しばかし雨に濡れた茶封筒が刺さっていた。そしてその茶封筒の表面には「また依頼しろよ。」とそんな文言が置かれていた。僕は早速中を見ようと家に入る。

「ただいま」中に入ると居間の電気は消えていた。呼吸音が聞こえてきたので見てみると、すでに小傘はソファーの上で丸まって眠っていた。それほど、遅い時間じゃない。いつもならまだ僕も小傘も起きている時間だ。...相当心労をかけてしまっていたのだろう。僕は大きな音をたてないように部屋の中で一息つく。そしてそしてそして。僕はその封筒を開け中を見る。「え...?」思わず腑抜けた声を出す。中にはとある新聞記事と、一枚の紙が入っていた。読んでいくにつれてすべての解像度が上がっていく。「多々良不動産...負債により廃業。」盲点だった。多々良という苗字、あまり見かけない苗字だ。もしかしたら調べればこの新聞記事が出てきたかもしれない。ローカル新聞の小見出しの一つに小傘と同じ多々良の姓をもつ不動産屋の倒産記事があった。それも僕の家から歩いて行けるくらいの距離の場所にあったらしい。負債により廃業、つまり借金が積み重なって経営が滞ってしまったということ。小傘を育てていた両親の会社であろうそこが、だ。だけど、それでは小傘を置いてどこかに行く理由なんてない。家計が火の車であっても小傘を育てることを頬気しなかったことは事実なのだから。そうして僕はもう一枚の紙開く。「は?」声を出さずにはいられなかった。「この世にいない...?小傘の両親が?」紙には女性と男性の顔写真とともに見やすい文字でこう書かれていた。多々良咲、多々良優斗は6月3日をもって死亡したとみられる、と。女性の方は小傘と同じ薄い青色、男性の方はよどみのない白髪。それを見るだけで彼らが小傘の両親だと確信させる、それが死亡した?こんなの大人の僕でも見るに堪えないほどのむごたらしい現実だというのに...だというのにこんなの「小傘にどう伝えればいいんだ...」きっといつかは知ることになるだろう。だけど僕の口から伝えて、小傘の表情がよどむその光景を僕はあまりに見たいと思えなかった。「明日...考えよう。」僕はその場の考えを放棄し、明日の自分にすべてを放り投げて今日を終えるために瞼を閉ざすのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ