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5話

5話

「こ、こんにちは」「あれ?こんにちは。...先輩って一人暮らしじゃなかったでしたっけ。」「そう...だったな。」「そうだったなって、自分の家でしょう?先輩が把握してなくってどうするんですか!それで?こちらの方は?...まさか先輩の恋人!?」「違う。」否定しておかなければいけないので否定する。「こいつは...」ただでさえ妖夢に小傘の存在が伝わって心中ものすごく焦っているのに、そんな中僕みたいな人間が矛盾のない気の利いた答えを返せるわけがなく、必死に頭を回転させていると「お話聞こえてました、妖夢さん?ですよね。初めまして、私多々良小傘って言います。」「これは、丁寧に。魂魄妖夢です。それで、小傘さんは先輩とはどんな?」「簡単に言ったら、親戚ですね。学校がちょっと特殊で行事自体に遠征があるのですが、節約のため湊に泊めてもらいなさいと言われて、それで今泊めてもらっている状態です。」「へ~そうなんですね、学生さん。どおりで若く見えたわけです。恋人だっていうのを否定されたのでてっきり誘拐でもしたのかと。ま、恋人だったとしてもなかなか危ういんですけど。」ドキリと、心臓が大きく跳ねる。誘拐したわけじゃない、だけどはたから見た状況はそれに酷似...いや等しいものだから僕にそれを否定することはできない。「ど、どっちもあるわけないじゃないか。」「ですね。先輩に限ってそれはないですわ。」「妖夢さん、おなかすいてるんでしたよね。よければ何かおつくりしますよ?」「え、いいんですか?...というかまさか先輩、宿を提供しているのをいいことに小傘さんに家事を押し付けてるんじゃ...」「そ、そんなわけ...ある、な。」反射的に否定の言葉が出ようとするが僕はそれをとどめる。実際ここのところ僕がやろうと思った時にはすでに小傘がやってくれた後だっていうことがほとんどになっていた。「それはだめですよ先輩。小傘さんは親の節約のためにこうして先輩の家で過ごしてるわけです。親戚なんてあまり接点が深いわけでもないでしょう?にもかかわらずなんです。だからせめて居心地のいい場所にしてあげなくちゃ。」「違いますよ妖夢さん。」「え?」「押し付けられてなんかいないです。私は好きで、湊さんのためにやってるんです。それに居心地だってすっごくいいです。ずっと居たいくらい...」「そ、そこまでですか?」言うと妖夢はしばし悩むようなしぐさをし「まあ、本人が言うならいいんでしょうけど。でも、」すると妖夢は僕に耳打ちするように「性別が違うと何かとわからないこともあるかもですし、その時は相談してくださいね。...さて、小傘さん!」「は、はい。」「怠惰な湊さんのためにもおひるごはん一緒に作りましょう!さ、先輩はどっか行っててください。今から台所は女の園となるので!」そういって僕は妖夢にせっせと部屋に押し込められる。

そして、作ってもらった昼食を食べ終えて「それじゃあね、小傘ちゃん!まだこっちにいるならまた来るから!」「はい、また是非ご一緒したいです!」そう言って妖夢は玄関の扉をあけ、僕と小傘に手を振って家を出ていく。小傘もそれに対して笑顔で手を振り返す「ふぅ...」僕は深く深く安どのため息をこぼす。「悩みですか?聞きますよ。」「そんなの、わかり切ったことだろ?はあ、何とかごまかせているといいんだけどな...」「いい人でしたよ、妖夢さん。別にそれほど危うい感じはしませんでした。隠しておく必要もないんじゃなかったんですか?」「妖夢も言っていただろ?成人してるやつが小傘くらいの年齢の人間を家においてることは社会的には危ういことだって。妖夢じゃなくても、この関係が誰かにばれたらそれこそ僕は社会的制裁が待ってると思うし...」僕は、つい言葉をこぼす。そして「そりゃ...そうです、よね。」歯切れを悪くして小傘が言う。「ご、ごめん。今のはあくまで客観的に見ての話であって僕自身は小傘には助けられてるし、ずっといてくれてもかまわないと思ってる。」「...ありがとうございます。私、おひるごはんの片づけしてきますね。」「ああ...」小傘はそう言ってぎこちなく笑って見せ、キッチンへと向かっていく。...さっき、妖夢が帰るときに見せた笑顔、僕に向けてじゃなかったけど、あれはいつも小傘がする笑顔じゃなかった。心からの笑顔、僕にはそう感じられた。だというのに...次の就職のめどが立ち始めて少し浮かれていたが故か、突然後輩が家に来たことへの動揺か、そんな程度のことで数刻もせずにその健気な笑顔を僕は奪ってしまった。「...外の空気、吸いに行くか。」僕は落ち着こうと、心を落ち着かせようとそう思い、玄関の扉を開ける。

「...やっぱり、癖、変わってないですね。」「妖夢!?」玄関を出て扉を閉める。その一連の行動を終えると、ドアの裏に妖夢が立っていた。「何で?仕事は?昼休憩だって言ってたじゃないか。」「そのつもりでしたけど、午後休にしました。...先輩。本音で話しませんか?不安定な人間って、自分が思ってる以上に顔とか動き、言葉に出てるんだぞ。昔、私が会社に入って怒られてばっかりだった時に先輩が私に言ってくれた言葉です。これを私が言う日が来るなんてと思います。先輩に対しても、小傘ちゃんに対しても。」「どういうことだ?正直何が言いたいのか全然わからないんだが...」僕は姑息にも妖夢にここから去ってもらうためにはぐらかそうとする。だけど...「今、先輩は外に出てきてる。雨の中、傘も持たずにですよ。それが私にとっては証拠なんですよ。先輩は取り分け大きな悩みがあると、こうして外に出て新鮮な空気を吸いたがる。会社でもそうでした。」「...」僕は口ごもってしまう。だって、その通りだから。実際に僕は小傘に言ってしまったことを悔いて、どうすればいいか、せめて頭を回転させるために新鮮な空気を取り込むために外に出た。それが故にこうして妖夢に鉢合わせているのだから。「私じゃあ先輩の話を聞くには足りませんか?」その言葉に僕は少し揺らぐ。僕は、どうすればいいのか。客観的な意見を聞くためだけの相談は弁護士にでもしておけばよかった。だけど、僕はもっとすべてを打ち明けて、それでも話を聞いてくれる。そんな人間に話を聞いてほしかった。取り分けて僕のことを慕ってくれている妖夢ならきっとそんな相談相手になってくれる。小傘も妖夢なら大丈夫と言っていたしもう話してしまっても、誰かに打ち明けてしまってもいいんじゃないか?だけど、だけど、だけど。それは妖夢自身を巻き込んで僕自身が楽になりたいがための現実逃避であって、きっと妖夢に負担を強いることになってしまう。今の僕と違って妖夢は仕事をしている。そんな中で大きな心労を託してしまっていいのかと、そう思ってしまう。そうして僕が思い悩んでいると、「あ~あ、もう少し信頼されてると思ってたんですけどね~。私が先輩を...湊さんを信頼してるほどには、湊さんは私のことを信頼してくれてはいなかったんですね...」「いや、そんなことは...」「そんなことがなかったら、今頃OOさんの口は私に本音を伝えてくれてると思いますけどね。...私ってそんなに口軽そうですか?私ってそんなに話を聞けなそうですか?これに即答できないのならきっと、先輩は誰かを求めてるんです。きっと湊さんは本当に嫌ならきっぱり突き放すことができる、だけどそれをしない。一人で抱える必要なんて、ないんです。一緒に、考えませんか?」どうしてか、妖夢の言葉には安心感があった。いつか、仕事をミスしていた時の彼女ではない。その時の記憶の中にいる妖夢はもう僕の目の前にはいなかった。だから「...小傘は、僕の親戚なんかじゃないんだ。」僕は妖夢にそう、告白をする。


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