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4話

4話

「ただいま。」「...おかえりなさい。今日はどちらへ行かれてたんですか?」「ただいまに返事が返ってくるようになったのは新鮮だな。今日もハローワークだよ。少し次の仕事の方向性が決まってきた。」「そうですか、お疲れ様です。」家を出て帰宅するときに、誰もいない家の中にかけていた言葉が生きた言葉になって帰ってくるというのはなんとも言えない心地よさがある。...そして僕は小傘に嘘をついた。今日行っていたのはハローワークではなく、無料相談をうたっている弁護士法人を訪ねてきた。それはもちろん、リストラされたことに対して会社を不法解雇で訴えるためではなく、小傘を家に置くことがどのようなことなのかそれを僕自身が再認識すること、そして客観的意見を知るためだった。もちろん、本当のことは言わずに、よくある友達がそういう状況だという程で話をした。その結果、当たり前のように帰ってきた回答は、警察に相談したのちに両親を探す、あるいは保護所に送り、経過を待つ。あまりに、妥当であまりに僕を悩ませるに足る意見だった。...いったいどうしたものなのか。この際小傘にはっきり言うべきなのだろうか。...いや、さすがにまだ突きつけるのは酷な時期、やっぱりもう少し時間をおいてみるべきか...そうして、僕が考えていると、「...ため息、出てますよ。どうしたんですか?」「出てたか?ため息。」「はい、それも結構深めのが。話してくれませんか?ここに居させてもらってる身分、少しでも役に立ちたいので。」「朝はいい香りで目が覚めるし、気づいたらどこもかしこもピカピカになってるし、僕のこと気遣ってくれるしで小傘は十分に役に立ってくれてるよ。...と言っても、小傘はそれじゃあ落ち着かないんだろ?」「...はい。」「まあ僕が今悩むって言ったらそりゃ次の仕事どうするかってところだよな。」「そうなんですね。でも、失業保険?で当面のお金はまかなえるんじゃないんですか?」「まあそうだな。前にも話したけど、それなりに貯金もしてきた身だ、金銭面にはそれほど困らないと思う。」「それじゃあ、次の仕事なんて探さなくてもいいじゃないですか。」「...違和感で仕方ないんだよ。今まで体調が悪かろうとはいつくばってでも会社に行ってた自分が昼間っから家で人の作ってくれたご飯を食べて、そしてぼーっとそれから過ごして日が超える前に床に就く。そんな生活が。」「...すごい珍しいですね。」「珍しい?」「私の両親は隙あらば仕事を辞めたいって私に愚痴をこぼしてたので。それに世の中を見ていても、あまり仕事をしたいっていう人はいないんじゃないですか?」「そうかもな。だけど、少なくとも僕にとっては仕事はそういうものだったってことだ。...小傘はどうなんだ?ここにきて違和感とか、そういうのはないのか?」「そりゃあないとは言えませんね。家具の配置だったり調味料や掃除用具の場所、いろいろ違いますから。」「えっと、そういうのじゃなくって。もっと小傘自身が違和感に感じてることというかなんというか。」「私自身ですか?どうなんでしょうか...でも少なくとも、こうして私を見て、会話してくれる。そんな存在がいてくれるっていうのは少し新鮮で...まだ慣れませんね。いつも、私から始まる会話はすぐに終わるし、私から始まらない会話は私がそれを聞いて、頷いて共感して。そんな言葉のキャッチボールとも言えないものでしたから。」「そっか。...それが小傘にとっていいことだったか悪いことだったかは僕にはわからない。だけど、少なくとも人と話すっていうのはもう少し楽しいものだと思うから。それに僕は小傘と話していて、あの日小傘が僕に声をかけてくれてすごく救われてる。小傘も、自分のしたい話をすればいいと思う、相手が僕だっていうならそれこそ遠慮する必要なんてないからさ。」「...ありがとうございます。だけど、どうも自分の話をするっていうのは苦手なので、何か話したくなったら...話しますね。」「そうしてくれ。」僕は小傘にまた嘘をつき、小傘と話す。僕は、人と話すのがそれほど得意ではないけど、それでも嫌いではない。それは今は亡き両親が僕の話を聞いて、いろんな言葉を返してくれたから。それだというのに小傘の両親はなんなのだろうか。小傘の話だけを鵜呑みにして考えるのもよくないと思うがそれにしたって、人の話は聞かないで自分の話ばかりする、そんな嫌の典型例みたいな両親なのだろうか。また、後悔をする。小傘の両親がいい人で小傘を愛していたと考えなしに思いついてしまったことを。だけど...僕はこれから知っていく必要がある。小傘の両親の名前、どんな人だったか、家はどこなのか、そして、小傘自身はどうしていきたいのか。小傘のためにも...僕自身のためにも。そんな風に僕が考えていると、「」インターホンの音が家の中をこだまする。「はーい。」それがあたかも普通であるかのように、小傘は返事をして玄関に向かっていく。「ちょちょちょ、小傘さん、ストップ。」「はい?」「ここは僕の家だ。そして僕は一人暮らし。」「そうですね?」「だからな、ここに小傘みたいな未成年のかわいい子がいるっていうのは普通の人からしたらおかしな話なんだ。もし外にいるのが僕の知り合いだったりしたら、それはもう大変なことになりかねない。」「...そうですか?」「小傘は部屋にいてくれ。僕が出るから。」「わかりました。」小傘は少しばかり不思議そうな顔をしながら頷き、ソファーに座る。...びっくりした。あまりに普通に出ようとするから一瞬反応が遅れてしまった。僕は少し早くなった鼓動とともに、玄関へ向かい扉を開く。「...先輩」「妖夢か...」ドアを開けると、そこには前の会社の後輩がいた。「先輩、あまりに、あまりに、急じゃないですか。私、今日の朝同僚が話してるの聞いて知ったんです。今日の朝、です...なんで教えてくれなかったんですか!」妖夢は少し目に涙を浮かべながら言う。忘れていた、というわけではないが会社の人とは距離を保って過ごしていたつもりだし、休日に一緒に遊びに行くようなこともした覚えはなく、別に取り分けて報告をするべき相手なんていないと思っていた。後輩の魂魄妖夢だって、少しばかりほかの人よりも多く話をしたり、付き合いの飲み会でつぶれていたのを家で少し介抱したから家のばしょを知っててここにきているだけで、それほど特別何かをしてあげた覚えもない。まして先輩として慕われる理由なんて到底見当がつかず正直わからない。「それで、わざわざ家まで来たのか?」「それでって...私にとってそれくらい先輩が会社にいるっていうのが大事だったんですよ!」「そうだったんだな。」「先輩にとっては普通のことだったかもしれないですけど、新人の時に怒られる私をかばってくれたことも、ミスした時に一緒に残業してくれたことも、得意そうな仕事を優先的に斡旋してくれたことも。全部私は覚えてるんです!だから...寂しいじゃないですか。別部署に配属されてから関わりは減りましたけど、それでも私にとって先輩は先輩です。いなくなるにしても、別れの一言くらいあってもいいじゃないですか...」「ごめん。」僕には謝ることしかできなかった。そんなにも慕ってくれている人がいるなんて思いもしなかった僕が発していい言葉が見つからない。「...そういうわけで先輩。」妖夢は一転して笑顔で言う。「お世話になりました。先輩と一緒に働けて良かったです!」ふぁさっと、かたくなに前に出さなかった右手から少し仰々しさを感じさせる鮮やかな花束を僕に差し出してくれる。「大げさだな。僕にはお世話になりましたの一言で十分なのに。」「大げさなんかじゃないですよ。これでこそ私であり、これでこそ先輩なんです。さ、快く受け取ってください!雨の中来たので少し濡れちゃってますけど、そこはご容赦くださいね。」「...ありがとう。妖夢。」僕は両手でその花束を受け取り感謝を口にする。「いや~、それにしたって寂しくなりますね。今の部署でうまくやれてるものの、一番の頼りがもういないって考えてしまうと。」「そんなに持ち上げられるとさすがに恥ずかしくなるけどな。」「そうですか?私は今でも先輩がリストラされたのには納得いかないくらいに先輩の力を信じてます。」「...そうだな、それは僕自身納得してるわけじゃないから同感だ。」「でしょ?いったい先輩の何を見てきたらリストラなんて...」妖夢が言葉をつづけようとすると、「」奇妙な音が僕の耳に届く。「いやですね?実は昼休憩で抜けてきてて、花を買うのもあったのでお昼まだなんですよねえへへ。先輩、なんかふるまってくださいよ。私には積もる話がいっぱいあるんです。」「ちょ、妖夢、まって」妖夢は言いながら僕と扉の隙間を縫い体を玄関の内側にするりと入れ込む。「別にいいじゃないですか、一度上げてくれたことあったんですし。ああ、先輩がお昼まだなら私が何か作りますよ、ってことでお邪魔しまーす!」両手で抱える花束をくれた本人の前で落とすわけにもいかなかった手前、僕はとっさに妖夢を止めることができなかった。そして妖夢はそのまま居間の扉を開けて...


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